ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第5話
エックスさんが指一本でライフルをくるくる回してる。
器用だなぁ、あの人。
・・それにしても、みんな楽しそう。
なんだか今自分が置かれているこの最悪な状況も、こういう時間の中では忘れられる気がする。
アルス「さてと、そろそろ暇になって来たね」
レック「寝ればいんじゃね?」
ソロ「つまらん!何か話そうぜ」
ムーン「・・あ、それならいいお話がありますわ」
ムーンが笑顔で手を上げる。
ムーン「昔城で父に教わったのですが、面白いなぞなぞなんですのよ」
アルス「なぞなぞ?」
ムーン「まずは何も言わずにお聞き下さいませ。
・・・“ここに1つの大きなチーズがあります。ナイフで1回切ると2等分になります。ではこのチーズを8つに切り分けるには、最低何回切ればよいでしょう” あ、ちなみにチーズはナイフでしか切れないそうですわ」
ソロ「・・なぁるほど。簡単な問題だな。
すぐに答えるのは気の毒だから、俺は黙っておくとしよう」
ナイン「4回切って8等分すればいいのでは?」
アルス「あはは・・・それじゃ問題にならないよ。こういうのはね、想定の回数より少なくできるって相場が決まってるものだよ。ね、エックスさん」
エックス「あぁ。確かにそうだが。
・・・でもこれをバースデーケーキでやったら大ゲンカだな」
アレフ「そうですね。ケーキの切り方がこれではいけませんね」
レック「え、うそ!?みんなもう答えわかってんのかよ!?」
エイト「ナイフでは直線にしか切ることはできませんが、それ以外に条件はなかったはずですよ。・・わかりますか?」
レック「え?え?・・・・・チーズ・・・チーズだからできる切り方・・・。・・・・あぁあ!
そうかそういうことか!くーっひでェ問題だぜ!!」
ソロ「ははは。ようやく閃いたのが正解だといいがな」
ボクも笑いながら、エイトさんの続きを言う。
サマル「直線は直線でも、上から切るばっかりが能じゃないってことだよね。
まず上から普通に2回切って、4等分」
エックス「そしてナイフの向きを変え、横から切って8等分だ」
エイト「つまり答えは3回、というわけですね」
ムーンのほうを見ると、何か意味ありげににこにこと笑っている。
ソロさんは頬杖をついてニヤニヤしている。
・・なんだろう。
レック「え、3回?あれれ・・オレ、1回だと思ったんだけどな・・・」
レックさんが悔しそうな顔でそう言うと、笑っていた2人が顔色を変えた。
エックス「あっはは、そりゃどんな奇跡だ。まさかチーズの中でナイフをカクカク動かしてとか言い出さないでくれよ?」
アレフ「これはどちらかというと数学的な問題ですよ。しかし発想が自由なのは素晴らしいことです」
するとムーンが感心したような顔で言った。
ムーン「・・・驚きましたわ・・・レックさん、すごいですわね」
・・・?
理解できないでいると、ソロさんがクスクスと笑いながら口を開いた。
ソロ「全くな。レックの言った通り、答えは1回だ」
エイト「え・・・?」
ソロ「案の定ほとんどの奴が引っかかったな。
・・おそらくみんなが問題を聞いて真っ先に思い浮かべたのは、よく見かける短い円柱形のチーズだ。そう、バースデーケーキのような形のアレ」
ボクらがポカンとしていると、ソロさんは机の上にあった注意書きの紙切れを見せて言った。
ソロ「問題ではチーズの形状は示されていない。チーズがどんな形をしているかは俺たちの想像に任せられるわけだ。というわけで、これをスライスチーズだと見立てよう。そしてこう、蛇腹に折る」
言いながら、形の整った指で紙切れを折りたたんでいく。
折り終わって広げると、紙の表面ではなく端をボクらのほうに見せた。そこには階段の断面のような6個の折り目があった。
ソロ「本物のスライスチーズならこんなに折ったら千切れちまうだろうが、そこがこの問題のポイントだ。チーズはナイフ以外では切れないとあっただろう?」
あ・・・、そう言えば・・・ってことは!
ソロ「これをこの角度から縦にスパッと切る。そうすればほら、数えてみろ。8つだ」
エックス「な・・・」
アルス「ほ・・・ほんとだ、すごい!」
ソロ「等分は条件に含まれてなかったから、大きさが違っても問題ない。
答えは1回だ」
レック「おお、全部オレと同じだ!」
ボクたちはただただ唖然とした。
ナイン「お2人とも、すごいです・・・」
アレフ「なんと・・・頭が硬かったのは私たちのほうだったのですね」
エイト「お2人は僕たちよりももう1つ上の次元で考えていたというわけですか・・・」
ソロ「それぼどでもないぜ。
しかし、まさかこの問題を解ける奴が俺の他にいて・・・それがよりにもよって
お前とはな、レック」
レック「へへ、言っただろ?たまにしか頭使わないんだって」
笑顔でそう言うレックさんに、ソロさんはまた片頬だけ上げて微笑する。
そしてなぜかボクのほうを一瞬だけ横目で見ると、視線を戻して、また可笑しそうに笑った。
よく笑う人だなぁ。
エックス「・・あーぁ・・・なんか眠くなってきた」
レック「あ、オレも。・・・・ふぁぁ」
あくびをしながら、レックさんがソロさんをちらりと見やる。
するとソロさんはくつくつと笑いながら「好きにしろよ」と言った。
2日目 11時59分 ―レック―
長らく睡眠をとってないのが堪えてきたらしい。
そう気づくと瞼はどんどん重くなる一方で、仕方ないからちょっと眠ることにした。
幸い時間にはまだ余裕があるみたいだし、寝ないでいて倒れたりでもしたら元も子もない。
みんなに軽く挨拶をしてからエックスのあとを追うようにして寝室に向かう。
・・・その時。
・・・・・・・くすくすくす・・・・・・あははははは・・・・・・
レック「!?」
びっくりして振り返る。
サマル「・・・?」
サマルが首を傾げてオレを見た。
・・・違うよな・・・・・。
今、どこからか小さな子供の笑い声が聞こえたような気がした。
サマルじゃないのは確かだ。
でも・・・
サマル「どうしたの?」
レック「ん、いや・・・何でもない」
不思議に思いながらも、オレは部屋を出た。
・・・あの声は、聞こえたというよりは直接頭の中に響いてきた感じだった。
それにあの時あの場所にいたメンバーの声でないことはすぐにわかった。
きっと物質的な音声ではなく、思念体か何かなんだろう。
だとしたら、一体何の・・・・・?
オレはベッドに横たわり、ぼうっと天井を眺めながら考えた。
しかもだ。
振り向いた時、みんな何か異変があったような素振りはなかった。
十中八九、あの声はオレにしか聞こえていない。
オレに何かを伝えるためだったのだろうか。
・・・・・・。
幼い子供の、あどけない無邪気な笑い声。
思念体・・・幼い子供の?
声からして5~7歳くらいの子供が、思念体を発生させるほどの強い感情を生み出す大人びた感性を、果たして持っているだろうか?
あれは思念体ではなかったのだろうか・・・いや、そんなはずはない。
そうでなければありえない。
笑い声・・・・・笑い声か・・・・・・。