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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第5話

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腕の太さとは不釣合いな巨大な両手。それぞれの5本の指には鎌のような爪がある。
4枚の羽は漆黒ながら、天使のそれを思わせるような質感と形状をしている。
ただ、その付け根から絶え間なくどす黒い血がドロドロと溢れ出続けているせいで、背中はてらてらと微量に赤みを帯びた黒い光を放ち、不気味さに拍車をかけている。

まさに、バケモノと呼ぶに相応しいその姿。

みんなはこいつと戦っているのか・・・・・。
・・・ん?あれ・・・・。
・・・・いない。1人、いない奴がいる。
ソロだ。ソロがいない。

なぜ戦いに参加していない?
・・・・・あぁそうか、“犠牲者”だから別行動してるのか。

ソロは、少なくとも今日から1週間は別行動を取らなくていいんだと言っていた。
ということは、これは・・・今オレが見ている光景は少なくとも、1週間より先の未来ということになる。

未来・・・・?未来を、夢で見ているのか、こいつは?

みんなは銃や魔法を駆使して、その異形の怪物と戦っている。
だが何か様子がおかしい・・・・・なんだ?

なぜかみんなは、その怪物に攻撃するのをためらっているようにも見える。
サマルやムーンに至っては、もはや戦うことを諦めたように座り込み、震えながら涙を流している。ナインやオレ、アルス、そしてエックスは悲痛に顔を歪ませて、泣きながら、立っているのもやっとという感じの状態に見えた。

・・・勇者が。世界を救った英雄が。恐怖で涙を流すほどとんでもない敵なのか。

いずれオレたちはこいつと戦うことになるのか・・・・。

その時そのバケモノが、長い腕を振り上げ大きく横に振った。
すると、腕の関節と思われるところが思わず耳を塞ぎたくなるような音を立ててあらぬ方向に曲がり、さらに長く、サーベルのような形に変形した。

そして腕に光が集まり、その光は腕の大部分を包み込み・・・やがて電撃のエネルギー体に変わった。
バチバチと音を立て、電撃エネルギーをまとった腕を怪物はなぎ払うように振るう。

何人かが吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
中でも一番まともに喰らい、血を吹き出しながら地面に転がったエックスはもう虫の息で、立ち上がるどころか電撃のせいで体が麻痺し、意識があるのかもわからない。

そこへ足音で地面を揺らしながら、バケモノが歩み寄る。
そしてその巨大な手でエックスの体を鷲掴みにし、持ち上げる。

突然、バケモノの頭部にある穴・・・口が、グワアっと広がり体の大部分を占めるまでに巨大化したかと思うと、その中にエックスを押し込むようにして突っ込んだ・・・・・。

一瞬の出来事だった。
バケモノが口を閉じる。肉の上から骨が噛み潰されるような音と混じって、ブチブチっという耐え難いような破裂音。

同時に歯と歯の間から、真っ赤な血が噴水のように飛び散る。
ビチャビチャと音を立てて、血が滝のようにバケモノの口から溢れ出て・・・・

耳を劈くようなムーンの悲鳴。ほかの奴らも同じように絶叫、あるいは硬直し立ちすくみ、体を震わせた。

吐き気を催すような地獄絵図。

もう見ていられない。

オレはたまらなくなり、この夢の主が起きていることを願って自分の意識を遠くに飛ばした。


―――――――
―――――
―――


レック「――――ッ!!!」

ベッドの上で、オレは跳ね起きた。
呼吸は荒く、心臓が早鐘のように打ち付け、額には汗が浮いている。
生きた心地がしなかった。

レック(・・・何なんだ、今のは・・・・・・!?)

あまりにも酷い悪夢だ。
目覚めが悪いなんてレベルじゃない・・・・・・。

・・・・一体、誰の・・・・・誰の夢だったんだ・・・・・・・・・。


―――――――
―――――
―――



最悪な気分でリビングに戻る。
どうやら1時間ちょっとしか経っていなかったらしく、まださっきのメンバーがいた。

ソロ「よう、おはよう。早かったじゃねえか・・・って、・・どうしたんだよ死人みたいな顔して」

ソロは相変わらずの苦笑顔で茶化すように言ったが、オレのただ事ではないような雰囲気を察したのか顔色を変えた。

あの夢が頭をよぎる。
そう、ソロはいなかった。
あの時、ソロはあの場にいなかった。

“犠牲者”だったからだ。
“犠牲者”だったから、戦いに参加しなかった。

何故?
みんなは、あのあとどうなってしまうのだろうか?
1人残らず、あのバケモノに殺されてしまうのだろうか?
だとしたらソロはどうなる。1人で残されることになるじゃないか。

・・いや、そんなことはありえない。
あのメンバーで勝てないわけがないんだ。・・・そうだ、全ては筋書き通りなんだ。

オレは意を決し、ソロに言った。

レック「・・なぁ。この後、お前がまた別行動するようになってから、なんか・・・洞窟みたいな場所で黒いバケモノと戦うことってあるのか?」

ソロ「・・・黒い・・?」

レック「黒い羽が4枚生えてて、何十本も触手があって、その先には目が付いてるんだ。腕だけ地面につくくらい長くて・・・」

話している間、ソロは視線を泳がせながら何かを思い出そうとしているようだった。
だが、その表情には明らかに動揺の色が混じっている。
心当たりはあるようだった。

レック「オレたちはそいつと戦うことになるんだろ。それも注意書きに書いてあるのか?」

ソロ「そ・・・・・れは」

いきなり、ソロは視線を落とし黙り込んでしまった。
やっぱり既にわかってることなのか。

レック「何人死ぬんだ?そこで。今知っておいて対策を練れば、誰も死なずに済むかもしれない」

説得するような口調で言うと、ソロは俯いたまま小さな声で

ソロ「・・・・・して・・・」

レック「え?」

ソロ「どうして・・・それを・・・」

レック「だから、言っただろ夢で見たんだって」

ソロ「違う・・・!」

初めて聞いた、切羽詰ったようなソロの声。

ソロ「違う・・・お前が知ってるはずないんだ」

レック「何?」

ソロ「・・そこに、俺はいなかったか?」

レック「ああ、いなかった。だから1週間以上経ってるって言ったんだ」

ソロ「・・・・・・く」

レック「どうすればいい?」

ソロは答えず、またしばらく沈黙した。
オレは急かすようなことはせず、ソロが答えを出すまで黙っていた。

ソロ「・・・・・・・いや、大丈夫だ。俺たちがそいつと戦うことはない」

レック「本当か!?」

ソロ「ああ。お前らが、俺の言う通りに動いてくれればの話だがな」

そう言ったソロの目は、まるでオレを責めるように鋭い色をしていた。

ソロ「もしそいつと戦うことになったなら、・・その時俺はもうこの世界にはいない」

レック「え・・・?」

ソロ「ゲームオーバーってことだ。“犠牲者”が死ねば、このゲームをクリアするのはほぼ不可能・・・お前が見たその夢は、お前たちがどこかで選択を誤り俺が死んだ場合の未来だ」

レック「何・・・を、・・選択を、誤るって?」

ソロ「この際言っておこう。俺の命は、お前たちが握っている。お前たちが首を横に振るか縦に振るかで俺の生き死にが決まるも同然、たったひとつ間違った対応をすればそれで終わりなんだ」