ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第8話
アベル「・・もう行こう。1時間後には戻ってきていたほうがいいんだろう?」
アベルさんに促され、僕たちはまた2手に別れて探索に出かけた。
・・・一時は僕もみんなと同じ考えを持っていたけど、やっぱり最初の僕の予想が正しかったんじゃないだろうか?
だって、ナインさんの話を聞く限りでは・・・彼がその時正常な精神状態にあったとはとてもじゃないが思えない。
やっぱりあれは、幻覚や罠などではなかったのでは・・・・・・・?
そもそも、彼は“犠牲者”だからって何もかも知り尽くしすぎているような気がしてならない。
注意書きにあったと言ってはいるけど・・それを僕たちに見せてはくれないし、どうも嫌な空気を感じるのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
なんだ、・・・そういうことだったんだ。そうかわかったわかった、こんなに簡単なことだったんだ。最初からもう自分で言ってたじゃないか。わざわざご丁寧に、何も言わずにいなくなるなんて決定的な証拠まで残して。
そうか・・・・・・だとしたら。
みんなもう、わかっているんだろうか?
みんなはそれを知った上でああいう振る舞いをしてるのか?
3日目 15時22分 ―ロト―
・・・・・・まさかとは思うが、みんな本当にソロを疑ってるわけじゃないよな?
いくらなんでもありえないだろ。あの状況で・・・無理だ。
それとも何だ?
レックやエックス、アレンたちまでみんなで口裏を合わせて俺たちを騙してるとでも!?
そんなことあり得るわけがない!
これは勇者だからとか、もはやそんな問題じゃない。
ヒトとしての心を、人間性を問われてるんだ。自分のためだけに罪のない人間を何人も殺すなど、許されるわけがない。
ましてや何人もで共謀するなど人間のすることとは思えない、悪魔の所業だ。
一番問題なのは、そんな卑劣極まりない行動の疑いを、仲間である彼らに被せるなんて心無いことができるものなのか。それに尽きる。
・・・・・エイト・・・・。
彼はあまりにも真面目すぎたんだ。あの目は、彼らの潔白を疑っている。
説得する必要がある。
誠実で仲間思いな性格が裏目に出た、疲れきって物事を主観的にしか見れなくなってしまっているんだ。
このまま放っておけば、彼はいずれ疑心暗鬼に取り憑かれ心を病んでしまうだろう。
いくら清く強い心の持ち主でも、自分の物事の解釈を意図的に操作するのは至難の業だ。
同じ1枚の絵でも、見る者やその時の気分などによってその解釈が大きく異なるように。
またその絵を、今のその自分の気持ちではなく、隣で見ている他の人間の気持ちになって見るのが、決して簡単ではないように。
この状況も同じなのだ。1枚の絵だと考えればいい。
悪夢に心を蝕まれ冷静な判断ができなくなればなるほど、俺たちは疑心暗鬼に陥りやすくなる。
清く強く、正しいはずの勇者の心が捻れ、歪み、壊れていく・・・
それがこのゲームなのだ。
このゲームを仕組んだ奴らの目的はそれだ、そうして俺たちに潰し合いをさせる気なんだ。
最初のあの目玉の宣言なんて飾りに過ぎなかった。
エイトは今、奴らの策略に乗せられかけている。俺は初日から彼にはある意味、目をつけていたんだ。
もしもの時、真っ先に危なくなるのはこいつだと。
エイトは・・・頭はいいが、柔らかいとは言えない。極めて真面目で誠実なその性格のせいだろう。今まで一緒に行動してわかったことだが、彼は物事を無意識のうちに危機的に解釈する傾向がある。
悪いことじゃない、命を守る上ではこの上なく大切な考え方の1つでもある。
しかしこのような状況では特に、それは度を過ぎるとかえって自分を追い詰めることとなるのは誰の目にも明らかだ。
彼のような人間にこそ、心から信頼できる仲間が必要なのだ・・・。
いや、いたんだろう。でもその思考はもはや生まれながら持っているものと見る他に術はない。
どうにかして、事態が悪化する前に誤解を解いてやらなければ・・・
取り返しのつかないことになってしまう前に。
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ロト「・・・これだ」
レック「うわ、すっげえ。なんだこれ」
アルス「旅の扉だよ。簡単に言うとワープホールみたいなものかな」
煌々と輝く青い渦の光。血の池にあったあの扉を連想させる。
・・・あそこの鍵を取りに行ったと言っていたな。
もし彼が無事に帰ってこなかったらどうなるのだろうか?
ゲームとしては詰まり状態になってしまうのか。いや・・・こんなことを考えるのはやめよう。
エックス「ここか?」
アルス「うん、そのはず・・・」
アルスが扉に手をかけ開けようとした。が、ガチっと何かが挟まっているような音がして、扉が開くのを阻んでいる。
アルス「あっ、あれ?開かない・・・」
エックス「トラップの影響で歪んじまったんじゃねえの?」
これもおそらく意図的に入れないようにしてあるのだろう。
アルス「うーん・・・困ったなあ」
この時点で、屋敷の中で何も調べていないのはこの部屋だけだった。
入れないとなれば、仕方がない。
レック「・・まぁた外に行かなくちゃならないのか・・・」
レックがため息をつくのにも共感できた。外のあの空気はどうにも慣れられない。
アベル「そうだね。・・・でも、一応待機グループは作っておこう。何があるかわからないからね」
3日目 16時13分 ―レック―
・・・結局、オレは外に出ることになった。
まあ銃の扱いにいち早く慣れたことと、ロト曰く魔法の力が比較的強いことから戦闘必須メンバーに入れられてしまったわけだが・・・
ただ、50分後には戻らなくてはいけないのでそれほどゆっくりはしていられない。
前回はあの血の池まで行くのにどれくらいかかったっけかな?
だいたい30分ぐらいだったか。多分行って戻ってくるのはちょっと厳しいだろう。
すると、行く場所は自動的に決められる。
血の池に行くまでにあった、植物の蔦が絡まり合う気味の悪い森だ。
見るからに何かいそうな感じだったし、戦いの準備は万全にしていかなければ。
念のため、途中でオレが戦線離脱する可能性があることを仲間たちに伝えておいた。
今回の戦闘メンバーはオレと、エックス、アレン、ロト、アベルだ。
・・しかし、どうしてかいつにも増して足が重い。胸の中に何かモヤモヤしたものが溜まってるみたいな感じだ。
そんな気分のせいで自然と口数も少なくなる。
・・・・・あのままソロを見送ったのは正解だったのだろうか。ついてくるな、とは言っていた。でもやっぱり心配で堪らない。なぜだろう、すごく不安になるんだ。何か、・・あいつはあのまま二度と戻ってこないんじゃないかと思ってしまう。
そう考えると気が気でなくなる。
あいつは・・・何かとても重大なことをオレたちに隠してる。それはもう間違いない。
それはきっと、・・傷つきズタズタになった肉塊から剥がれ落ちた肉片を拾い集め、それを大量につなぎ合わせて作った防御膜のようなものの中に、ひっそりと存在する核。
幾重にも重なる、恐怖と警戒心でできた肉片の壁に守られている本質。