ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第9話
一刻を争う事態なのに、・・・なんてことだ。こみ上げてくる悔しさと申し訳なさを振り払うように、オレは走った。
エックス「・・・・・・・・・・・・!!」
やがて先頭を行っていたエックスが立ち止まり、息を飲んだ。
それを見てオレは奇妙な脱力感に見舞われる。そしてすぐに、歯を食いしばって歩を進めた。
ロト「・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・血の跡が続く先に、全身血だらけでまともに目も当てられないような状態のソロが、壁際にぐったりと横たわっていた。
胸の中に重くて冷たいものがずっしりと溜まっているような感覚に襲われた。
オレはたまらず駆け出し、血だまりに膝をつけてソロの上半身を抱き上げた。
名前を呼びながら体を揺するが、ソロの目は開かない。
レック「・・・・嘘だろ・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・。・・息を、していない。体はまだ温かいのに。
・・・・・・・・・・ああ・・・・・まさか、・・・・・そんな・・・そんな・・・・・・・・・・・・。
アベル「・・・・・・・・。」
みんな絶望の表情を浮かべている。エックスは苦虫を噛み潰したような顔をして、うつむいていた。
エックス「・・・・なんでだよ・・・こ、・・こんなのって・・・ないだろ・・・」
握り締めた拳を震わせながら、エックスが目を見開く。
エックス「あ・・・ありえねーよ。こいつが・・・こんな早く・・・」
・・・・・・・その先はとても言えないようだった。
オレも目を伏せ、下唇を噛み締める。不思議と涙は出てこなかった。
あまりにも突然だったからだろうか。
・・その時、ふとソロの右手に目がいった。・・・何か握ってる・・・?
レック「・・・・・・・。」
そっと、その血にまみれた手を開く。
パシャン。
・・・何かがそこから滑り落ちて、血だまりに波紋を作った。
・・・・これは・・・・・・・・
レック「・・・・・・!」
鍵だ。あの青い扉の・・・ひと目でわかった。
黒い色をしているが、血に濡れた部分は光って紫色に見える。
真ん中にあしらわれている青い宝石は、あの扉をそのまま石にしたようにゆらゆらと揺れる青い光を放っていた。
鍵は手に入った、そしてあの鉄の扉から出てくることもできた。
なのに、・・・オレたちが間に合わなかったせいで・・・
・・・・・・・・・オレのせいだ・・・。もっと集中して進んでいればトラップにも気づいたはずなのに・・・・・!
・・・その時だった。少し、本当に少しだけ、ソロの指が動いた。そう見えた。
オレはそれが気のせいだという考えを振り払って、必死の思いでソロの手を握った。
頼む、生きていてくれ・・・・・・・・そう念じながら。
ロト「・・・・レック・・・」
・・・・・・・・・お願いだ、死なないでくれ・・・言ったじゃないか、絶対に死なないって。
わかってるだろ・・・?オレたちにはお前が必要なんだ・・・!
・・・・・・・・・・・・すると。
ほんの僅かに、・・ソロがオレの手を握り返してきたのだ。
それはとても弱々しく、握るというよりはそこにあるものが何か確かめるように・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・そして、うっすらと。
瞼が上がって・・・・・・
ソロ「・・・・・・・・・・・・・レック・・・・・?」
レック「・・・・!!」
オレは声を出そうとした。
・・・だがそれは、・・音になるほんの一瞬前に遮られた。
ソロ「が・・・は・・・ッ!
げほっ、ぐぅ・・・・・ッっが・・・・・・ァぁ・・!!」
目を見開いて、咳き込むというよりは喉の奥に詰まった何かを吐き出そうとしているような・・・そして次の瞬間、大きく咳をしたかと思うとその口から大量の血が溢れ出て、飛び散った。
オレの左頬にビシャっと血の飛沫が飛んだ。
レック「・・・・・・・・・・。」
体が動かない。
アベル「―――・・・死ぬ」
え?
ロト「早く回復を!!」
ロトは体が凍り付いて動かないオレを押しのけて、呻き声を上げながら血を吐き続けるソロにベホマをかけた。
・・・・・・・だが、・・・・・・・・効かない!!?
魔力の発生を表すオーラは確かに確認できたのに、吐血は止まらない。
ロト「・・・・・・!?」
エックス「な、効いてない・・・!」
エックスとアベルもベホマをかけたが、ぐちゃぐちゃに潰れてまともに見られない両足も、爪が破れところどころ肉が剥がれ落ちている手も、一向にもとに戻らない。
エックス「な・・・・・・なんで・・・」
回復呪文が、・・・魔法が効かないなんて・・・・・。
ソロ「ぁぐっ・・・ぐ・・・がぁああ・・―っフゅ・・・っひぅ・・・っ」
ソロの喉元から引き攣るような声と、ヒュー、ヒューという異様な空気音が聞こえ、手足と胴が水揚げされた魚のように痙攣し始めた。
あわててアベルがその体を押さえつけ、懸命に回復を試みるが・・・まったく効かない。
自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。
・・だがその時、同時に何かの記憶がオレの脳裏をよぎった・・・。
なぜ魔法が効かないんだ・・・魔法が、・・・・・・・・効かない・・・・―――
―――――魔法が効く条件!!
そうだ・・・確か、
・・それを理解していること、目が見えること、・・・真実を知る者であること・・・!
オレもみんなも目が見えているから2つ目の条件はクリアできてる、でも1つ目と3つ目の意味がわからない!
暗号を見つけた時点で考えておくべきだった・・・!
エックス「レック、お前のも効かないか!?」
レック「!」
そんなこと、・・・でも確かにまだやってなかった・・・
だけど誰がやれば効くとか、そういう問題なのかも定かではない。
まだ暗号の意味すらわかってないんだ。
ロト「・・あの暗号が関係あるのか・・・!?」
みんなも気づいたらしい。でも・・・
それを理解していること、の「それ」が何なのか、真実を知る者の「真実」が一体何の真実で何なのか、さっぱりわからない。
ああああくそ、今考えてる余裕なんかないじゃないか!!
オレは頭を抱え、ほぼダメもとで魔力を集中させ・・・ベホマを唱えた。
どさっ、という音がして、・・数秒後に静寂が訪れる。
ソロは一気に脱力したように動かなくなった。
冷たかった全身にじんわりと熱が広がっていく。
同時に、今までは気にならなかった自分の胸の鼓動がやけにうるさく感じた・・・。
ロト「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
エックス「・・・・効い・・・たのか・・・?死んでないよな・・・?」
アベル「・・・・・・・・・・・・・・。・・・大丈夫だよ、気絶してるだけだ・・・」
アベルがソロの背中を腕で支え、喉元に手を当てて言った。
実際、ソロはさっきまでと一変して、死んでるんじゃないかと思うくらい微動だにしなくなった。
目だけ見れば眠ってるようにも見える・・・しかし、べっとりと鮮血で濡れた口元と額から流れたらしい乾いた血の跡から、決して体が正常な状態ではなかったことがわかる。
オレはなぜ自分のベホマだけが効いたのか考えるよりも先に、アベルの肩からソロの体を預かっていた。