ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第12話
ああもしかしたら今までの謎めいた言動はこの時のためだったのかも知れない。
まるで“知っている”かのように、常に悠然とした態度。“見透かしている”かのような言葉。
実際、彼のその不思議かつ絶対的な説得力に、僕らは何度も助けられた。
だからだ。今のみんなは、彼の言葉ならきっと信じてしまう。
今までそれで助かってきたのだから、今回もそうなのだと盲目的に。
・・・このままではいけない。
でも、なぜみんなは疑問を抱かないのだろう?
少なくとも、あの屋敷で何があったか・・もういい加減時間は経ったはずだ。なぜ訊かない?
なぜ追求しようとしない・・・・・・・?
あの3人だって、願いを叶えるために生き残れるのは1人だけなのに・・・自分たち以外を全て殺したらどうするつもりなんだ?
そこからまた殺し合いをするのか?
「エイト、そんなところで何をしてるんだ?」
!?
エイト「っ・・・・・・・ロトさん」
・・彼は困ったような顔をして僕を見ていた。手には1冊の本。
・・・・白い表紙だ、あの本は知らない。
ロト「・・・・もう4時が来るぞ。いい加減寝た方がいいんじゃないのか」
エイト「いえ・・・眠ろうとはしてたんですけど、どうも寝付けなくて。・・いつもそうなんです、僕・・・疲れすぎてると」
心臓は早鐘のように打っていて、額からは変な汗が滲んでいる。
でも自然に、自然に・・・少し疲れたような笑顔を作って答える。
エイト「ロトさんこそ、こんな時間に何の用事ですか?」
ロト「俺も同じだ。なかなか眠れなくてすることもないから、本でも読もうと思ってな」
・・・・・・・・・・・・・。
エイト「そうですか。・・やっぱりこんな状況じゃゆっくり眠ることなんてできませんよね」
ロトさんはそうだな、と少し笑って、僕の横を通り過ぎようとした。
しかし通り過ぎた瞬間、ぴたりと足を止めた。
エイト「・・・・・・・?」
ロト「・・・エイト」
エイト「何ですか?」
・・少し間を置いてから振り返ったロトさんは、ひどく真面目な顔をしていた。
ロト「あまり思い詰めない方がいいぞ。・・俺もレックもソロも、ムーンがなんで死んじまったのかはわからないんだ。話しようがない。それだけはわかってくれ」
エイト「・・・・。」
ロト「ただ不運なだけだったんだ。理由なんて何もない。誰も疑う必要なんてない。だけど・・・そのうち、必ず話す。あの時何があったのか、あいつの口から直接話させる。
だから誰も疑わないでくれ」
エイト「・・・何の話ですか?」
ロト「エイト・・・・」
ロトさんは悲しげな目をして、きょとんとしている僕の肩に手を置いた。
ロト「お前は少し疲れてるだけなんだ。誰も嘘をついてなんかいない。いいから、一度考えるのをやめてゆっくり休め。・・そうすれば、本当のことが見えてくる」
エイト「・・・・・・あの・・・」
ロト「・・・・・・誰も、誰かを殺そうとなんて考えていない。それだけは信じてくれ」
・・ロトさんはまっすぐに僕の目を見つめてそう言うと、唖然とする僕を置いて歩き出した。
そのまま廊下を曲がり、その姿は見えなくなってしまった。
エイト「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・僕の考えが見透かされてる?
・・・・・・・。
・・・・・・・・・駄目だ、気を抜いていたら向こうの思うつぼだ。
僕はもうわかってるんだ・・・あの人がムーンさんの死を話せない理由が。
何か解決策を考えないと・・・・・・・
5日目 03時49分 ―レック―
・・・・・はぁ・・・・・・・・・。
・・オレは、ソロの部屋にあった本を手に持ってベッドに腰掛けたまま、何もする気になれないような感覚に襲われていた。
こんな気分になるのはいつ以来だろう。旅をしていた頃に、狭間の世界で無気力状態になった時を彷彿とさせる。
・・あいつが他人に弱みを見せたくなくなるのもわかる。
ああいった言動をしてしまうのも今なら充分理解できる。
誰かに自分より上に立たれると。自分より優れた者と触れ合うと。
虫けらのように扱われていた、あの地獄の日々を思い出すのだ。
それが耐えられなかったから、誰よりも優れていようと、誰からも見上げられる存在になろうと努力した結果が今のあいつなんだろう。
ロベルタだって、人を殺すということがどういうことか理解してないわけじゃないはずだ。
あえてその理由を直接問うことはしなかったが、訊かずともわかった。
・・・わからない奴にはわからないだろうけど。
オレはしばらくそのまま呆然と床を見つめていた。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。
持っている本に目をやった。「見捨てられた異端児たち」と書かれている。
ソロはきっと、俺がこうすることを知っていてこの本を部屋に置いていったんだろう。
シンシアさんのことを伝えた時、いつか本当のことを話すと言っていたが・・・
結果的に、実際にそれを話したのはソロではなく、あいつであってあいつではない・・・ロベルタだったのだ。
こんな形になるとは、思わなかった・・・。
・・・・これは、予期していなかったことなんだろうか?
そんなことを考えながら本を開き、ページをめくっていった。
すると1枚の紙が挟まっていた。とりあえずその紙は出しておいて、そのページを見てみると――
『・天に生きる者との混血
飛燕竜や神に近い生物とヒトを交わらせることは不可能であった。
そこで、比較的ヒトに近い姿をしており、地上からの高度もさほどない空域に住む者との生成を試みたところ、驚くべき発見があった。
天空人:天使の如き翼と卓越した寿命を持つ種族。ヒトの背中に翼をつけたような姿をしており、浮遊及び飛行が可能。限られた一部の者はヒトとは比べ物にならない知力を持つと言われている。一昔前まではオリジナルの言語を使用していたが現在はヒトと共通であるようだ。
混血種:一般に、天の者との混血を示すミクストム・ヒズ・カエリ(MThK)と呼ばれる。
血液の濃さによって外見が変化することはあるが、翼によって浮遊・飛行するなどの能力は備わらない。が、MA.d同様ヒトの何十倍もの寿命を持つ。
しかし、特殊な例によりその特性は大きく変化することがわかった。
一部の卓越した頭脳を持つ者との混血を試みたところ、突然変異種が誕生することがわかった。』
・・・・・・・これは・・・・・・・・・
まさか。
ソロは天空人と人間の混血だということだろ?
だったら・・・
『突然変異種:ミクスタ・メティクローサ(MT.kWS)
“恐るべき混血”を意味するこの学名は、実際にそれを目にした生物学者が名づけたものである。
彼らは永久不老の体を持ち、寿命を持たない。
また一部の者は細胞の生成に失敗し、粘着質の液状化した状態で生まれてくることがある。自然にヒトと同じ形状を5年以上保ち続けるケースは稀で、未だ数十件しか報告されていない。
しかしヒト型のまま生まれ、そのまま育つことができたMT.kWSに共通する特徴が近年発表された。
・本能的に他生物を殺傷する傾向がある