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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第13話

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“心を蝕む状況”っていうのは、どんなに気を張っても、どんなに自分自身の意思を高めても、そうそう敵う相手じゃない・・・・・。

ソロ「・・・・・・・・・・・・・・。」

その時ふと、黙って目を瞑っていたソロさんがボクの方へ歩み寄ってきた。
そして手を翳すようにして、ボクの両目をゆっくりと閉じた。

それからしばらくの間の記憶はなくて、一切何も覚えていない。
きっと覚えてなくてよかったんだと思う。

気が付くとソロさんとアルスさんが、床に横たわったアレンに何かの処置をしているところだった。血だまりが広がっている。
ぞわっと背中に冷たいものが走った。

サマル「・・・・・ぅあ・・・アレ・・ン・・・ッ」

声がうまく出ない。

ソロさんが何か木の枝くらいの太さの白い棒を、アレンの腕に繋がるようにあてがって・・・あれ、違う・・?
あれ・・・・って、腕の中に・・・・挿して・・・・・・

・・・・・・・奥歯がカチカチと音を立て始める。

そのまま上から包帯をすごい速さで巻いてる。
アルスさんはあの小さな透明な棒―中に薄い水色の液体が入った―をアレンの手首に押し当ててる。ボクにしたのと同じだ、痛み止めってソロさんが言ってた・・・・・

サマル「アレン・・・・!」

必死で体を起こそうとしながら叫んだけど声にならなかった。でもベッドが軋んだ音を立てたおかげで、2人ともボクに気付いてくれた。

アルス「!」

ソロ「大丈夫だ。瀕死だが生きてる」

立ち上がりながらそう言ったソロさんの足元に、右腕と右足がなくなったアレンが横たわっていた。うっすらと目を開けて苦しそうに息をついている・・・。

自然と、涙が出た。よかった、アレン死んでない・・・生きててくれてる・・・ボクを置いていかないでくれた・・・・・・・・。
その安心感で胸がいっぱいになった。

音もなく、ボクの頬を温かい雫が伝い落ちていく。

アルス「・・・次はボクの番みたい」

気が付くと、アルスさんの足元に赤い光がぼんやりと見えた。
・・嫌だな、見たくないな・・・

サマル「・・・・・やだ・・・・こんなのやだよ・・・・・・・・・」

やっと出たのは消え入りそうなほど小さな声だった、自分でもびっくりした。

ソロ「・・・・。」

いつまでこの地獄は続くんだろう。

――――――
――――
――

5日目 08時00分 ―レック―

レック「うっ・・・・くっ・・・・・・・」

朦朧とする。
何もしていないのにまるで激しい運動をしているかのように苦しい・・・肩を上下させて喘ぐ他何もできないも同然だった。

ソロが言ってた意味がやっとわかった。内容を話さなかった理由も。
こんなの、言えるわけがない。

オレの左手は指と指の間から縦に肘まで切り裂かれている。それが親指と人差し指の間を除いて3箇所、手はまるで肘から4本に枝分かれしているようにも見えた。

これ以上ないほどきつく包帯を巻いておいたから出血は多少防げると思うが・・・
このままだと多分死ぬ・・・。

確か、1つのフロアをクリアしたら魔法が使える待機所に行けるんだよな。
あとどれくらいかかるんだろう。

・・・・・1枚だけガラスでできた壁の向こうには、バカでかい妙な形をした透明の容器が、天井からぶら下がっている。
オレはゆらゆらとピントの合わない視界を細めながら、それを眺めていた。
中には3分の1くらいの量の赤い・・・液体と・・・なんだあれは、白い・・・?底には赤黒い塊、ひき肉みたいなのも沈んでる。

それが何なのか想像するのはあまりに簡単で、あまりに・・・・・

・・・・・・・・・・・どうやらあれの中に、自分たちの血か体の部位を一定の重さまで入れないと次の部屋に行けないらしい。
「血の肉を捧げよ」ってのはそういう意味だったのか・・・・
そのために血を絞り出すなり吸い上げるなり、体の部位を取って入れるなりする装置や道具があるわけだ。

なんつーかもう、趣味悪いとかいうレベルの話じゃない。

エイト「ぁうっ・・・く・・・ぅ・・・・・・・ああぁ!!」

何度目かのぐしゅりという音のあと、下の方から悲痛な叫び声が響いた。
オレは耳を塞ぎたかったが、残念ながら手がそんなことをできる状態じゃなかった。

エイト「っ・・・・・・・、ぐ・・・」

どさり、と後ろの方で何かが床に倒れる音がした。
もうこっちに転送されたのか。

やっとの思いで立ち上がり、息を切らせながらオレはエイトのもとに向かった。

激痛に顔を歪ませ、うずくまり気味に体を折って倒れているエイトの左半身には、コインほどの大きさの小さな穴が大量に開いていて、その淵は何かに溶かされたように爛れていた。

中身を抜かれたんだろう。

エックス「・・・・・くそ・・・ひでえな」

骨と皮だけになった右腕を抑えながら、エックスが顔をしかめる。
・・・・・・早く出血を抑えて、やらないと・・・・・・・

ふらつく頭をぐっともたげ、治療の道具が入った木箱に無事な方の手を伸ばす。
包帯と一緒に入っていたそれに、オレは目を瞠った。

円形の白い嵌め具のようなものがいくつかある。
すぐにわかった、これはあの穴状の傷口を塞ぐためのものだ。
これで出血はかなり防げるはず・・・!

だがその時オレの手は、はたと止まった。だって当たり前だ、あれにこんなのを無理やり詰めようものなら一体どれほどの激痛が身を焦がすだろう?

気絶できないのが本当に痛いな・・・・・・

・・でも、やらなければきっと血が足りなくなってやがては・・・・・

・・・・・・・オレは息の詰まるような思いで、エックスに白い嵌め具をいくつか手渡した。

目を瞑ったまま苦しそうな呼吸を繰り返すエイトに、血を止めないといけないから、痛むけど我慢してくれとだけ言って目を塞いだ。


エイト「・・・・・ッひ・・ぁ゛・・・」

もう叫ぶ力は残っていないのか、絞り出すような呻き声と苦しげな息遣い、震える右手で服の襟元を鷲掴みにして微動だにしなかった。
体は強張り固まって、涙を流しながら歯を食いしばっている。

そんな痛みを生み出しているのが自分たちだから余計に痛々しく、いたたまれないほどに心苦しかった。

エックス「・・・・・・・・・・・・。」

エックスもきっとオレと同じような心境だろう。悲痛に顔を歪めていた。

3人共に地獄のようだった数分間が終わると、体からどっと汗が吹き出た。
・・・・・・・ああ・・寒い。さっきまでは平気だったのに、どうしてこんなに寒いんだ。
胃がひっくり返りそうなほど気分が悪い。頭痛もひどかった。

ふと自分の左手に目をやると、包帯は完全に血で真っ赤に染まり指先から雫が滴っていた。外して絞ったらかなりの量の血が出そうだ。
いつの間にこんなに・・・床には血だまりができている。
もうすぐ次の部屋に行けそうだが、一応もう一重巻いて・・・・・

・・・・・・・・その時、ふっ、と体が何もないところに放り出されたような気がした。
体の正面に強い衝撃を感じた。・・それが自分が倒れたからだと気付くのに、数秒かかった。

レック「・・・・・・・・・・?・・・」