ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第16話
・・・・・・・レックはそれを見つけてきた・・・・・・・・・。
ガラスでできた、10センチくらいの細長い容器。中には無色透明な液体が入っている。
これが〝針〟なのか・・?
アルス「回復は・・・まだしちゃいけないんだよね・・」
アレン「・・・ああ」
レックは驚くことに、自力で穴から出てきた。
サマルやナインたちが体中に刺さった棒を引き抜き、穴の中に投げ捨てている。
俺たちは普通に穴の真上に立っているのに、投げ入れた棒は見えない床をすり抜けて穴へ落ちていくのだ。
レックが上がってきた時も、そのすぐ後ろに俺は立っていた。
レックも今は、見えない床の上に倒れている。意識はあるがまだ少し朦朧としているようだった。
レック「・・・・いっ・・・つ・・・。もうちょいやさしく抜いてくれよ」
苦笑交じりにサマルを見上げ、冗談っぽく言った。
サマル「ぁ・・・ごめんなさい」
アレン「・・たいした奴だな・・・これだけの傷を負って笑ってられるのか」
レック「はは、タフだろ?」
ナイン「だ・・・・大丈夫ですか・・・・?あまり喋らない方が・・・・」
レック「平気、死にはしねえよ。エイトとソロは無事か?」
アベル「うん、・・どっちもまだ意識は戻らないけど」
レック「・・・・・・・ソロは、今起こしても大丈夫そうか?」
ロト「いや・・・どうだろう、まだ回復しているか・・・」
・・・・あの黒い何かがまた現れないかが心配だった。
気を失っている間はなんともないように見える。
やはり、もうみんなに知らせておいたほうが良さそうだ。
7日目 12時34分 ―レック―
ロトが突然、みんなに知らせておきたいことがあると言い出した。
それはさっきソロが倒れた時、見たものだったらしい。
黒いもの。ソロが気絶した途端消えた。
そのせいで流血や吐血が起こっていた。
毒や呪いの類とは考えにくい、と。
・・オレには心当たりがあった。でもそれを考えようとすると、無数の傷口がズキズキと痛んだ。まだ血は完全には止まっていないが、かなり楽になったはずなのに。
オレの心の奥で、オレの意思とは無関係な本能が、考えることを拒否しているようにも思えた。
・・・・・・・・・
生まれてから700年・・・理性の暴走・・・・
・・・・・・人類を淘汰する・・・・・殺傷本能・・・・・・
・・・・細胞の異常変形・・・・・・
再覚醒せし者・・・・・・・・・・・
・・・・夢で見た、あの黒い化け物・・・・・・・・!!
レック「・・・・・・・・・!!」
―――お前たちがそいつと戦うことになったら―――
・・・対細胞用の抗体・・・〝凶暴化〟を防ぐ・・・・・・
・・・・そう、か。そういうことか。
謎が解け、霧散しかけていた記憶が呼び戻された。
オレが見つけたあの透明な液体こそ、オレが探していたものだ。
そしてそれが必要になる時が、もうすぐ来るのだろう。
間に合ったんだ。あの化け物とは戦わずに済むんだ。
・・・・ソロ、・・・・・オレ・・・・・わかったぜ。
お前が何を伝えたくて、何を考えていて、何を見ていたのか。
―――――――
―――――
―――
―
その後、オレたちはそこを出て屋敷へ戻ることが出来た。
ソロの意識が戻り、もう回復魔法を使っても大丈夫だと言った。
エイトも無事だった。
・・・・・・・誰も知らないところで、ひとつの危機が生まれ、膨らみ、そして消えた。
誰も知らないうちに。
オレはその観測者だった。・・・人知れず消えていった未来の可能性を唯一知っている・・
だから、その時を逃すわけにはいかないんだ。
悪夢を現実にしないために。
夢を知る者として。
7日目 17時19分 ―サマル―
ソロさんは、全員無事で帰ってこられたのは、まさに奇跡としか言いようがないと言っていた。自分が迷惑をかけたと謝ってもいたけれど、本当に安心しているのが表情でわかった。
みんなそれぞれに、今は休憩している。
・・・・・・ボクは少し緊張しながら、本を読んでいるレックさんに声をかけた。
レック「・・・・話すって何を?」
サマル「ううん、ちょっと聞きたいことがあるだけなんだけど・・・」
ソロさんと3人で、少し話したい事があると言った。
レック「・・もしかして、前の屋敷であったことか?」
ボクは頷いた。
レック「・・・やっぱお前にも・・・・・・
・・ん、ああごめん、気にすんな」
・・・・・・廊下に2人の足音が小さく響いている。
サマル「・・レックさんはいつから知ってたの?」
レック「言われるまではわからなかったさ。ある意味な。でもロトもちゃんとわかってくれてる」
あいついい奴だよなぁ、とレックさんは言った。
ボクは当たり前だよ、と言いたくなったけど、少し微笑むだけにしておいた。
・・・・・・・・・・・・
レック「・・また変な夢見た、とか言って騒いでなきゃいいけどな」
レックさんは冗談交じりに笑いながら、ノックもせずに扉に手をかけた。
サマル「え・・・いいの?」
レック「いいよ」
扉を開けると、ソロさんの後ろ姿が見えた。
音でこっちを向くかと思ったけど、そのまま動かない。
代わりにその手から、ガランッと何かが床に落ちた。
レック「・・・・・・・・っ」
それはボクの見間違いでなければ、・・ナイフだった。
刃先に血の付いた。
途端、レックさんが息をのみ、歩いて行ってソロさんの肩を掴むといきなり壁に叩きつけた。
サマル「!?」
何を・・・と言いかけて、ボクは口をつぐんだ。
黙っていたほうがいいと直感で分かったんだ。
レック「・・何やってんだ?」
その時のレックさんの声は低くて、まるで別の人みたいだった。
ソロさんは呆気にとられているのか、ポカンとした表情のまま何も言わない。
レック「いつ起きたのか答えろ」
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・」
ソロさんは目を伏せ、床を見つめている。
・・・・・今にも泣き出しそうな表情をしていた。
そして突然、両手を前に突き出してレックさんを突き飛ばした。
サマル「えっ?」
レックさんは後ろにあった机にぶつかって、少しよろけた。
その間にソロさんはボクを押しのけて、部屋を飛び出していってしまった。
レック「・・・っごめんなサマル、ちょっと・・・待っててくれ」
レックさんはすぐにそのあとを追いかけていった。
サマル「・・・・・・・・・・・・・・」
一人残されてしばらくぼうっとしていたけど、様子が気になってボクも部屋を出た。
・・・・・・・・廊下の奥からレックさんの声が聞こえた。ソロさんの声も聞こえる。
そうっと耳を澄ましながら、声のする方に歩いていく。
するといきなり、今まで聞いたことがないくらい大きな声でソロさんが何か叫んだ。
「知らない!」って言ったように聞こえたけど・・・
ボクは思い切ってそっちに走っていった。
レック「・・サマル。やっぱ来ちゃったか」
困り顔でレックさんが言う。
部屋の角にソロさんが座っていて、その目の前にレックさんが立っていた。