ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第18話
石壁には小さな消えかけのランプがあり、暗い通路を不安定に照らしている。魔物の爪の跡のようなものや、地面には何かを引きずった跡、茶色く乾いた血の跡にも見える染みもあった。
前を見ると、道は途中で分かれているらしく壁が見えた。
ソロ「・・・ん?」
ふいに、ソロが足を止めた。
レック「・・どうした?」
ソロ「・・・・2人とも、ちょっとこっちに来い。・・静かに」
オレたちは2つに分かれた道のうち、右側に進んだ。
だがそこはすぐに行き止まりとなっていた。
レック「・・・・・何でこっちなんだ?」
声を出さずに聞く。
ソロは返事をせず、オレを一瞬だけ見て唇に人差し指を当てた。
そして身を低くするよう指示を出し、通路の様子を伺った。
サマルが不安そうに視線を泳がせる。
・・・しん、と通路内が静まり返る。
するとそれに合わせたかのように、通路の入口の方・・・オレたちが入ってきた方から僅かに、足音が聞こえてきた。
その瞬間、ソロもさっと膝を曲げて身をかがめた。
レック(・・嘘だろ?)
どういうことだ?
ソロを見ると、ひどく警戒した様子で通路内に響き渡る足音に耳を澄ましている。
予想してはいなかったようだ。
・・・・・・・・・・・・コツ・・コツ・・コツ・・コツ・・・・。
足音は近づいてくる。
ふと、サマルが言っていたことを思い出した。
――自分以外の時が止まって、どこからともなく足音が聞こえたこと。
足音・・・・・・・・・・。
・・・・だいぶ近くなってきた。
するとソロが何かに気付いたのか、はっと顔を上げ・・・
・・・・・・オレとサマルの肩をかなりの力で掴んだ。
オレは・・たぶんサマルもだが、一瞬体がサァっと冷たくなった・・・が、すぐにそれがどういう意味なのか悟った。
絶対に声を出すな。音も立てるな。
・・・・・・・コツ・・コツ・・コツ・・・・・・・
近づいてくる足音と、次第に早くなっていく自分の心臓の音だけが聞こえる。
呼吸をすることにさえ、息苦しいほど体力を消耗している気がする。
足音は、もうすぐそこまで来た。
どうする気なのか。まさかこのままやり過ごそうとしてるわけじゃないよな?
だってここ、まっすぐの道にただ垂直な一本道がT字になって繋がってるだけなんだぞ?
その右側の道が行き止まりで、もう片方は奥に続いてるだけで・・・
まさか、相手は奥に行くだろうからこっちは見ないなんて考えてるわけじゃないだろ?
だってT字になってんだぞ・・・・?
そもそも今近づいてきてるのは一体何なんだよ?
この世界にはもう誰もいないはずだろ・・・・!?
その時。
足音の主が、オレたちの前に姿を現した。
レック「・・・――――!!!」
目を疑った。本当に自分の目を疑った。
それは、・・・・・今オレの隣にいるのと同じ人物だった。
間違いなく、
・・・・・・・・・ソロだった。
息を呑むことすらできずに、オレの目はそいつに釘付けになった。
片手にショットガンを持ち、もう片方の手にある白い紙を眺めながら、少しの間立ち止まって一度地面に視線を落とすと・・・
・・オレたちのいる右側の通路には見向きもせず左へ曲がり、奥へ進んでいった。
・・・・・・オレは目線だけでソロの横顔を見た。
蒼白で、額には汗が浮かんでいる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・しばらくそのまま動けなかったが、やがてソロが立ち上がり、長く息を吐いた。
ソロ「・・・・・・・・・・どういうことだ・・・・・・・・・・?」
レック「・・オ・・・オレらが聞きてえよ」
オレたちは小声で話しながら、左側の通路を進んでいった。
サマル「・・こんなにどんどん進んじゃって大丈夫なの?」
ソロ「ああ。確か止まったり振り返ったりはしなかったから大丈夫だ」
レック「・・?どういう・・・」
・・意味なんだ?
ソロ「ここは俺がこのゲームで“犠牲者”として一番最初に通った道だ。同じだったんだ、全部。
右手にSPAS12を持って、左手で注意書きを読みながらここを通った。仕草も全部同じだった。
・・しかもあの時は、確かにここで人の気配を感じた・・・だから警戒しながらゆっくり通った。
でも注意書きに右手の通路は確認しなくていいと書いてあったんだ。あの時の俺は注意書きに反することをすればすぐに死ぬと信じてた。
よく覚えてる・・・」
・・・・・・・・・じゃあ・・・・・つまりどういうことだ?
ここは・・別の次元ではなく、オレたちの世界のまま、時間だけが戻ったとでも言うのか?
それも・・・・100年近くも前に。
サマル「・・・・時間が・・・・・戻ってる・・?」
・・・・・・ソロはさっき足音が聞こえた時点でそれに気づいた。だからあの時自分が右側の通路を確認せずに進んだことを思い出し、あそこに隠れたんだ。
ソロ「・・・あの時の気配は俺たちだったのか・・・」
・・・・・・でも気になるのは注意書きだ。なぜ右手の通路は確認しなくていいと伝えたのか。
いや、決まってる。答えなんか1つしかないじゃないか。
注意書きをした奴は、オレたちがこうしてあそこに隠れるのを知っていたんだ。
サマル「・・・もし見つかってたらどうなってたの?」
ソロ「出来事が矛盾して、今の俺たちの存在が消える。・・ん・・ちょっと待て、何か引っかかるな・・・確かあの後、何か後ろから・・・・・・」
ドガンッ!!
レック「!?」
サマル「な・・・何っ・・!?」
突然背後から何かが破裂するような音が聞こえた。
振り返ると、オレたちが隠れていた行き止まりの通路の壁が。
破れて・・・・・?
サマル「・・・・・・・・ひッ・・・!?」
そこから大量の、目玉が。・・目玉が。
人間の握りこぶしほどの大きさのもの、頭と同じくらいの大きさのもの、人間の手足が生えたもの・・・
が、・・・・あふれるように転がり出てきている。破れた壁の隙間から。
ソロが真っ先にハンドガンを取り出し、構える。
だが、すぐに首を傾げて下ろした。
するとまるでそれを合図にしたかのように、大量の目玉がギョロリと一斉にオレたちを見た。
ソロ「・・まずいな」
そうつぶやいてソロはオレとサマルの腕を引っ張って「走れ」と背中を叩く。
オレとサマルが走り出すと、ソロもついてきた。
何が何だか分からぬまま、暗い通路を全力疾走する。
後ろの方からは、ゴロゴロとかグチョグチョとか変な音がすごい速さでついてきて、振り返る気なんて起きやしなかった。
・・前方に分かれ道が見える。片方のずっと奥の方には、ソロが歩いている・・!
オレは迷わずもう片方の道に入った。
追いかけてきた目玉たちも半分に分かれたようで、道に入る寸前、はるか前方で驚いて振り返るソロが一瞬だけ見えた。
ソロ「あっはっはっはっはっはっはっははははは」
レック「はぁっ!?・・お前何笑ってんだよ!!」
ソロ「いや・・・あの時誰もいない分かれ道に目玉が入ってった理由がわかったからさ」
いや、それでなんで笑うんだよ。
サマル「・・・・ふふ、・・・」
なぜかサマルまで小さく笑い始めてる。