ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第24話
俺はその時、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。クリアで回復させた体力を絞り出すようにして、全力で叩きつける!
その時、視界に白い火花が散った。神経が悲鳴を上げている。
それでも構わずに、俺は一層力を膨らませた。
すると。
リトセラの前にある魔力のシールドに小さな亀裂が入った。
リトセラ「!」
それを見逃さず、俺は地面を思い切り蹴って走り出す。
そしてシールドを消した一瞬を見計らい、渾身の蹴りを放った。
・・・その時確かに感じた。魔力エネルギーではなく、質量のあるものの手応え。
だが・・・
リトセラ「・・・・・」
防御されていた。当たったのは顔の前に掲げられた右腕だ。
・・これでは、攻撃を当てたことにはならない・・・・・・・
ソロ「・・・っ」
今の不意打ちじみた攻撃が失敗したということは、これ以降ヒットさせられる確率はぐんと下がる。相手が半端な程度でないことは分かってはいたが・・・一度直前まで行くと、警戒させてしまうからだ。
リトセラ「・・・驚いた。さっきの状態からここまで・・・。やっぱり彼の言ってたことは間違ってなかったねえ」
意外にも嬉しそうな顔をして、破壊神は魔力を収めた。
リトセラ「君には、君にしか持てないものがある。・・・ふふ・・・安心したよ。
ありがとう、僕を失望させないでくれて」
そしてこちらに歩み寄ってきた。
俺は身構えようとしたが、・・どうもその必要がないことに気付いた。
リトセラ「・・・・・・・・おめでとう。ソロ、君の復活を許可しよう」
!!
ソロ「・・・・・・・・・防御していたじゃないか」
リトセラ「いいよ、問題はそこじゃないんだ。たった今彼から許可が下りた。観客たちも拍手喝采さ」
・・・・・・・・・・・・・。
ソロ「・・・いいのか・・・」
リトセラ「君の意志の強さがわかったからね。・・ああ、そうそう。
君の弟くんだけどねえ、無事だよ。安心して」
ソロ「ロベルタが・・・?どういうことだ?」
リトセラ「話しやすい状態にしてあげただけだよ。少し怖がらせちゃったみたいだけどまあ大丈夫・・・向こうも君に会いたがっているよ」
ソロ「・・・・・・・・・・・」
あの時か。
リトセラ「破壊神だって、時には親切がしたくなる時もあるんだよ。僕は子供が嫌いじゃないしねえ。あの子と話したいことがあるんじゃなかったかい?」
ソロ「・・・・・・・・・お前の意図はわかりかねるが・・・」
・・確かにそうだ。
いい加減、自分の弱さと向き合うために、あいつにもきちんと向き合ってやらなければいけないと思っていた。
リトセラ「・・・くっふふ、はははは・・・」
ソロ「・・何が可笑しい?」
リトセラ「君は本当にいい子だねえ。まさに善人の鑑、勇者の鑑だよ。文句のつけようもない。
・・君みたいな子は実に虐め甲斐があっていいよねえ。ふふふ・・・」
ソロ「・・・・好きにしろ」
リトセラ「そうさせてもらうよ。・・・じゃあ、またね。楽しいゲームを」
そう言い残し、・・破壊神は黒い光のアストラル体となって消えた。
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――――――
・・・気が付くと、俺は洞窟に倒れていた。・・誰もいない。
・・ここは・・・・・。・・俺、今まで何してたんだっけ?
・・血の臭い・・・・妙に体がだるく、重い。歩くとまるで何かとてつもなく重いものを引きずっているような感じがする。息苦しい。視界が点滅する。
が、しばらくすると体のだるさと変な重さは消えた。むしろ軽くなった。
あちこちに崩れた壁や天井の残骸がある・・・入口のようなところは、瓦礫で完全に塞がれている。
どこだ、ここは?
・・ふと地面を見ると、多人数と思しき足跡が続いている・・・・・・ように見えただけかも知れない。だがそれに気付いた時、小さな違和感を覚えた。
・・・・・・・何か、なにか大量の・・・蠢くものが、
体内にこもっているような・・・・・奇妙な感覚・・・・・。
頭痛がしてきた。右腕の付け根が痛い。倒れた時に変に捻ったんだろうか。
それにしてもこれは何なんだ?
壁にある、数え切れないほどの殴ったような跡、引っ掻いた跡、手形・・・?切り刻んだ跡や崩れた跡。不気味だ。
だが同時に、なんだか・・・・・・・
俺は目の前で両手を広げてみる。妙に重いのだ。皮膚の内側が痺れるような。
顔を上げたとき視界に入ったのは、当然ながら洞窟の壁だった。
・・・俺はこの奇妙な感覚に妙な苛立ちを感じていた。・・いや違う、これが何なのかわからないことに苛立っているんだろう。
・・壁に歩み寄り、俺は・・・・・・何を思ったか、その苛立ちをぶつけるように右手で思い切り殴りつけたのだ。
すると信じられない轟音と共に壁の大部分が大破し、崩れ落ちた。
ソロ「えっ!?」
思わずしばらくの間、硬直する。・・・そして、自分の目を疑った。
・・・・・・それは、手のようだった。透明だ。だが俺には見える。
「それ」と空間の境目に僅かな歪みが生じていて、「それ」の輪郭の役目を果たしているからだ。
右手を動かすと、その透明な手も同じ動きをした。
俺は何かを確信し、息を吸うと、背伸びをするように右手を伸ばした。
すると右手の後ろ・・・背中の方から、同じ透明な手が何本も・・・いや何十本も現れた。
出てくる手の数に比例して、体内に何かがこもっているような妙な感覚は薄れていった。
不思議だ。信じられないのに心は落ち着いていた。
同じ要領で何度も繰り返すと、俺の周りは透明な手で埋め尽くされた。
どれくらいあるだろう、ざっと300くらいか。
その頃にはあの妙な感覚はすっかり消え、気分はとても良くなっていた。
広がっていた手をしまっても、もう何ともなかった。
・・俺はさっき足跡が見えた―もしくはそんな気がした―場所に、なんともなしに近付いていた。
そしてさっきの手を1つだけ出し、触れてみる。
その瞬間―――
ソロ「っ・・・・・!!?」
ものすごい勢いで頭に流れ込んでくる、情報、情報、情報。
声、映像、記憶、記憶、地図、顔、記憶、映像、感情、言葉、記憶・・・・・・・・・多すぎる。
頭が破裂する!
怖くなって離した。息が上がっている。
ソロ「ぁ・・・っは・・・・」
・・・すべて思い出した。ここがどこか、なぜ自分だけここにいるのか、そして・・・「これ」が何なのか。
思い出した。俺は生き返ったんだ。
・・・・そう・・・・・・
ソロ「・・・・・・・・・・・レック・・・」
みんなと合流しなければ。
でもどこに行けばいいのか・・・・・・・・・・・・。
俺は静かに、さっきの足跡を見つめる。そしてさっきよりもゆっくりと集中しながら、クリアで触れた。
欲しい情報だけを集める。
断片的だが、みんながいつ頃ここから移動して今どこにいるのかを把握できた。
・・・・・・急ごう。
俺は右手を前にかざし、クリアで入口近くを埋め尽くす瓦礫を破壊した。
旅の扉があったはずだ。
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2日目 10時26分(8日目 00時44分) ―ロト―