ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第27話
ソロ「・・・思い出せない・・・一体どんな気持ちでこの歌を歌っていたのか。
いつ知って、歌詞がどういう意味なのかはわかるのに。
何も思い出せない・・・・・・・・」
両手で顔を覆い、うなだれる。
レック「・・・・・・思い出せなくていいんだぜ、ソロ。
お前はお前なんだ。無理に思い出そうとしなくたって、お前はここにいる。
あとは忘れないで、ただ忘れないでいればいいだけなんだ」
ソロ「・・・・・・・」
ソロは頭をもたげて、・・・そして急に、くしゃりとその表情を崩した。
貼り付けてあった仮面を剥がしたかのように、今にも泣き出しそうな顔になって。
ソロ「何もできなかった」
絶望に満ちた声。
ソロ「本当に救いが必要だったのは俺じゃない・・・!
あいつは最期まで辛いまま・・・・!!!
陽の光を知らないで、世界の温かさを知らないで死んだんだ!!
何も知らないまま・・・っ!」
レック「ソロ・・・それは違う」
ソロ「どこがだよ!!俺はあいつの何もかもを潰した、自由も笑顔も心も全部全部・・・!!
最後には命まで俺のために犠牲になった!!!」
普段の落ち着きなど欠片もない、悲痛な叫びだった。
ソロ「・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・・・・
・・・その事実を容易く受け入れた自分がわからない。
なんで、なんでここまで。そんなにまでして、俺はそんな・・・・・・」
!!
レック「・・やめろ、それ以上言う」
ソロ「そんなにまでして俺は生きたいわけじゃ・・・」
ドガンッ!!
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オレはソロの胸ぐらを掴み、容赦なく体ごと壁に叩きつけた。
棚が砕け散って倒れた。
息の詰まるような静寂が、空気を支配する。
・・オレは険しい表情のまま、必死に嗚咽を噛み殺すソロに向かって言い放った。
レック「この嘘吐き野郎。
お前、わかってるんだろ?とっくに知ってるはずだろ。
自分がどれだけ生きたがってるか!!」
ソロ「っ・・・・・・・・」
レック「お前は生きるんだよ。そうしたいから、そうするために今まで耐えて!!
生きてきたんだよ!!
忘れたわけじゃねえだろ!?
自分の意志を、決意を蔑ろにするんじゃねえッ!!!」
ソロは涙に濡れた目でオレを見上げ、呆気にとられたように固まっていた。
・・・・・オレはへたり込んだソロに視線を合わせて身を低くした。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・ぅ・・・・・っ」
レック「何のために今まで・・・苦しみながら這いずりながら、それでも耐えて生きてきたのか。思い出す間でもないはずだ」
まっすぐに目を見て、言い聞かせた。
レック「それに・・・決めたんだろ?みんなを守ると。オレたちを守ると。
繰り返しを待つんじゃなく、自分たちの力で先に進むんだと。
だったらそうしてみろ。自分で決めたことを実現させるんだよ。
・・・・お前の一番嫌いなことは何だ?」
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ソロは徐々に視線を下ろし、・・・はっきりと、
ソロ「・・・・・物事が・・・自分の思い通りに進まないことだ」
そう言った。
オレは笑って、ソロを抱きしめた。
ソロがそうしたように、強く強く。
レック「そうだろ。だからお前の力で思い通りにするんだ。
それだけの資格が、今のお前にはあるはずだ」
片手をソロの頭に置き、髪を撫でた。
・・・・・・・・・ソロはオレに身を預けしばらく動かなかった。
だが少しすると、消え入りそうな声で「ありがとう」とつぶやき、オレの背中に手を回して、力なく服を掴んだ。
同時に頭の力を抜いたのか、オレの肩にかかる重さが増えた。
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─────3日目 12時20分 ―ソロ―
無理だ、やっぱり無理だ。
俺にはできない。
気が付いたら俺は立っていて、目の前には真っ二つになったベッドがひっくり返っていた。
苦しい。もう夢からは覚めているのに、あの生々しい感触がはっきり残っている。
体の内側を焼かれる痺れと激痛。冷たい何かが皮膚の上を這い回る、吐き気を催すような感覚。
酸の匂いと、蛋白質が焼ける匂いが混じって。
我慢ならなかった。
まとわりついてくるその感触を振り払いたい一心で、俺は叫びながらめちゃくちゃに体を動かした。
それでも足りない、体内から湧き上がってくるような痛みとも言えぬ程の痛み、疼き、それらを体から引き剥がしたくて全身を掻きむしった。
両手の指先が血で真っ赤になり、息が切れてくる頃。
俺は崩れるようにしてその場にしゃがみこんだ。
・・・・・・笑える。なんて無様で滑稽な姿だろう。
少し夢見が悪かっただけで、このざまだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これが、今の俺か。
結局何も変わってない。強くなんてなれなかった。なろうともしてなかった。
馬鹿そのものだ。自分で自分を追い詰め続けて、自分で自分に負の暗示をかけ続けて。
ソロ「・・はっ。・・はは・・・・ふはははっ・・・・・」
自然と笑いがこみ上げてくる。
俺は何にも勝てなかったんだ。
過去にも、責任にも、自分の心にも。
こんな俺にどうして大勢の命を預けるような真似をしたのか理解に苦しむ。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・まあ、いいか。今更だ。
とりあえず回復をして、ひどい状態になった部屋から出ようと扉に手をかけた。
・・・外に出ると、同じタイミングでレックが部屋から出てきていた。
下を向いている。俺に気付いてないな。
歩き出してわざとらしく足音を鳴らすと、レックが顔を上げてこっちを見た。
そのまま動かない。何をボーッとしてるんだか。
ソロ「レック?」
レック「・・ぉう、何だ?」
我に返ったのかはっとして、下手な笑顔を作った。
・・・こいつでも下を向いて黙り込むような悩みがあるもんなんだよな。
だいたい予想はつくが。
ソロ「なんだか顔色が悪いが、どうかしたか?」
レック「ああ・・・いや、ちょっと変な夢見てさ。お前こそ、なんか疲れてねえ?」
・・・・・・・・。
ソロ「わかるか?実は俺も、妙な夢を見たんだ」
レック「え?」
ソロ「なんでか知らんが、倒れてるアレンにサマルが泣きながらすがりついてるんだ。
他のみんなは、遠目にそれを見てるだけで何もしない。ただそれがひたすら続く夢だった」
レック「・・・おいおい、縁起でもねえな」
まるで自分じゃない誰かが喋ってるみたいに、出任せがするすると言葉となって出てくる。
これももう、今更驚くことでもない。
ソロ「なあ、レック」
レック「ん?」
ソロ「お前今、別のこと考えてるだろ」
レックが固まる。図星か。
・・まあ今完全に俺の方見てなかったしな。
ソロ「・・・どんな夢だったんだ?」
レック「ぁ・・・・・・ああ、えっとな・・・」