ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第30話
ソロ「あるとすれば俺にだけだ。・・・・・とりあえず中に入る前に弾を自分たちで取り除いて欲しい。この状態のまま2日経つとさすがに体に悪影響が出るだろうから」
そう言うと、ソロはベルトの弾倉入れから小型のナイフを数本取り出した。そして、近くにいた俺たちに手渡す。
アルス「・・・・・ソロさんはいいの?」
ソロ「最低一人が今の状態を保持していないと、時間軸に関連性がないとみなされ今までの行動がリセットされる可能性がある。つまり振り出しに戻されるわけだ。そんなのは嫌だろう?」
エックス「でも、やっぱ2日間それを体の中にしまっとくとまずい気がするけど・・」
ソロ「まずいだろうが、死にはしない。まあ磁気で血流がおかしなことになって大量出血する程度だ。・・本当に心配なのはそっちじゃあない」
・・・・・・?
ソロ「じゃあ、時間が経ち過ぎないうちにやろう。ここの側面に生体認証で開く扉があるから、落ちないよう慎重に」
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ロト「・・・・・これで・・・・・・全員か。ソロ!」
声を張り上げる。僅かに開いた扉の隙間から白い袖が覗いたかと思うと、壁についたはしごを使うこともなく一回転して、あっという間に降りてきた。
ソロ「さて、ちょっと揺れるぞ」
エックス「え?・・うぉ!!」
突然部屋が振動し始め、直後また内蔵が上に引っ張り上げられているような感触。
部屋ごと落ちているんだ。
だがそれは一瞬で収まり、何事もなかったかのようにぴたりと静止した。
途端に部屋の天井が暗くなり、まるで夜空の下にいるかのような錯覚に陥る。
・・・静寂が広がった。
すると、何か金属が床に擦れるような小さな音がした。
そちらを見ると・・
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
壁にもたれてぐったりしていたレックが、ゆっくりと目を開いたのだった。
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―――――8日目 07時02分 ―レック―
レック「そうか。・・・・話すんだな」
ロト「ああ。もうこれ以上黙っていられない。みんなに本当のことを話そう」
ロトの表情は悲痛だった。
・・・決めたのだ。
前の屋敷であったこと全て。ムーンが死んでしまった理由。
ソロのこと。俺たちがいるこの世界の真実。
全てを、話すと。
レック「・・・・・・わかった。でもソロは、オレにすらまだ話してないことがあると言ってた。
・・・それも、全部だな」
ロトは無言で頷いた。
・・・・・・鍵のかかっていない部屋。軽く扉をノックし、中に入る。
ソロは鏡の前で椅子に座っていた。
レック「・・・もう平気か?」
ソロ「ああ。ありがとう、時間をくれて。おかげで全部思い出せた」
レック「・・・・・・・・・・わかってるんだな」
ソロ「・・・。わかってる。全部話すよ。俺が知ってること、隠してたこと、何もかも」
そう言うと、俺たちの方を向いて微笑んだ。
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それから、みんなを玄関ホールに集めた。
オレたち3人とサマル以外は知らなかった事実を、何もかも包み隠さず話した。
この世界はループするようになっていて、“犠牲者”以外は記憶などを消されて全て最初からやり直しになること。
ソロが人間ではなく、今はもう全く別の生き物であること。
ロベルタがムーンを殺して、・・・そして今はもうこの世界にはいないということも。
・・・・・・・・誰もが押し黙った。無理もない。
混乱し、動揺しているだろう。信じられないだろう。信じたくないだろう。
だが、これが真実。紛れもない事実。
アベル「・・・・・・・・罪を犯した者は絶対に許されない。そう、その破壊神は言っていたんだね」
ソロ「ああ」
エックス「じゃあ言ってることがおかしいじゃねえか。俺たちに殺し合いをしろと言ったのは向こう・・破壊神たちだろ?生き残った一人はなんでも願いを叶えられるって・・・」
ソロ「奴らは最初から、俺たちが殺し合いなどしないとわかっていた。それが目的ではなく、また本当の目的を知ろうとした俺にもそれができないよう釘を刺した。そう考えるのが妥当だ」
アレン「だったらお前もこのゲームの真の目的は知らないんだな?」
ソロ「今はな。いずれ知ることになる。必ず」
ソロはオレとロトと違って終始表情を変えることなく、淡々と説明をした。
そして今の状況について全員が共通の理解をしたことを確認すると、こう言った。
ソロ「・・・・・今から話すことは、俺が生まれて初めて他人に打ち明けることだ。
レックやロトも知らない。
きっと今話したこと以上に信じられないと思うが、これも真実だ」
―――俺は・・・・・ソロは、今までに数え切れないほど人を殺している。
最初に殺したのは、このゲームが始まる少し前だった―――
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8日目 09時38分 ―ソロ―
部屋に戻ると、レックが泣きそうな顔をして俺を抱きしめた。
力は弱く、手がひどく震えている。
ソロ「・・・大丈夫か?」
レック「大丈夫なわけ・・・・ないだろ・・・・・。どうしてそんな大事なこと言ってくれなかったんだよ・・・っ」
俺は思わず笑ってしまった。レックは俺が今まで言わなかった理由も、言えることではないこともわかって言っている。
よほど動揺しているんだろう。
ソロ「・・・・心配かけたくなかったから」
だから俺は、レックの中の俺が一番言いそうなセリフを言った。
レック「もう十分心配かけてるっての!これ以上ッ・・・・」
ソロ「・・・・・・・。」
レック「これ以上・・・・お前のこと可哀想だって思いたくないんだよ・・・。
これ以上同情したくないんだよ・・・!
お前は壊れてなんかないって信じたいんだよ!!」
もはや、その言葉に傷つきはしなかった。
むしろとても心が温かくなった気がする。
ソロ「うん。ありがとう。でも言わせてくれ」
レック「やめろ・・・言うな・・・!」
ソロ「俺はそいつらを殺す時、何も悲しいとは思わなかった。自分を責めようとも思わなかった。何とも、思わなかった。だからこうして俺もみんなも生きてる」
レックはきっと歯を食いしばっているだろう。願わくば俺を殴り倒したいと思っているだろう。でもレックはそれができない。
レック「じゃあそいつらの世界のオレたちは・・・っお前が殺したお前の世界はどうなったんだよ・・何も残らないじゃないか・・!!」
ソロ「レック」
俺は涙を流して声を絞り出すレックの唇に、そっと口付けをした。
レック「―――・・・・・・・っ」
ソロ「勝者がいれば敗者がいる。敗者がいれば勝者がいる。
俺は俺自身と仲間のために、勝者になることを選んだんだ。
何か、間違ってるか?」
レック「・・・・・・・・・。」
ソロ「愛しているんだ。みんなと、俺が生きた世界を。だから愛したものを守りたい。
これからもずっと」