ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第31話
君が犯した罪に見合う膨大な、それでいてあらゆる苦痛を苦痛と思わない君が全てを投げ出したくなるほど苦しむような罰をね
―それが・・・・今の状況なのか
―まださ。これから君はもっと過酷で長い長い、絶望を味わうことになる。
今君が生きている中で感じる、たったひとつの喜びを根こそぎ奪うつもりだよ。
心しておいてね
―・・・・・・・・・・・・。
―そうそう、光の輪の法則って知ってるかい?
―・・・・・いや
―ある区間の宇宙にだけ存在する、すごく特殊な物理法則だよ。
一部は彼が既に君に伝えたそうだけど
―・・客観的な不幸さと優秀さは比例するということか?
―そう。他に、その人物の伺い知れる場合でのみ、引き寄せの現象が起こること。
僕らの干渉がある生命体は、魂を1つしか持てず、他からの干渉以外での死は許されない。
そして、魂を1つしか持たないものは死後の救済がないことさ
―壷型宇宙の世界における俺たちがその典型的な例だと、そう言いたいのか
―その通り。察しがいいねえ。つまり君たちは手足を操り糸に奪われ、生命維持装置に繋がれた身動きの取れない瀕死の生き物。生まれた時からその状態で生きてきたんだよ
―生命維持装置が外されれば、ゴミとして捨てられるのか。何もかもを神に操られ、しかしそれを自覚することなく死んで消えていく消耗品・・・・・・・それが、勇者なのか
―そういうことになるね。一個人ではなく、その世界を擬人化した存在だからね、勇者は。
当然のことだよ
―・・・その使用済みの消耗品を捨てずにかき集めた理由は。
俺がそれを知ったとき、初めて俺への罰が始まるということだな
―そうさ。君は自分の叶えたいことを実現するためにその心臓を動かすが、それによって君は本当の地獄を見ることになるんだよ。そして何もかもを知ったあと、君は君ではなくなる。
それから先に起こることこそが僕たちの目的だ
―どうなろうと構わない。勝手にしろ。・・俺は、ただ目的のために最善を尽くすだけだ。
たとえ何があっても、それによって俺自身がどうなろうとも。
犯した罪への罰から逃げる気はない
―いい心意気だ。じゃあ、見せてもらうよ。本当の地獄を知ったとき、君はどうするか。
どうやって大切なものを守ろうとするか。
・・・・・・・・くすくす・・・・・・・・・やっぱり君は見ていて飽きないなあ
―そうかよ
―ああ。・・・そうだ、今何か感じないかい?
―・・何がだ
―さすがに感知できないか。まだ進化したばかりだしねえ。
まあいいさ、これはサービスだ。僕は君が気に入ったから
―・・・・・・?
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??? ?????? ―ソロ―
・・・そこは何もない白い空間だった。だが、しばらく何もしないでいるとその空間を裂くようにして巨大な鏡が現れた。それは6つに分裂し、俺の周りを取り囲み、正方形の鏡の部屋になった。
・・・一体ここはどこだ?
またあの破壊神の気まぐれで妙なことをさせられるのだろう。
時間軸を計算しようとしても情報が少なすぎて無理だった。
ソロ「・・・・・・・。」
鏡は苦手だ。嫌なことを思い出してしまう。
今までは大きな鏡を見ると決まってパニックになっていた。
今の俺は自分の感情の全てを情報としてコントロールできるが、さすがにダメージ自体は消せない。方法はあるのだろうが・・・。
背後からガラスの割れるような音がした。
振り返ると、鏡に亀裂が入っている。それは音を立ててどんどん広がり、鏡は崩れ・・・やがて床も崩れ始めた。
その下には闇が広がっている。
前を見ると、鏡に人ひとりがやっと通れそうなほどの穴があいていた。
俺はため息をついて、心底うんざりしながら走り出す。
崩れるスピードは徐々に速くなり、普通に走っているだけでは間に合わなくなってきた。
仕方なくクリアを出し、体を浮かせて空中を移動した。
面倒なことに巻き込まれたこととそれに何の抵抗もできない自分に腹が立っていたが、そんな気持ちは目の前に現れた扉を見た瞬間吹っ飛んだ。
そこにあったのは、忘れもしない・・・・・あの地下室の扉。
何もかもを失ったあの日、俺の生と死の境界線となっていた・・・・
俺が決して開けることのできなかった扉。
そして開けないことが正解だった扉だ。
俺は一瞬迷ったが、一度深く深呼吸をすると手をかけた。
そして開く。
ソロ「・・・・・・・・っ」
俺は息を飲んだ。
その先の景色には、あまりに見覚えがありすぎたのだ。
・・・そこは・・・・俺が仲間と共に旅をし、救ったはずの世界。
俺が生きた世界。
だが今、この世界を包んでいるのは俺たちが取り戻した平和の光ではなく、煌々と燃え盛る炎の嵐。
海は泡立ち、大陸という大陸は余すところなく炎に包まれている。
空も赤く光り輝き、異様な速さで雲が流れ・・・随所に現れる白い魔方陣から雷が大地を貫く。
まだ辛うじて形を保っている天空の塔や世界樹も、焼け焦げて今にも崩れ落ちそうだった。
ソロ「・・・・――――!!」
空には背中に翼を持ち、鎧や槍で武装した天空兵たちの姿がある。
俺はいても立ってもいられず飛び出し、空を駆けた。
そしてその奥には・・・・・・炎を吐き、今まさに世界樹を焼き払おうとしている竜神の姿があったのだ。
予想が的中し、思わず唇を噛んだ。
そして出せるだけの力を込めてクリアでシールドを作り、その炎を阻んだ。
すると竜神は炎を止めてこちらを向き、俺の存在に気付くと兵士たちに攻撃をやめるよう命令を出した。
そしてこう言ったのだ。
『・・・・・・・・何故・・・おまえがここに・・・・』
俺は何も考えずに感情の赴くまま声を張り上げた。
ソロ「どうして・・・・!!何故ですか!?何故こんなことを・・・
マスタードラゴン様!!!」
・・竜神は落ち着き払った様子で翼をはばたかせ、首をもたげた。
『・・・この世界はおまえを失ったことで停滞した。故に、浄化をするのだ。
壊すのではない・・・』
俺は拳を握り締めた。この光景を目の当たりにしてそんな言葉が信じられるとでも!?
ソロ「あなたは・・この世界を守るために俺を創ったはずだ!!
そして俺がまだ生きていることも知っていたはずなのにッ!!」
『時が変われば、必要とされるものも変わる。必然であることは知っておろう』
ソロ「ふざけんな!!あんたは・・・あんたはいつも俺をそうやっていいように扱うんだ・・・。
いつも、いつもいつも、いつもッ!!
俺はただの捨て駒で、あんたに踊らされてただけだった!!」
無意識に暴言を吐いた俺を拘束しようと兵士たちが身構えたが、竜神はそれを止めて武器を収めるよう促した。
『・・・おまえには・・・すまなかったと思っているのだ・・・』
ソロ「そんな言葉が信じられると思うか!?