ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第31話
・・・・・・・そうか。お前だったんだな。
俺がそれの存在を理解した瞬間、周囲の空気が一気に後ろに流れていった。
そして見えた。
俺に向かってくる、幾億もの細い細い力の先端が―――
俺の肉体を粉砕した。
粉状になった身体はさらに原子レベルにまで分解され、空気と混ざり合う。
そうか・・・。そうなるのか。これで。
わかった・・・・・・・・。
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8日目 09時48分 ―レック―
レック「・・・・オレ、何も知らなかった。お前がそんなに重い罪を抱えてて、それに苦しんでること。オレが痛みを癒してやれると思ってた。でも・・・それはオレの思い上がりだったんだな」
ソロ「・・・・・・・・そうかも知れない。でもお前の言葉や存在は俺にとって、確実に救いになった。それは確かだ。ただ、俺の存在はきっとお前にも、誰にも完全に理解されることはないだろうな・・・。それが少し悲しいや」
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソロ。
お前は何を知ったんだ?一体何を諦めたんだ・・・・・?」
ソロ「・・・・何のこと」
レック「お前は何かを諦めた。オレにはそれがわかるんだ。何かすごく大きくて、お前が今いることと同じくらい重大なことを・・・お前は諦めた」
ソロ「俺は何も諦めてなんかいないさ。俺にできることをするだけ・・・ずっと同じだ」
レック「嘘だな」
みんなに話をするため呼びに行ってから、明らかにソロの様子がおかしかった。
いつも難しそうに考え込んでいるような表情だったり、目的のために密かに闘志を燃やしていたり、心の痛みのために潤んでいたりしていたその目から・・・
・・・・・・・・何かが消えていた。
今まで何度か見た、虚空を見上げるあのガラス玉のような目とも違う。
・・・ひどく綺麗だったのだ。なんの淀みも曇りもない。すごく柔らかく、穏やかな。
ソロの中で何かが、とてつもなく大きな何かが変わったのだ。
いや、変わったというよりは・・・・・・
・・・・・・抜け落ちた。
レック「・・・・・話してくれ。何があった?何がお前を・・・そんなに」
ソロ「自分が本当にするべきことは何か、再確認しただけだ。
お前には・・・・・・・・」
レック「・・・・・・。」
ソロ「お前にだけは教える。この世界の法則を。なぜ俺たちがここに集められたのか。その目的は何か。全部わかった」
・・・・・・・・ソロの表情やまとっている雰囲気が、今までより柔らかくなった。
どちらかというと良い意味ではなく、力が抜けてしまっているというか。
目的のために行動し、そのために生きていたのに。
まるでその目的がなくなってしまったかのような・・・
ソロ「このあと俺がどうするかなんて・・・そんなの1つしかないじゃないか・・・・。
・・・・・・・・これが、・・・・・・・・・」
レック「・・・ソロ?」
ソロ「・・・・・・・罰か・・・・・・・・・・・・」
薄く微笑んで、・・・ソロはゆっくりと。
・・・・オレの首に手をかけた。
レック「・・・・・・・・・・え」
ぶちっ
ソロ「レック?」
レック「ッ!!」
膝の力が抜け、床に倒れてしまった。
・・・・何だ・・・・今の・・・!?
レック「っ・・・・かはっ・・・・!ぁ・・・・・・」
首が痛い。まるで今の今まで本当に首を絞められていたかのように。
苦しい。
ソロ「レック・・・どうした?大丈夫か・・・?」
ソロの心配そうな声が聞こえた。
上半身が抱きかかえられる感触。
レック「う・・・・げほっ・・・・」
背中に手が回される。
ソロ「・・・・・・・・。・・・・まさか」
その時、こめかみにつきんと小さな痛みが走った。
なにか細いものが、頭の中に直接刺さったような・・・。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・。」
・・・・・前にも一度あった。トライアングルの中心で・・・こんなことが。
あの時は確か、ソロが・・・
どうしてだ?
オレは・・・・ソロが怖いのか?心のどこかで恐れているのか?
ソロが普通じゃないから、・・・・殺されるのではないかと怯えている・・・?
・・わけがわからない。
オレはそんな風に思ったことは一度もない。ソロがそんなことをするわけがない。
怖いと思ったことなんかない。むしろ・・・
レック「・・・・・・・・・・・・ソロ・・・・・・・・」
息苦しさをこらえながらうっすらと目を開け、オレの体を支えている腕を布地の上からそっと掴んだ。
ソロ「・・レック。俺が怖いのか」
・・・・・え・・・・・・?
ソロ「・・・・大丈夫・・・俺はお前を傷つけたりしない。お前は俺が守る」
レック「そ・・・んなこと、思ってな・・・」
ソロ「いいんだ。・・・俺は自分以外の自分をみんな犠牲にした。そいつらの記憶が俺の意識と混ざってしまっているだけだ。怖がらなくていい」
レック「怖がって・・・ない。けほっ・・・・・。
・・・・・ソロ、オレは・・・・・・・・・・・」
ソロ「俺を助けたかったんだろ?・・ありがとう。でも俺は全部知ってしまった。
知ってしまったんだ。だからもう、いい」
そう言うと、ソロはオレの息が整うのを待ってからベッドに座らせた。
レック「・・・何を・・・知ったんだよ。この世界の成り立つ法則って何だよ・・・?
このゲームの目的って何なんだよ・・・。
・・なあ、ソロ・・・・・・・・教えてくれ」
ソロ「・・ああ。レックになら、言える。お前なら真実を・・・・・・
・・・・・俺を、受け入れてくれる・・・・・・・・・」
ソロはオレの手に自分の手を重ね、・・キスをした。
レック「・・・・・・・ん」
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
唇を離したあと、ソロはそのまま横向きにベッドに倒れこんだ。
レック「・・・ソロ」
泣きたくなった。
オレはこいつの痛みを癒してやりたかったのに。・・・助けたかった。
けど実際には、こいつはオレの手が届くような場所にはいなかったんだ・・・。
レック「・・・・・・・・・。」
手を伸ばし、なめらかな緑色の髪をそっと撫でる。
ソロを安心させる時いつもしていたように。
ソロはオレを見上げて、泣きそうな顔で笑った。
そしてゆっくり体を動かし、仰向けになる。
・・・・オレも小さく笑み、・・・ソロの体の横に手をついてもう一度キスした。
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8日目 14時20分 ―サマル―
本を読もうと思ってアレンと一緒にホールへ出たら、ロト様とエイトさんが何か話していた。
見つけるなりアレンがそっちへ行くので、ボクもついていくと・・・エイトさんは泣いていた。
どうしたんだろう・・・。
アレン「・・・ロト様。どうかされましたか」
ロト「ああ、いや・・・。それより、君たちは大丈夫なのか」
アレン「はい。まだ少し信じられない気持ちはありますが・・・・・」