ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第32話
アレン「・・・・生かしておける者は生かしておき、そうでない者は見殺しにする。そういう思考回路に変わってるんじゃないのか」
・・・・・・・・・・・?
ソロ「それは違う」
アレン「絶対に違うと断言できるか?誰も見殺しにしないと命をかけて言えるか?」
ロト「アレン」
ソロ「・・・・・レックから何か聞いたか?」
ロト「・・・少しな。・・・・・・・お前が何かを諦めた、と」
ロト様のその一言で、やっと今みんなが何を話しているのかわかった。
ロト「それから、気になってたんだ。ムーンの死の真相をみんなに話したとき、お前の雰囲気や話し方が今までとあからさまに違った。そこへレックの話があったから・・・言いたいことはわかるよな」
・・・・・・・ボクがその場にいても、きっと同じことを思っただろう。
エイト「何か新しいことがわかったのなら、教えて欲しいんです。全員で力を合わせてこのゲームと戦うために」
ソロ「・・・・・・。そんな風に思われるようなことしかしてなかったのか、俺。
ちょっと悲しいな」
ソロさんは困ったように笑って、少しだけレックさんを見た。そしてボクを見る。
ソロ「お前が気になってたのも同じことだろ?俺の様子がおかしかったって」
サマル「・・・・・うん」
ソロさんは一度下を向くと、顔を上げた。
ソロ「俺は諦めない。今までとは少し違っても、死ぬ必要のない人が死ぬことは許さないつもりだ。絶対に最善の結果を勝ち取る。俺はそのためだけに生きると決めた」
その時、ソロさんが今までと同じ使命だけを見る目に戻った気がした。
アレン「・・・その言葉が聞けて嬉しいぜ」
ソロ「ああ。俺が諦めたのは、その結果を得たとき俺自身が満足しているかどうかだけだ。
・・・神に誓う。絶対に余計な死者は出さない」
自信に満ちた声。まるで、この先の未来を知っているかのようだった。
エイト「・・・・・あなたはすごい人だ。核にあるものが、普通の人間とはまるで違う・・・」
ソロ「はは。人間じゃないからってのもあるかも知れんがな」
ロト「・・ところでレックはどうしたんだ?ひどく顔色が悪い」
ソロ「ああ。・・・疲れてしまったらしい。まあ半分は俺のせいだ。
かなり前から俺のことを気にかけてくれていた」
アレン「やっぱり精神的に参っちまってるのか・・・?」
ソロ「・・・死ぬほど優しい奴だからな。俺の話を聞いて同情したのが運の尽きだ」
・・・・・・他の人のことを自分のことみたいに喜んだり悲しんだり。それを心の底から純粋にできる人だからこそ、それが裏目に出てしまったのかも知れない。
ロト「もう少し休ませておいた方がいいんだな?」
ソロ「ああ。・・まだ時間はある。それほど急がなくても大丈夫だ」
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・・・・次にするべきことは何か。それを考える時間はまだある。
ソロさんはそう言った。
そして当分それは見つからないか・・・あるいは既に見つかっているか。
その言葉の本当の意味はボクにもわからなかった。
ただ不思議に思ったのは、ボクが最初に話しかけた時からずっと、・・レックさんのことを少しも心配しているように見えなかったこと。
気にしてすらいなかった。
そういう言葉は口にするけど、本当はちっとも申し訳なくなんか思ってない。
悪かったなんて思ってない。
それどころかレックさんの存在そのものを気にしていないかのような・・・あの声。目の色。
そしてそれはボクらに対しても同じだった。
誰のことも目に入ってない。何も思ってない。何も感じてない。
そんな感じがしたんだ。
サマル「・・・・・・ねえ」
ソロ「・・ん?」
ボクは思い切って、訊いてみることにした。
レックさんが倒れた本当の原因がそこにあるような気がして。
サマル「・・あなたは・・・・・本当にソロさん?」
ソロさんはその質問に何の反応も示さなかった。
全くの無表情のまま、ボクの目を見ていた。
ソロ「・・・・・・・・どう思う?」
そしてその表情のまま唇の端を片方だけ上げて、そう言った。
サマル「・・・・ボクは、違う人だと思う。あなたはソロさんじゃないよ。
・・レックさんは・・・ソロさんがいなくなっちゃったから・・・」
言いながら、ボクはベッドに横たわるレックさんを見た。
まだ、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。
ソロ「・・そうだとしたら、お前はどうするんだ?
“犠牲者”がいないとこのゲームは負けたも同然だぞ?」
サマル「・・・わからない。でもとにかくあなたは・・・ソロさんだけど、違う。違う人。
・・・ソロさんを・・・・・・・食べた人。とても似ているけど全然違う」
・・・すごく、ものすごく失礼なことを言っている自覚はある。
でも確かめたかった。
ソロさんに何があったのか。
ソロ「・・・・・・・・食べた・・・・か。あながち間違ってもいないな」
サマル「え・・・・」
ソロ「俺がソロじゃないとすれば、個体の根本にある性質というものが違ってくる。
お前はそれを感じ取ったんだろう。そして俺はその性質を真似た全くの別物というわけだ」
サマル「・・・・・・・・」
ソロ「・・・ある意味、正解だな。素になっている性質を変えたのは確かだ。
・・・どうしてわかった?」
サマル「・・・・・・。なんとなく・・・としか」
今までと変わらない表情や声色の中に、欠落した感情の名残が見えた気がした。
後悔・・・というか、残留思念?ソロさんの本心の、残骸が。
サマル「でも確かに、人の性格とか人格を“物”として見るなら、その性質が変わったって言えるかも。なんだか・・・今までのソロさんが例えば水だとするなら、今は・・・」
ソロ「何言おうとしてるのかわかった。あれだろ?お前が大嫌いな」
サマル「・・・・そう、HF・・・フッ化水素酸、だっけ。・・・なんてね」
ソロ「・・ここまでの会話で判断するなら、お前が俺に喧嘩を売ってるとしか思えないんだが・・・何がそんなに気に入らないんだ?」
困ったようにため息をつき、ソロさんは腕組みをした。
サマル「気に入らないわけじゃなくて・・・心配なんだ。
ボクなんかに心配されたってどうにもならないだろうけど」
ボクが言いたいことを全部わかった上で、ソロさんはボクにどれくらいの理解度があるのか試してるんだ。気付いたことに対してどれほどの考察ができているのかを。
サマル「・・水は人間にとって欠かせない生命の源で、生きることを支えてくれる。
それが突然、人体やその他のものを腐食して壊していく毒物に変わったら。
ボクたちはもう生きてはいけない」
ソロ「・・・・。とりあえず反論しないで聞いてやるよ」
サマル「ありがとう。・・・・でも・・・ソロさん自身がそうしたからには何か特別な意味があるはずだよね。ボクにはそれがわからないんだ。安全な水を危険物に変えた理由が」
・・ここまで言ってしまえば、もう後には引けない。
なるべく怖がらないように、強い意志を主張するようにしっかりと言った。