ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第36話
・・・・・どうすればいいんだろう。もうこの部屋には入りたくない。
レックさんもどこかにいるんだろうか?
会えるなら会いたいな・・・こんなところで一人でいるのは怖すぎる。
・・・出られるのかな・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
びくびくしながら、開けられるドアを開けて回った。けど、何も進展はなかった。
どの部屋にも顔のない人形や、血のついた変な形の道具しかない。
最後の部屋から出て、ボクはため息をついた。
サマル「・・・・・・。・・・・・・!」
・・・部屋の角にあったはずの人形がない。
周りを見回すと、ついさっきまでボクが入っていた―最後から2つめの―扉が開き、中からあの大きな人形が出てきた。
サマル「え?」
その手には何か、気味の悪い音を立てながらぐにゃぐにゃと蠢く、
・・・・・肉の塊のようなものがあった。
サマル「・・・・・・・・・う」
血が滴り落ち、時折どろどろした赤黒い液体が裂け目からにじみ出る。
人形はそれを持ったまま、気味の悪い動きでボクに近付いてきた。
サマル「な、何?」
後ずさろうとした、その時。
か え せ
サマル「うぐぅっ!!?」
まだかなり離れたところにいたはずなのに、人形はいつの間にかボクの目の前まで来ていた。
そしてボクの首を片手で鷲掴み、すごい力で締め付けてくる・・・!
サマル「がっ・・・・・・!」
人形の顔が目の前にある。
・・・目のあるところにはぽっかりと穴が空いていて、中は真っ暗だった。
口も空洞。うっすらと開いているように見える・・・。
そしてそのままボクの体を持ち上げ、勢いをつけて投げ飛ばした。
サマル「・・・うわあああッ!」
肩をしたたかに床にぶつけ、激痛。直後全身に鈍い痛みが走る。
何度もバウンドして床を転がった。
サマル「うっ・・・・・い・・・痛・・・・・」
・・・・なんとか上半身を起こしてみると、人形は球体関節から不気味な音を鳴らし、飛んでいって向こうの床に落ちている本の方へ向かっていた。
・・・・・・・さあっと体が冷たくなった。
あの本を取られたら、大変なことになる。
なぜかそんな気がした。
サマル「・・・っだめ・・・・!!」
ボクは反射的に走り出し、人形を突き飛ばした。
・・・人形はバラバラになり、床に転がった。
サマル「・・・・・・・」
急いで本を拾い上げ、その場を離れようとした時・・・・
足首を掴まれ、体が地面に叩きつけられた。
サマル「うあっ!」
後ろを見る。
・・・・人形が、今にも崩れ落ちそうになりながら、壊れたロボットのような動きで這いずり、足首を引っ張ってボクの体を引き寄せようとしていた。
サマル「・・・・・!」
逃げようとしてもがいても信じられない力で押さえつけられ、やがて体全体に覆いかぶさるようにのしかかってきた。
そしてボクの顔に向かって手を振り上げ・・・
サマル「・・・え、な・・・」
ぐちゃっ
・・・変な音がして、左目に激痛が走り視界が赤黒く染まった。
サマル「うわああああああああああああああっ!!」
痛い、痛い痛い痛い!!
パニックになり、とにかくその場から離れようと体をねじった時、人形に掴まれていてただでさえ無理な方向に曲がっていた足首がばきんと音を立てて折れた。
痛い。痛くてたまらない。
嫌だ、助けて。誰か。
か えせ か え
せ かえせ かえ せ
サマル「やだ、やだ、たすけて、たすけて・・・!」
今度は髪の毛を鷲掴みにされ、首が無理やり後ろに引っ張られる。
たまらず体の向きを変えて仰向けになると――
サマル「あ゛あ゛あぁあぁあぁあ!?」
形容し難い衝撃と痛み。
さっき殴られて潰れた眼球を、眼窩に指を突っ込んで掻き出そうとしている!?
サマル「やめ・・・やめで、いや、いあ゛ああああ!!」
ぐちゃぐちゃと中を掻き回される。もう中身が幾分か外に出てしまっているのがわかる。
ボクは泣き叫びながら必死の思いで体を動かしたが、意味を成さない。
眼球がちぎれた神経から離れて掻き出されてしまい、人形がそれに興味を向けている間にその体の下から抜け出した。
痛い。痛い。痛い。
血がどくどく出てきて顔を伝って服に落ち、赤い染みを作る。
折れた足を引きずって泣きじゃくりながら、とにかくあの人形から離れようとした。
その時だった。
・・・・・ぐすっ。・・・ひっ・・・く・・・ぅう・・・っ
サマル「っ・・・・!?」
突然耳に入ってきたすすり泣き。
・・・というよりは、泣きながら悲鳴を必死に噛み殺しているような。
ボクはその場に座り込んでしまった。目と足の痛みはまだひどかったけれど、それ以上になぜか・・・・
胸が痛かった。
ジンジンと現実味を帯びていく左目の痛みが増すにつれて、すすり泣く声がより鮮明に聞こえるようになってきた。
・・・・・それに、この声って。
ボクは痛みをこらえながらゆっくりと振り返った。
人形は壊れかかった体でなお、ボクの持っている本を取り返したいのか、こっちに這いずって来ようとしていた。
でも体が動かないようで、口惜しそうに潰れかけた眼球をしばらく見つめると、そのままがくりと床に崩折れた。
・・・すすり泣きに混じって何か言葉が聞こえる。
みえ な い
み えな い たす け て
サマル「・・・・・・・・・・・ごめんね」
ボクは本を握りしめて人形に背を向けた。するとさっき出てきた扉の横に、色の違う新しい扉があった。さっきまではなかったものだ。
・・・魔法、使えるのかな。試しにベホイミを唱えると、きちんと目が治った。もう一度唱えて足も直し、ボクはその扉を開けた。
・・・・・そこは見覚えのある場所だった。
最初の屋敷だ。ボクは玄関ホールに立っていた。
でもなんだか、雰囲気が全然違う。もっともっと悲しくて不気味で、締め付けられるような圧迫感と・・・焦燥感。照明も暗い。そして色んなところに、顔のない人形やあの変な道具が落ちている。
サマル「・・・。・・・レックさん、いる・・・!?いるなら返事して・・・!」
・・・・返事はない。
ボクは恐る恐る歩き出した。・・・・壁に、血文字で何か書いてある。
サマルは かべをしらべた。
なにか かいてあるようだ。
い目日ぎゃ 子するづぅうぇ 20060007845←合計
ほんとおおおおおーーに ごめんなさい
17 18 19 20 756 血地池知散いらない
112 113 114 115 出して誰か出して助けて助けてください
ごめ疑なさい 肩型ヒュ 生き 頭いらないもの
サマル「・・・・・・・・」
痛い。胸がぎりぎりと締め付けられる・・・。息が苦しい。
文字列の周りには、指で壁を滅茶苦茶に引っ掻いたような血跡がある。
これは・・・ボクが見ている夢なの・・・?
だったら、こんな気持ちにはならない。こんな申し訳なくて、とてつもなく罪深いことをしてしまったような気持ちにはならない。