ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第36話
だったら、ここは。この世界はやっぱり――・・・・
??? ??在???面?鏡 ???
レック「サマルいるかー!!聞こえるなら返事しろー!!」
・・・とてつもなく長く、薄暗い廊下・・・行けども行けども、出口が見当たらない。
どこを調べてもこれといって怪しい場所もない。
ループになっているわけではなさそうなのだが・・・。
レック「・・・・・・。どうしたもんかな」
何をしたらいいのかわからない。
・・・さっき自分以外の誰かがいるのをたまたま感知できた。そしてそれがサマルだということも。
夢の中で主に干渉できる力を使ってはみたが、何しろここが夢なのかどうかすら怪しいのだ。
サマルは無事だろうか・・・・・。
でもここが夢の中なのだとすると、色んな部分に矛盾が生じる。
・・・記憶という情報の断片が、独立してオレやサマルの意識に滑り込んでいるなら、さっきのようにオレたちに危害を加えようとするのはおかしい。
またこれはオレの見ている夢ではない。それはわかる。
それにサマルの見ている夢だと仮定するのはいくらなんでも厳しい・・・。つまり同じ夢に2人以上の犠牲者が引きずり込まれていることになる。そんなことはありえないと言っていい。
これが意味することは何か。
ここは夢ではない。いや・・・夢ですらない。
精神世界と呼ぶには様々な要素が足りないのだ。
揺れ・・・とでも言うべきか。一方的な1つの感情だけがただただ暴れまわり一直線に流れているだけで、他の感情が一切垣間見えることがない。
つまり、ここは現在進行系で営まれている生命活動の賜物ではない。
すでに主がなくなり、置き去りにされた“感情”の中だ。
それも分裂し制御不能になった、主を破滅へ追い込む類の激しい感情。
だが本来それらはただ忘れ去られ、感知されることなく消えるはず。
何にも関与しない隔離された概念の中に、あらゆるものと関与する人間の意識を放り込む。・・・そんな芸当が出来る奴は一人しかいない。
レック(・・ソロ・・・お前なんだろ?なんでこんなことするんだ・・・これも必要のあることなのか?)
夢を制御するときのように語りかけてみる。・・・これで本当にわずかの反応もないのなら、これは事故ということになる。
意図的に起こされていないというなら、オレとサマルがここから脱出できる確率は限りなく低くなるだろう。
・・・その時、どこかにとても強い異質な気配を感じた。
レック「・・・いって!」
突然頭の中に強烈なイメージが弾け、激痛が走った。
一瞬だったが、どうやらそれは応答らしかった。
“サマルを つよくするため りかいさせるひつようがある
でも あいつひとりだと きけんすぎる
おまえのたすけが ひつようだろう
そこはソロがのこした かんじょうのなかだ
おまえがいるのは おそらく 「きょうふ」だろうな
しんぱいない おまえならだいじょうぶだ”
レック「・・・・・・・簡単に言ってくれるなよ・・・」
こちとら誰かさんのせいで死ぬほど消耗してるってのに・・・。
・・・ん?
進んでいるうちに、わずかに開いている魔法金属の扉を見つけた。魔法で壊すことのできない扉だ。
隙間からは血らしきものが流れてきている。
驚いて向かおうとした瞬間、
・・・・・・・――!―――・・・!!
レック「・・・・・っ」
扉の中から泣き叫ぶような声が聞こえてきた。
・・・・・・・・ソロの声だ。
同時に、何か低い・・・鳥肌が立つようなおぞましい、魔物のうめき声のようなものが聞こえた。
金属が地面と擦れる音。そしてかすかに、粘着質な水音・・・。
レック「・・・・・・・・・な・・・」
すると真横の壁に、何かが潰れるような音とともに真っ赤な手形が現れた。それはどんどん増えていく。そして振り返ると、血で殴り書きされた文字があった。
い やだや め て や めて いた い
いたいいた い だれ かあぁ ああああ
いや たす け て た す けて こ わ い
ゆ るし て や めて いや いや だ だ れ
か たす け てたすけ ていたい いた い いたいくるし
いだれ かたす けてこわい こわ い いやだ いやだいやだいやだいやだいやだやだいやだやめてやめてたすけてたすけて
やがて鈍い打撃音が加わり、泣き声がより一層激しく、悲鳴じみてくる。
やめて、嫌だ、としきりに叫んでいるようにも聞こえる。
オレはどうすることもできず、ただ目を閉じてきつく耳を塞いでいた。
・・ここは現実の世界ではない。直接干渉することはできないのだ。
だから助けられない。
ただ耐えるしかない。
・・やがて、悲鳴が途絶える。打撃音だけが不気味に木霊する・・・。
扉の隙間から流れてくる血の量が増えた。
オレは全身の震えを堪え、何度も深呼吸を繰り返した。
しばらく経つと打撃音が、ぐしゃっ、ぐしゃっと徐々に潰れてきた。
涙が出てきた。
オレは走り出し、その扉から離れた。――が。
レック「っ!?」
何か見えない力によって弾き飛ばされ、先に進むことができない。
手を近づけると電流のようなものが流れ弾かれた。
レック「・・・・・・・・・・・・」
・・・・入れって言うのかよ。さっきの部屋に・・・・・・。
・・・・・オレは生きた心地がしないまま、扉に手をかけた。
下を向いたまま開けると、足元に何かがあることに気付いた。
さく、と砂を踏むような感触・・・
・・・砂?
レックは ときのすなを つかった!
・・・・う、そ。だろ・・・・・・・。
言いようのない絶望感がオレを支配した。体を動かすことができない。視界が歪んでいく・・・・。
景色が止まった瞬間真っ先に扉を開けて出ようとしたが、なぜか開かなくなっていた。
そこまで時間が戻ったのか・・・そんな。
オレは扉の方を向き部屋に背を向けたまま、しばらく立ち尽くした。
・・・・無音。自分の呼吸音以外聞こえない。
どうしろと言うんだ。オレに何をしろと?何もできないのだから、何かを見ろと、何かを知れということなのだろう。でも・・・
・・・こんな・・・こんなことに一体何の意味が・・・・・!?
・・オレは唇を噛み締め、振り返った。
レック「・・・・・・!」
ここは・・・。この部屋は。オレがここで最初に気がついた場所だ。
繋がれていた足枷もある。時間が戻ったせいか壊されていないが。
広い地下牢。石畳の床・・・消えかかったランプ。
一瞬思考が停止し、今の状況を忘れかけた。だが部屋の反対側の壁にも足枷があったことを思い出し、それを確認しようと視線を向けたとき、オレはまたしても息を飲んで絶句した。
・・・深い緑色の髪。傷だらけの腕。血だまり。
足首についた枷。周りに散乱する、血のついた拷問具たち。
全身が冷たくなり、呼吸をするのも忘れ、オレは無表情のまま硬直した。
体の右側面を下にしてぐったりと横たわっている。