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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第36話

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最初に目に入ったのは指だった。不自然に折れ曲がり、爪は剥がれ、手から外れているものもある。

・・視線を上げる。その指から繋がる手首、腕、肩――・・・頭部。

だがおかしい。頭のある場所と足のある場所がいくらなんでも離れすぎてないか?

・・・うつ伏せている肩から背中、そして腰へ目をやった時。
その疑問は最悪の形で解決した。

潰れて中身が飛び出ている。骨、内蔵、肉、血管。
切断されたのではなく打撃によって潰れ、ちぎれたのだとわかる。

・・・妙な脱力感。もはやそれは衝撃ではなかった。
涙すら出てこなかった。胸の中は空っぽだ。何も考えられない。
歩み寄って、上半身のすぐそばに座る。

そして、柔らかな濃い草色の髪を撫でた。
毛先の方は血がこびりついて固まってしまっている。

その時、膝に何かが触れたような気がした。

・・・・・・・・指。・・・手が、わずかに動いている。ああ・・・身体の中の空気が抜けるとかで死体が動くことがあると聞いたっけ。
・・・・・ん・・・・それにしては早すぎないか?

小さく咳をするような音が聞こえた。そしてほんの少し、頭が。
・・・・・固まった髪の一束が、ぱさりと地面に落ちた。

オレは少しも嬉しくなかった。よかった、なんてこれっぽっちも思わなかった。
ただ苦しかった。こんな姿になって、動くこともできずにただ痛みと凍えるような寒さの中で、あとは終わるのを待つばかりで。

こんなになっているのにまだ、楽になれてなかったなんて・・・。

オレは無表情のまま、だいぶ軽くなってしまったソロの体を抱えた。
後頭部に左手を回し、右手で頬に触れる。冷たくて柔らかい。

・・・本当に人形みたいだ。薄く開いたままの双眸と唇。長い睫毛。
完全に血の気がなくなり青白くなった肌。赤茶色の血。
瞳孔の開いたアメジスト・・・透き通った蒼紫。それに柔らかくかかる翡翠色の髪。
全てが完璧でこれ以上ないほど整った顔。

なんて綺麗な人形だろう。美しすぎる。見つめれば見つめるほど心が冷えていって、凍ってしまいそうだ。
・・・氷点下の感情の中に、燻るように熱い何かを感じる。

壊してしまいたい。こんなに綺麗なのだから。こんなに整っていて完璧なのだから。美しい人形を引き裂くように切り刻んでみたい。
ぐしゃぐしゃに潰して、壊してみたい。

そんな衝動に駆られソロの顔に手を伸ばしかけた時、胸に鈍い痛みが走った。
・・・はっとする。自我が戻ってきた。

自分が何をしようとしたのか理解し、慌てて手を引っ込める。

オレ、今一体何を・・・?
心臓の動きが徐々に忙しなく、不安を高めるように早くなる。

どうしようもなく苦しくなって、息を詰めた。

・・・・・か細く今にも止まってしまいそうなほど遅い、小さな小さな呼吸音が聞こえる。

途端に喉の奥からきりきりと締め付けるような痛みが上がってきた。熱い。目が熱い。ぼろぼろと涙が溢れてくる。

本当に弱い、感じるか感じないかぐらいの力で、腕に触れられた。

・・そうか。そういうふうに出来てたんだ。こいつをまともに見つめてしまえば、まっすぐ見てしまえば、たちどころに狂わされてしまう。
理不尽なまでの美しさに心を奪われ、何もかも忘れて見入ってしまう。

ああ。認めたくない。それでも確かにオレは。今までにも何度か。

壊してしまいたい。滅茶苦茶に。こんなに可哀想で、悲しくて、救いがない・・・こんなにも。ずっと、壊されることを望んでいたに違いない。
お前を助けられるのは、何もかもぶち壊してやれるのはオレだけなんじゃないか。
ああ、そうだ。こんなに綺麗なものを刻んで潰して引き裂いて汚して犯してぐちゃぐちゃにして、全部忘れてどうでもよくなって、粉々に潰してバラバラに切り裂いて、

・・・・どんなに気持ちがいいことだろう。

レック「・・・・・・・。そんな、そんなはずない・・・違う、オレは・・・
・・・・・オレは・・・・・・・・そんなこと。・・・・・・・・一度も・・・・・・・」

そんなこと一度も思ったことない。嘘だ、違う。
少しも思ったことなんてない。ただ、ただオレは・・・・
お前を助けようと・・・・・・・・・・・

心臓が痛い。息が苦しい。
駄目だ、ここにいてはいけない。狂わされてしまう。
・・・・・・壊したくなる、形って、あるだろ。

レック「・・・ううぅ・・・っ・・・ちが・・・違う・・・・・。オレ・・・・は・・・・・・」

すっかり冷たくなり呼吸音も途絶えたソロの上半身を、力を込めすぎないよう抱きしめた。
壊してしまわないように。弱く、弱く。

そしてそっと指を添え、開いていた瞼を閉じる。
・・・・安らかだ。こんな寝顔見たことない。
・・・・・・・・綺麗だな・・・。

その時、何かが切れた気がした。オレの理性を保っていた何かが。

そばに落ちていた歪な形の刃物を手に取ると、胸が熱くなった。
身体だったものからにじみ出た大量の血で、オレは真っ赤に染まっていた。

――――――――――
―――――

・・・地下牢を出るとあるはずの廊下はなく、そこに広がっていたのは広々とした玄関ホールだった。・・そう、ここは。あの世界での、最初の・・・・・。

・・・何だ、これ・・。紙・・・。でもこれは本のページを破ったものみたいだ。

  レックは あしもとをしらべた。
  なんと ???をてにいれた。

  “おまえがさきだったか。それをサマルに きづかせようとしたんだ。
   ざんねんだが おまえのよそうは ただしい。
   なるべくして なったんだ。どんなものでもな。
   ほうせきをみると うつくしいとおもうように
   のどがかわくと みずがのみたいとおもうように
   かれをまっすぐみつめると こわしたくなるのだ。
   うんめいをつかさどる かみでさえ・・・。”

・・運命の神、か。世界の予定調和を作る張本人までもが惑わされて、ソロが辿る運命を異常なほど厳しく残酷なものにしてしまった。
・・・・もう、終わってしまったことだが。
最後まで救われないまま、最期の最後まで辛いまま・・・。

じゃあ、いったい誰が。
誰がソロをそんなふうにしてしまったのか?そんな存在になるよう設定したのは一体誰なんだ?

・・・・もう、遅いか。何もかも。

「・・・・・・レックさん!」

・・!・・・・・・・サマル・・・?

・・上から降ってきた少年の声。顔を上げると、吹き抜けの2階にサマルが立っていた。

レック「・・サマル。ここにいたのか」

階段を下りてきてオレの姿を見るなり目を丸くする。

サマル「どうしたの!?血だらけだよ・・・!」

レック「・・・オレのじゃない。心配するな」

右手を見てみるとべっとりと赤く染まっていた。・・鉄の匂い。
・・・・ソロ。

レック「・・・・・・・・・・・・・・・・」

サマル「・・・・レックさん、大丈夫?」

レック「・・ん。・・・・あぁ」

目眩がひどい。サマルの顔がよく見えない。
・・・・・これからどうすればいいんだ?

サマル「・・ねえ、どうしたの・・・?何があったの・・・?」