ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第37話
―ふふ、それはね。・・私の王子様になってもらうためよ。ソロがもっと大きくなったら、もっと強く、かっこよくなってもらうの。そうして私を迎えに来てもらうの
―・・・そうなの?・・・・なれないよ、王子様なんて。第一キミの方が強いじゃない。魔法だっていっぱいできるし・・・
―そうね、今は。だってあなたが一人前になるまでは、私があなたを守らないといけないもの
―・・・お姫様が王子様を守るの?変なの・・・・・
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―・・・シンシア。そんなとこで寝てたら風邪引くよ
―・・ふふ、お帰り。ソロも寝っ転がってみたら?花の香りに包まれて、とってもいい気持ちよ
―謹んでお断りさせて頂きます。今横になったら絶対爆睡する
―・・相当疲れてるのね。いいじゃない、寝てたら起こしてあげるから
―はぁ。・・・・・・・。あれ、もう月出てるんだ。そんな時間だっけ・・・
―風も涼しくなってきたものね。・・・・・・ソロももうすぐ17歳かあ・・・
―そうだけど・・・・どうしたの
―ううん、早いなーって思って。この間まで私よりちっちゃかったのになー
―はは、母さんにも同じこと言われた。でもなんか・・・あんまり嬉しそうに見えなかったな。なんでだろう
―・・・・・。私は、嬉しいよ。・・私ね、あなたのことが大好き。こうして一緒にいられてとっても幸せなの
―・・・・な、何だよいきなり・・・
―お母さんもお父さんも、ここにいる人たちはみーんなソロのことが好きなのよ。だから、・・・ずっと私たちと一緒にいてね
―・・・・うん。・・ていうか、どうせ外には出してくれないじゃん
―そうね。出ることができたら、ソロはここを出て行っちゃうの?
―え。・・・いや、えっと・・・行かない。行かないよ。俺、ここ好きだし。
みんなのことも、・・・シンシアのことも
―そっか。・・ふふ、ありがとう。・・・・・・ずっと、一緒にいようね
―・・・うん・・・・
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―・・・わかんないよ。俺、どうすればよかったの?なんでこんな。
・・・誰も、何も悪くなかったのに。勇者って一体何なんだよ。なんで俺なんだよ。なんでみんなが死ななきゃならなかったんだよ!
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・・・・どうして。どうして誰も助けてくれない?もう・・・嫌だ。嫌だ・・・。
なんで生きてないといけないんだ。辛いだけなのに。
死にたい。死んでしまえば楽になれるのに。楽になりたい。誰か。
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ごめんなさい。ごめんなさい。死にたいなんて言いません。殺してなんて言いません。ちゃんと生きます。生きるよ。生きるから。だからもう許してごめんなさい。いつになったら許してくれるの。死にたくない殺さないで。ごめんなさい。許してなんて言いません。ずっとこのままでいい。このままでいい。もう絶対何も望みません。ごめんなさい。もういいや。
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・・・・・仕方ないだろ。死ねないんだから。殺すしかないじゃないか。
結局何をしたってもう救われはしない。永遠に許されない。
ならせめて好きなようにやらせてもらう。もう誰も犠牲にしたくない。
どんな手を使ってでもやってやる。今度は俺が犠牲になる番だ。
自分がどうなろうと構うものか。大丈夫、苦しむことには慣れてるしな。
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―・・・・・・・・ソロ
―ああ。わかってる。・・・すまなかった
―・・なんで謝るんだよ。オレはただ・・・・・
―いや。結局自分の力だけじゃ誰も救えやしない。そういうものなんだ。
神様に糸で操られてないと、こんなにも無力なんだよな。
わかってるさ。わかってる、でも悔しいんだ。どうしても・・悲しいんだよ
―・・・・・そんな。そんなこと・・・
―・・・ごめん。ほんとに、ごめん。俺には、何もできない
―・・・・・・・・ソロ・・・・・
・・・・・・ごめんなさい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さようなら。
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レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レック「・・・・・・・・・オレは絶対忘れたりしない」
レック「・・・絶対に。忘れるものか。例えお前自身が覚えてなくても」
・・・・・・・・・・・・必ず。
サマル「・・・・・・レックさん」
レック「・・何だ?」
サマル「・・・・・・・・お別れの時間だよ」
レック「ああ。・・・・・・そうだな」
・・・・・・・・・・行こうか。
9日目 17時54分 ―レック―
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・。・・天井。オレ、まだ寝てたのか?
・・・・・だいぶ時間経ってる・・・な・・・。・・・・・・・・・・。
・・あの世界は・・・夢じゃ、ないんだよな。
・・浮遊感に似た妙な感覚。頭痛を堪えながら体を起こした。
・・・・・・・。
鏡の前の椅子には、オレが今まで意識を失う羽目になっていた理由となる人物が、すまし顔で静かに座っていた。
ソロ「・・・お帰り」
レック「・・・。・・・まさかとは思うけど、9時間ずっとそこに座ってたわけじゃないよな?」
ソロ「ああ。ちょっと用事があったんで外に出てた。つっても4時間近くはこうしてるんだけどな」
・・鏡を見つめたままこっちを見ることすらせず、静かな声で答えた。
レック「・・なんでまたここに戻ってきたんだ?」
ソロ「・・・・・なんとなく」
レック「・・・どうしてずっと鏡を見てる?」
ソロ「・・確認するためだ」
何を。・・と言いかけて、オレは口をつぐんだ。
ソロ「・・・。・・・果たしてこれで合ってるのか。これは一体なんなのか。
ついさっきまでアイデンティティが拡散しまくってたからな」
レック「・・・何をやってたんだよ・・・」
ソロ「野暮用だよ」
さっそく自分が何なのかわからなくなるような仕事をしてたわけか。
ソロ「・・今言っても仕方がないことだ。まあいずれわかるさ」
レック「・・・・・オレもサマルも、気付いたぜ。そして消した。
・・・全て。わかってるとは思うが」
ソロ「ああ、ありがとう。・・理由は聞かないのか?」
レック「・・どうせまた「今教えても仕方がない」って言うんだろ」
ソロ「ご名答。まあでも仕方がないからと言って黙秘を決め込むのも、少しばかりナンセンスかなとは思うわけだ」
レック「やっと学習したか・・・」
・・記憶だけは本当にしっかり引き継いでんだよな・・・。そりゃそうか。
ソロ「だから先に言っとく。・・これは、本人の意思だ。もう自分には負の感情しか残ってはいない、そんなものを概念化させて放っておいたら災厄しか生まない。だから消せ、と。
これをお前に伝えるのも含めてな」
・・・・そんな。