ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第39話
・・・席を立ってアレンたちのところに行くと、ロト様に「3人に折り入って尋ねたいことがある」と言われた。・・場所を移して、ボク達が緊張しながら待っていると、ロト様はしばらく悩むような素振りを見せてから口を開いた。
ロト「・・・とりあえず答えて欲しい。・・・俺は誰だ?」
サマル「・・・・えっ?」
アレン「・・・・・・・」
アレフ「・・・・・・・・」
あまりに唐突であまりに意図のわからないその質問に、ボクらは3人揃ってしばらく無言になってしまった。・・でもとりあえず答えなきゃいけないんだった、えっと・・・えっと。
サマル「あ、あの・・・ロト様です。アレフ様とアレンとムーンとボクのご先祖様で、えっと、あの、すごい伝説の勇者様です!」
・・ボクが早口でそう言ったあと、また無音になる。・・・・・ど、どうしよう。
気まずくなってきた時、アレンがちょっと慌てた様子で身を乗り出した。
アレン「俺もサマルと同意見です、俺達の時代よりも遥か昔に大魔王ゾーマを打ち破り、アレフガルドの世界に平和をもたらした偉大なる伝説のお方です!」
ロト「う・・・うん。あー・・・」
アレフ「・・・・・・・・・・・ロト様」
ロト「・・うん?」
突然アレフ様がガタっと椅子から降り、床に跪いたかと思うと
アレフ「どうか、どうか私めをお斬り捨て下さいッ!
貴方様にそのような疑問を抱かせるのは私の無能さと数々の非礼が故・・・この命を以て償わせて頂きたくッッ」
ロト「いやいやいやいや何でそうなる!!そんな意味じゃないって、ていうか深読みしすぎ!!」
アレフ「もッ申し訳ございません!!私めの無教養かつ稚拙な洞察力が故!やはりお斬り捨て下さ」
ロト「落ち着けええええええ」
ロト様がアレフ様の肩を掴んで立ち上がらせ、ものすごい速さで椅子に元通り座らせた。
サマル「・・・・・・・」
アレン「・・・・・・・・」
アレフ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ロト「・・・・配慮が足りなかった・・・・・し、質問を変えよう」
息を整えながらしばらく目を瞑って、今度はこう言った。
ロト「・・・お前たちはどうやって、俺が「ロト」だと知ったんだ?
俺について、思い出せる限りのことを教えて欲しい」
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9日目 20時55分 ―ロト―
・・・・やはり聞く限りでは、彼らの世界に残る全ての書物において、俺の名は「ロト」だと記されているようだ。出生からアレフガルドにて失踪するまでの、あらゆる情報が功績として事細かに記載されているにも関わらず。
まあ今の俺には、それらが正しいのかどうかもわからないわけだが・・・。
ロト「・・・。・・・変なことを聞いてすまなかった。正直に言おう。
俺は今、自分についてかなり多くの事柄を忘れてしまっているようなんだ。今教えてくれた情報のほとんどを。
アリアハンという街、勇者だった父オルテガ、共に旅をした仲間、様々な試練やその・・・ギアガの大穴とやらについてのことも。その話からすると俺は、もともとアレフガルドの世界の人間ではなかったということになるよな・・・」
アレン「し・・・しかし伝説の最後の締めくくりとしては、その後ロト様のお姿を見たものは誰ひとりとしていなかった・・つまり元の世界にお戻りになられたという解釈になっているものが多かったですが」
ロト「・・でもその大穴は閉じてしまったんだろう?」
アレフ「はい。しかし一説では、大精霊ルビス様のお力によって元の世界に戻られた、とも」
ロト「・・・うーん。やっぱりおかしいな・・・何を聞いてもまったく自分の話だと思えない・・・」
サマル「・・・あの、ロト様。えっと・・いつから思い出せなくなってしまったんですか?」
ロト「それも明確にはわからない。気付いたら、だ。・・それも、ソロに言われて初めて気が付いた」
サマル「・・・ソロさんに?」
アレン「・・・・・・。・・・もしや、忘れているのではなく忘れさせられているのでは・・・!?」
ロト「あ・・ああ、ソロは違う。ただ、忘れさせられているということについては正しいようなんだ。ソロ曰く、俺の存在が上書きされかけている・・・と」
アレフ「上書き・・ですか。一体・・・何者が、何故にそのような。・・・破壊神どもの仕業でしょうか・・・」
ロト「そうなんじゃないかと、俺も思ってる。・・そして落ち着いて聞いて欲しいんだが・・・」
そう言うと、3人とも顔を上げ神妙な面持ちで俺を見つめた。どこか不安そうに。
ロト「・・俺の名前は、「ロト」じゃないらしいんだ。なぜか俺もお前たちも何の違和感も持っていないが、本当の名前が別にあるとソロが言っていた」
アレン「・・・一体何を・・!!そんなことっ、あいつが適当な情報を吹き込んでロト様をッ」
サマル「っやめなよアレン!そうじゃないよ・・・」
アレフ「た・・・確かににわかには信じ難くはありますが・・・ソロ殿がそのような妙な嘘を吐く必要性は見当たりません。これはやはり、ロト様や私どもに何かを考えるよう促す、情報の一端ではないかと」
アレン「・・・・・またなぞなぞ遊びをしてるってことか・・・一体どういうつもりで・・・・」
ロト「確認だが、「ロト」じゃない別の名前があるようなことを示唆する情報はなかったんだよな?」
アレフ「ええ、私はロト様に関する書物は全て暗記しておりますが、そのような記述はございませんでした」
あ・・暗記してるのか。すごいな。
サマル「・・・うん、聞いたこともないや・・・ねえアレン」
アレン「・・ああ。俺も・・・お力になれず申し訳ありません」
ロト「・・そうか、やっぱりソロの言っていた通りだな・・・」
サマル「・・・・・ねえロト様、逆に・・・忘れてない、覚えている事柄を整理してみるっていうのはどうかな・・・・」
ロト「・・覚えていること。・・・そうか」
アレフ「・・成程。どういうことを何のために記憶から消されているのか、少しは掴みやすくなるかも知れません」
・・その発想はなかったな・・・。・・やはり子孫たちに相談して正解だった。
ロト「そうだな。・・まずはこの「ロト」という名前、でもこれは違うらしいから覚えているとは言わないな。あとは自分が勇者であり、君たちの先祖であるということ。そして・・・俺は勇者として世界を救うために生を受けた存在であるということ」
・・・・・それから・・・・。・・・いや、それだけだ。認めよう。
・・俺はこの3つ以外もう何も覚えていない。思い出せない。
ロト「・・・・・・・・・・それだけだ。それだけしか、もうわからない」
アレフ「・・・っ。・・なんと・・・」
アレン「・・くそ、破壊神どもめ・・・!」
サマル「・・・・・・・・・・・・・・」
・・・アレフとアレンが驚きを隠せないでいる中、サマルはさっきまでと表情を変えずに黙っていた。・・俺がこう答えると予想していて、それが当たったために落胆しているようにも見えた。
ロト「・・・・・サマル?」
サマル「・・・はいっ」
俺が呼ぶとはっとしたように慌てて返事をした。