ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第41話
ソロ「・・・それじゃあ、今から三つ数えたあとに俺が動く。この真っ白な状態も解除されるだろう。そうしたら何があろうと真っ直ぐに、全速力であの出口を目指せ。いいな」
みんなの表情が険しくなって、空間が無音になる。
ボクはだんだん冷えていく手をぎゅっと握り締めて、全身に力を込めた。
・・・・体の奥で、嫌な感じがじわじわと広がっていく・・・。
ソロ「・・行くぞ。・・・3、・・・2、・・・1」
・・・・・タン、とブーツの底が硬い床を踏み鳴らす音が木霊した。
瞬間、真っ白だった空間が一瞬にして色を取り戻す。そして同時に何か、青い――赤い、何か・・・・が・・・・・
アレフ「ッ――!?」
アルス「・・っうあぁぁッ!!?」
・・・炎!?
ソロ「行け!!早くッ!!」
走り出しながら咄嗟に振り返ると、さっきまでソロさんがいた場所には無数の巨大な歯車が高速で回転しながら、・・・こっちに迫ってきてる・・・!?
いつの間にあんなものが・・・
アレル「・・・・・っぐ・・・!!」
背後から物凄い熱風が吹いてきて、背中が焦げそうになる。
・・ボク達が進むべき方向には、赤い光を帯びた大きな針のようなものが大量に、壁から高速でランダムに突き出ては戻り・・しかもそれが何重にもなっている。
この異常な熱風は針が異常に高い熱を帯びていることを示していて・・・
アルス「な・・・っこんなの、通れるわけ・・・・」
アベル「・・いいや、通れるようにできてる」
エイト「――!・・っ・・冗談ですよね・・・・」
・・・・そうだ・・・あんなものが体に刺されば、その高熱で傷口は焼け焦げてしまう。でもそれはつまり傷口が塞がるということで・・・刺さる場所と通り抜ける速さ次第では助かるかもしれない、そういうこと・・・・・
サマル「・・・・・―――っ・・・」
なんて滅茶苦茶な・・・!魔力はもうほんの少ししか残ってない、ただでさえみんな重傷を負ってるのに・・・・・こんな・・・
レック「う・・・嘘だろおい、よせ!!やめろ!!」
背後からレックさんの悲鳴が聞こえた。
・・・・後ろの歯車はどんどん迫ってきている、早く行かないと挽き肉になってしまう。でも既に歯車が重なり合う場所からとても形容できない音と尋常じゃない血しぶきが撒き散らされて、そんなまさか、・・・・・!!
血が金属部分の間から溢れ出て、歯車の動きががくがく、おそく・・・・な・・・・・
レック「ッ・・・クソ、クソクソクソ・・・!!うわああああ・・ッ!!!」
視線を上げると、歯車群のかなり上の方・・・たぶん全ての歯車の動きを調整してる動力源の小さくて厚い歯車、その間から血だらけでボロボロでグシャグシャの腕が、腕が動いて、腕が腕が・・・・
・・うで、が。
歯車の淵を掴んで、引っ張って、その回転と逆の方向に力をかけているんだ、あああ、嫌だ嫌だこんなの嘘、嘘・・・・・
ずるっ。ぐしゅっ。・・信じられないような動きで、がたがたと振動を続けるその歯車の間から、真っ赤で赤黒くていたるところが潰れたソロさんの上半身が這い出てきて、それでもちゃんとボクやレックさんの方を見て喋った。
ソロ「・・右腕・・・がもう、ない。でもこの身体がミンチにならない限り、止めていられる・・・とにかく早くここから、逃げるんだ」
ごぼごぼと口から大量の血が溢れて、歯車を赤く染める。
ソロ「俺の身体は後からどうにでもなる。・・助けようとか考えるなよ・・・」
がちん。・・がしゅっ、ぶちっ・・・。
体の中身がひっくり返りそうな、おぞましい異音。ボクはたまらず背を向けて走り出した。
エックス「・・畜生・・何もかも狂ってがやる・・・」
憎々しげにそう呟いて、エックスさんが重心を落とした。まさか・・・
アレル「・・・!」
エックス「・・うおぉぉああぁぁああぁぁッ!!」
地面を蹴って走り出す。その先には無数の巨大な赤い針・・が・・・
レック「・・・エックス!!」
床から生えてきた針を飛び越え、直後左右から飛び出てきた2本を腕で弾いて体勢を低くし、ぎりぎりで躱す。両手は焼け爛れてしまったけれど、致命傷にはなってない・・・
エックス「ぐっ・・・ぅらああぁッ・・!!」
頭に刺さりそうになったのを腕で受け止めた、既に半分以上なくなってたその左腕は完全に千切れて肘から下が飛んでいって地面に転がる。
けど最後は残った右腕で身体を跳ね上げて、針が出なくなるところまで飛んだ。
・・やった!
エックス「・・・ッ・・行ける・・・みんな、うまくやれば大丈夫だ!!」
レック「む、無茶しやがって・・・・・でもやるしかないのか・・・」
アベル「・・早くしないと手遅れになる。行こう」
後ろを見ながらアベルさんが、前に進むようみんなに促す。
・・・無理だ。あんなの・・・ボクが突破できるわけない・・・
エックスさんだからできた。他のみんなだからできる。
でも・・ボクに、このボクにあんなことができるとはとても思えない。身体的にも精神的にも、この場所を抜けるには作りがあまりにもお粗末なんだ。
・・・無理だ。きっとボクはここで死ぬ。
アレン「サマル、何してる早くこっちに来い!巻き込まれるぞ!!」
アレンの叫びでそっと後ろを振り返ると、ソロさんのおかげでかなり減速してはいるものの、歯車は確実に近付いてきていて・・・
・・・ああ。きっとすごく痛いんだろうな・・・・・・・・。
多分うつ伏せに倒れて最初に足が粉々になって、引き寄せられてだんだん身体が挽き肉になっていって・・・ぐちゃぐちゃに・・・・・
・・・・・嫌だ。そんな死に方したくない。痛いのはもう嫌だ・・・。
でも逃げようとしたって・・・・あんなの。
あんなこと・・・できっこない・・・・・・。
アレン「サマルッ!!!」
動かないボクに危機感を覚えてか、アレンが走ってくる。そしてボクの腕を掴んで引っ張っていく。ボクは何も考えずにそれに従って走った。
アレン「何ボーッとつっ立ってんだ、死ぬぞ!!?迷ってる場合じゃねえんだよ!!」
サマル「・・・・」
・・違うよアレン、迷ってるわけじゃない。
確信してるんだ。どっちを取ったって、ボクは死ぬ。
・・・まあいっか。ボクがいなくなっても誰も困らないだろうし。
ふとそんなことを思いかけた。
でも、でも。もしボクがこのまま何もしないで死んだら。
・・アレンは一体どう思うだろう?アレル様やアレフ様は、どう思うだろう?
みんなはどう思うだろう・・・・?
・・諦めて何もしないで死ぬより、せめて・・・助かろうと努力した方がいいに決まってる。じゃないとムーンに怒られるし、アレンには今度こそ見放されてしまう。アレル様とアレフ様の名前にも泥を塗ることになる。
そんなのは絶対に嫌だ。死んでからも、未来永劫ずっと、「要らない奴だった」「最後まで使えない出来損ないだった」ってひどい評価を受け続ける。そしてその評価と影響がボク以外の人にも及ぶ。
そんなの嫌だ。