ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第41話
もう、ボク自身がどう思われたって、どんなに蔑まれたってそれほど辛くはない。だけどボクのせいで他の人が・・アレンが、ムーンが、アレフ様が、アレル様が嫌な思いをしたり、辛い目に遭ったり、不当な評価を受けたりするのは嫌だ。
・・・おかしいな。今までずっと、そう思ってたはずなのに。
どうして何もしなかったんだろう。何もしないで全部に怯えて、迷惑かけて、恥かいて。探せば何かできることはあるはずだった。現実的に考えれば少しでも役に立てることはあった。
自分の失敗で自分が痛い目を見る、そんなこともうどうでもよかったはずなのに。
自分自身のことなんてもう、どうなっても構わないと思ってたのに。
・・・・あれ?
・・・・・・。・・・これって。
これ・・・・ソロさんの考え方とそっくりだ。
ああ、なんだ。やっぱりボクもうダメなのかな。
エイト「・・・はああぁぁあッ!!」
アレル「っ・・・・よし、いいぞ!」
エックスさんに続いて、アルスさん、エイトさんも抜けられた。
やっぱり無傷で通るのは不可能みたいで、二人とも体中血まみれで煙が出てる。
ナイン「・・心底うんざりしちゃいますよね」
困り顔で微笑みながら、ナインさんがため息をついた。ボクは返事ができなくて何も言わないままナインさんの目を見るしかなかった。
ナイン「・・・・いいですよ。僕だってそもそも意味がわからなかったですから。どうして勇者であるというだけで、こんなにも厳しくて冷たい運命を受け入れなければならないのか。説明してくれる人なんて誰もいないと思っていました」
サマル「・・・。・・・そっか、ナインさんはそういうの、どっちかと言うと作る側だったんだもんね」
ナイン「・・あなたは、決して弱くはないですよ。なんとなくですけど・・・あなたは、本当の姿の上に何か別のものを引き被っているような気がするんです」
走り出す準備をしながら、ナインさんはそう言った。
サマル「え・・・・」
ナイン「ふふ、びっくりしちゃいましたよね、いきなり。でもきっとわかると思いますよ。・・・そのうち、必ず」
そして地面を蹴り、駆け出していく。
・・・ボクは相も変わらず動けないでいた。そして言われた言葉を反芻する。
・・・・・・・ボクの、本当の姿・・・・・・・・?
そんなの・・・・わからない。わからないよ。ボクはただ、怖くて。怖い・・・何が?
・・・自分が死ぬことが?違う。
自分が無様に死ぬことで他の人に迷惑がかかることが怖いんだ。
それ以外に何が・・・・あると言うの・・・・・・・。
アレン「おいサマル!いつまでボーッとしてる気だ、行くぞ!」
サマル「っ・・・」
・・・アレン・・・・・。きっと、ボクがとっくに生き残る気をなくしてるだなんて、夢にも思ってない。
・・・知られたら終わりだ。頑張ってる振りをしなくちゃ。
・・・・・・ボクはこんなに諦めの早い人間だったっけ。今まで、アレンとムーンと旅をしていた頃は少なくとも、弱い自分が恥ずかしくて・・・強くなりたいと願っていたはずなのにな。
ああ、それがどんなに危険で馬鹿らしいことか、わかっちゃったからか・・・。
サマル「わかった。ごめんね、・・・行こう」
薄く笑って、ボクはアレンの後ろをついて行った。不思議と、もうあんまり怖くなかった。
いつの間にか、もうこの危険地帯に残っているのはボクとアレンだけになっていた。
歯車の回転する音がすぐ後ろまで迫ってきてる。
・・アレン、待っててくれたんだ・・・。
アレン「しっかり前見るんだぞ。できるだけサポートするが限界がある、とにかく頭を最優先で守るんだ。いいな」
サマル「・・うん」
アレンの掛け声で同時に走り出す。
・・できる限りのことはやらなきゃ。アレンにだけは見放されたくない。
熱風が全身を叩いた。
足元の針を飛び越え、鼻先をかすめていくそれをなんとかぎりぎりでかわす。時々アレンが掴んでいる腕を引っ張ってくれて、そのおかげで針に刺さらずに済んでいる。
それでもよけきれない針に皮膚を切り裂かれて、ボクもアレンもみるみるうちに赤く染まっていく。
・・ボクにはこれが精一杯。自分で自分の身を守ることさえできない。
アレン「っ・・動くのをやめるな!少しでも止まったら串刺しだぞ!!」
サマル「ッ・・・・・・・」
アレンは本当ならもっと速く進めるはずなのに、ボクの手を握って・・ボクに合わせてくれている。だからできるだけ速く。可能な限り、アレンにかかる負担を減らしたい。
痛い。・・次々と出来る生傷が焦げ付くように熱い。滲んだ血が服を重くしていく。
でも進まなきゃ。アレンの努力を、思いを無駄にしないために。
痛い・・・痛いな・・・。熱い。喉が焼けそう。
こんな苦しい思いをしながら、死んでいくんだ。ボクは・・もうすぐ・・・
・・・・・・・・・・・
ガシュッ
サマル「・・・・・っ!!」
・・・・・あ・・・?・・・・・・音。何かが、肉に刺さった音。
でも・・・・え・・・・?・・・・ボクじゃ・・・・・な・・・・・
・・・・・・・・・う、そ。だよね・・・・・・・・・・?
アレン「・・・・・――ッ・・・・・・ぐ」
ボクの頭のすぐ横にある、アレンの右腕。肘のところから、ついた血がじゅうじゅう泡立つ針が・・・突き出て・・・・・
・・・・ボクを・・・・・・庇って・・・・・・・
サマル「・・・アレン・・・!!」
アレン「いい、大丈夫だ・・・・っよけろッ!!」
サマル「!!」
背中に向かって突き出てきた針を間一髪でかわした。
そして離してしまったアレンの手を掴もうと思って手を伸ばして・・・
・・・・・・・・その時、左足の付け根と足首に衝撃が走った。
サマル「・・・・・・ぅ、あ」
一瞬遅れて、・・激痛。針が、太腿を貫通してそのまま足首に刺さってる。
熱で血が弾け飛んで、信じられないくらい不快な臭いを放つ。錆びかけた金属と生々しい血の混じった・・・・
アレン「サマルッ!!!」
アレンの叫びが聞こえた。・・少しして、針がものすごい力で戻っていく。そのせいで焼けて煙が出てる脚がくっついて、針の動きに従って上に・・・・
サマル「あぁぁああぁ!!」
針が戻っていく天井には隙間があって、その中は灼熱の炎で埋め尽くされている。
・・・・・・・あ、ボク・・・・・焼け死ぬんだ。
・・・・嫌だ・・・怖い。嫌・・・・・だ・・・・・・・
アレン「ッ・・・サマル――!!」
アレンがボクの手を掴んで、下に引っ張った。
針が脚から抜け、血を流しながら落ちるボクを両手で受け止めて、アレンは少しだけ笑っ・・・・
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アレン「―――・・・・・が・・・・・・・ッ」
サマル「・・・・・・・・・・アレ・・・・ン」
・・・・お腹の、少し左寄りのところ・・・・また、針が突き出て・・・・・
レック「急げ、間に合わなくなる・・・!!」
遠くからレックさんの声が聞こえる。歯車の回転する音がさっきまでより大きく、早くなった。
金属を弾いて巻き込み、粉々に砕く音。
・・・・もうすぐ後ろまで、来てる・・・・・・・・