ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第42話
視線を向けると、あまりにも離れて霞んだ地面の赤茶けた土の色の中に・・・ひときわ濃く黒ずんだ何か・・・人の形をしているようにも見えるものが、徐々に大きくなって、つまり俺たちに近づいてきている。それも、かなりの速度で。
やがてそれは十分に姿が見える程の場所まで来ると、見えない何か・・硬い地面のようなものに降り立つ。そして背後の俺達を一瞥すると、左手を頭上に掲げてから振り下ろし、前方の赤い空間に向かって飛んでいった。
直後、軋むような全身の痛みと重さが消えた。そして目の前が明るくなり、光でできた半透明の板のようなものが出現した。
それはガラスのように透き通っていて、人間一人がちょうど通れるくらいの太さの一本道がまっすぐ前に続いている。
俺だけじゃなく、ここにいるみんなの前にそれぞれ同じ道が出来ていた。
レック「・・あいつ、強制的に左も利き腕にしたってか」
アレフ「・・・・行きましょう。ここから・・・脱出しなくては」
それぞれ、光の道の上を走り出す。
すると普通に走るのでは考えられないほどのスピードで身体が空気を切り、進んでいく・・・。
前方に何か巨大な、壁のようなものが見えてきた。いや、壁から一部が切り離され、それだけが浮かんでいるようだ。
そこには青い光が渦を巻く石碑がある・・・・・旅の扉か!
アレル「・・・あれを通れば・・・・っ」
・・・この世界から出られる・・・・!
光の道のおかげであっという間に石碑まで辿り着いた・・・が、全員が同じ位置まで来た途端、赤い小さな魔法陣が浮かび上がり、石碑の周りを取り囲んで封じてしまった。
そしてそこから銀色の波動が迸り、俺たち全員の体に降り注いだ。
すると足元の光の道は消え、再び全身に痛みと異様な重量感が襲いかかる。
これは・・・凍てつく波動か。
ソロ「・・クソ、やっぱダメか・・・みんな、残りの魔力全部使い切る準備はできてるか」
エックス「・・は、今さらそんな確認されても困るっつーの。当たり前だぜ」
エイト「次は何をするつもりですか・・・まさかとは思いますけど・・・」
レック「・・・そのまさか、だろうな。・・そうなんだろ?」
レックが俺達の背後に降り立ったソロを振り返る。ソロは視線を下に向けたまま、片頬だけを上げて微笑む。
ソロ「・・これしか方法がないんだよな。あの魔法陣には物理攻撃の一切が効かず、さらにマホカンタがかかってる。
俺が前に出て反射された分を受けきるから、どうにかして魔力であれをブチ抜いて欲しい。俺たちの力を合わせれば・・・できるはずだ」
そうか。・・さっきの光の道の効果でか、体力と魔力が少しだが回復している。これを狙ってのことだったか。だが・・・無謀であることに変わりはないな。
アベル「そういうことかい。まったく無茶極まりない・・・けど、勝算のない賭けを君がするとは思えないしね」
アルス「ほ・・本当に大丈夫なの?死んじゃったりしないよね・・・?」
いくら残りの魔力がそれほど多くないと言っても、魔力そのものが最強クラスの俺たちが9人がかりで唱えれば、それはもはや呪文とは呼べないレベルになるだろう。
あんなボロボロの身体で耐え切れるのか・・・?
ソロ「当たり前ぇだろ、俺を舐めるなよ。さあ、そうと決まればやってやろうぜ」
俺たちの頭上を飛んで石碑の前に移動すると、左手を構えた。
ソロ「いつでもいい。思う存分ぶっ放してやれ」
アレル「・・・そうか。わかった。・・やろう、みんな」
・・・俺が魔力を集めた右手を頭上に翳すと、みんなもそれぞれ同じように魔力を集中させ始めた。
アベル「・・なるべく早く終わらせるためにも、躊躇しちゃいけない。全力でやるんだよ」
アベルの言葉に、全員の意識が高まる。
それぞれの足元に金色の魔法陣が現れ、石碑を上下で挟み込むようにして同じ色の、信じられないほど巨大な魔法陣が浮かび上がる。
そして周りの空気が閃光のような電撃を帯び、エネルギー容量の限界を訴え始めた時。
・・・・・・・俺たちの意識は、融合した。
赤い空間に、一筋の光が走る。
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・・・・・・・・ミナデイン。
“其れは当に、神の裁きが如く”・・・・・・
俺は全身で、魔力とは思えない異様な力が流れて爆発するのを感じた。
アレル「ッ・・・!!」
一瞬意識が飛んだが、なんとか持ちこたえた。詠唱は終わったものの、まだ呪文は発動し続けている。
耳の奥で凄まじい轟音が鳴り響き、身体が溢れんばかりの魔力を持て余して震えている・・・。
徐々に耳と目が慣れ、通常の感覚を取り戻していく。
魔法陣を覆い隠すように現れた魔力の雷雲から、まるでひとつの塔と見紛うほど巨大な聖雷が降り注ぐ。
それは石碑を囲う赤い魔法陣に当たっているはずなのだが、膨大な魔力の波に遮られてとても視えない。だが、マホカンタが発動していることを示す魔法陣―光の壁と呼ばれる―が、通常より遥かに厚く大きなものであることは確認できた。
そしてその効果によって跳ね返された魔力は、聖なる雷の柱と垂直に伸びる巨大な魔力砲となって襲いかかる。
・・・眩い光の中でぎりぎり見ることができるソロの姿は、まだ目がその強烈な光に完全に慣れていないからか点滅しているように見えた。
・・・・・・・・いや、違う。あれは・・・
・・よく見れば前方に掲げられた左腕だけが点滅していない。それが意味することはひとつ。
クリアのシールドを制御している腕のみを全力で守りきり、身体そのものは・・・跳ね返されたミナデインによって消し飛ぶ。シールド越しであってもそれは1秒にも満たないほどで・・・
だがクリアで一瞬にして再生し、その効果が切れる前に残った腕と結合してシールドを保ち続ける。
だが俺たちの瞬きにも満たない時間でその身体は再び消し飛び・・・また再生し、それを繰り返しているのだ。高速で点滅しているようにしか見えないほどの早さで・・・!
アレル(・・・・・・負けるよ、お前には)
ため息をつきたい気分になった。だが、気を緩めるわけにはいかない。
そして全身に力を入れ直したとき、点滅していなかったソロの左腕が不自然な方向に押し曲げられ・・・―そのまま後方に弾け飛んだ。肩から完全に引き千切れ、ソロの身体が大きく傾く。
アレル「!!」
エックス「・・ソロッ!!!」
ソロ「大丈夫だ!!」
飛んでいってシールドの領域から外れた左腕は、もはや破片が視界に映ることもなく消え去った。
が、ソロはすぐに残っていた―正しくは再生させた―右腕を突き出し、辛うじてその状態を保った。
ソロ「少しずつ剥がれかかってはいる、躊躇うなッッ!!俺のことは忘れろ!!」
・・・そうだ。躊躇すればするほど、成功率は下がっていく。
あの結界を打ち破ることに、今は全身全霊をかけるべきなんだ。
アレル「・・・・ぅおおぉぉおおぉぉおおぉぉッ!!!」
・・・。・・正直に言えば、少し悔しさもあったのだ。彼はあんなに、自分のすべてを捨ててまで俺たちを救おうと戦っている。