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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach プロローグ

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「エミリ。・・最近、頑張りすぎてないか。お父さんはエミリの体が心配なんだよ。勉強も家のことも本当によくやってくれて、・・・本当に偉い。でもな、あんまり頑張りが過ぎるといつか・・体調を崩してしまうかも知れない」

「・・・・・・・・・」

「もっと自分の好きなことをするとか、友達と遊んだりする時間も必要なんじゃないのか。・・・今の学校に入る前は絵を描くのが好きだったろう。最近は描いてるのか?」

娘はそっと、部屋の片隅に飾られ埃を被っている水彩画の額縁を見た。

「あ・・・、ううん・・・あんまり時間ないから・・・。でもどうして?私結構、勉強するの好きだし・・・そんなに無理してるとは思わないよ。
それに私ね、お父さんが通ってた高等学校に入るのが目標なの。それでそこを卒業したら、お父さんと同じ大学に入るの!そうすればアルカディアの研究員になれるんでしょ?」

「・・・・・・・そうだよ。・・どうして研究員になりたいんだい?」

娘はぱっと明るい笑顔になって、嬉しそうに答えた。

「だって、そうすれば毎日お父さんと会えるから!」

・・・父は、何か鋭利な刃物で胸を突き刺されたような気がした。
重い痛みが広がる。・・・自分は、なんて駄目な父親なのだろう。

本当に大切にし、愛情を注ぐべきは研究じゃなくこの子なのに。

10年の月日が経ち、自分は変わった。気付いたのだ。
昔は幼い娘を妻に任せ、全くと言っていいほど家に帰らず研究に没頭していた。

妻もまた、同じ研究所・・・アルカディアに勤務する職員だった。だがさほど責任の重い立場ではなく、しばしば同僚に仕事を任せては家に戻り、娘の面倒を見ていた。

・・・・・しかし、5年前。あの事故が起きた。

彼の所属しているセクターで、現在は最も危険度が高く研究所の最高機密であるレベル5に属するオブジェクトの実験が行われた。
当時それはレベル3に属していたが、その事故により対象への認識が一変したのだ。

ある職員が遠隔操作をした装置の誤作動で、対象オブジェクトが暴走を起こし――19名もの人員の命が失われた。わずか6分で。

そしてその19名のうちの一人が、彼の妻だった。


・・・その現実を受け入れるにはかなりの時間がかかった。さらに彼に追い討ちをかけたのは、暴走を起こしたオブジェクトの心理カウンセリングを担当していた医師が・・・自分であったということ。

直接的な責任が問われることはなかったがそんなことを気にする余裕はなく、しばらく仕事は手につかなかった。
幼くして母を亡くした娘が不憫でならなかった。
自分自身を激しく憎み、責め続けた。

意識的ではない。だがその自責の念は毒となって身体を回り、今では抗うつ薬なしではまともに仕事もできない。

心理学は既に学び尽くしたと思っていたが、自分の心が対象となればそんなものは何の役にも立たない事を知った。


「・・・お父さん」

「ん?もう解き終わったのかい?」

「ごめんなさい。私、お父さんに心配かけちゃったね。・・これからは、ちゃんと休むようにするよ」

・・・娘は、知っていた。父が頑なに“健胃消化剤”だと言う薬が、実際はどういう効能を持つものであるか。

だが、自分は何も知らない子供でいる必要がある。
賢い娘はそれを理解していた。毎日自分のために神経をすり減らす父に、これ以上心労をかけたくはない。

勉強道具を片付けると、寝室への階段を上がりながら父に笑顔を向ける。

「・・おやすみなさい。明日の朝ごはん、楽しみにしてるね」



・・・・・・・・・・・・娘はベッドの中で、自分の軽率な言動を悔いていた。
あれでは、自分が父に会えなくて寂しいのだと伝えてしまったようなものだ。

・・・どうしよう。またお父さんの心を苦しくしちゃった。
私ってなんて頭が悪いんだろう。

暗い壁を見つめて、そっと唇を噛む。

・・・その時、寝室のドアが開く音がした。
足音がする。眠る娘を起こさないよう、ゆっくりと遠慮がちな。

心が安らぐような気配がベッド脇に下り、娘の黒髪に優しく手が添えられる。

その直前にすかさず娘は目を閉じ、寝顔を作った。

髪から頭皮に伝わり、やがて頬に落ちる温かな父の手の感触。

そっと布団を肩まで掛け直すと、再び髪に手を添えゆっくりと動かす。
父は家に帰ると決まって、眠った―正しくはその振りをした―娘の頭を無言で撫でるのだった。

・・・娘にとってこの時間は、今までなら何にも代え難い至福のひとときであったが、この日は違った。

・・・・・ふと手が止まる。すぐ横から、鼻を啜るような音が聞こえた。

娘は気付かれないようにうっすらと片目を開け、父の様子を伺う。

・・父は娘の頭に手を添えたまま、泣いていた。
もう片方の手で目元を押さえ、声を押し殺して涙を流していた。

娘は喉の奥から湧き上がる痛みを堪え、眠った振りを続けた。

――――――――――――――――
―――――――――







―西暦2■27年 12月  エリアN23
              “アルカディア” 特別隔離棟にて


「・・そうしたらね、また彼はこう言ったのよ。私の双子の悪い方がやったんだ、って・・・おかしいでしょう?全く呆れるわ。まあ、そういうのが彼の面白いところだって言う人もいるのだけれど」

アレッサは消灯された隔離エリアの中にいた。
そして厳重すぎるほどの防護装置に囲まれ拘束された“それ”に微笑みかけ、これまでのようにその日の出来事を口頭で伝えていた。

・・・しかし決して、返事や相槌は返ってはこない。

それを知りながらも彼女は、毎晩必ずこの場所を訪れていた。

言葉を交わすどころか、“それ”の首から上を包む特殊金属の拘束具のせいで、顔を見ることすらできないというのに。

それでもアレッサはその“兵器”に向かって語りかけ続けた。今や意識と自我は完全に塗り潰され、ある程度のロックが解除されない限り瞬きすら自力ではできない“それ”に。

さながら物であるかのような“それ”が生きていると言える証拠は、その拘束具の下から僅かに聞こえ、一定の早さでリズムを刻む呼吸音のみだった。

「・・・もうこんな時間か。それじゃあ・・・私は戻るわね、・・・お休みなさい」

・・・しばらく装置を見つめてから、アレッサはそれらに背を向けた。そしてライセンスを翳し、格納庫の出入口を開ける。

耳に痛みを感じるほどの静寂が支配する通路を、彼女は足早に歩いていった。

・・・・・もう二ヶ月になる。あの悪夢が始まってから。
軍によって保護され、安全を約束されているのは一部の富裕層だけ・・・それどころか保護申請をするだけの経済力を持たない人々は、強制的に政府に集められ消耗兵として酷使されているという話だ。

アレッサは自分の感情が徐々に麻痺していくような気がしていた。

ただでさえ自然の摂理を捻じ曲げ、神の配慮に背いて造られた世界なのだ。捉え方によっては当然の報いだということにもなる。実際先月には、一部の宗教団体がこれを神罰だと主張し、人々を洗脳して大規模な集団自殺を引き起こした。死を以て神に赦しを請うのだと声を高らかに。