ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録002
・・高層ビルの屋上に人影がある。・・・・10人弱。さらに拡大すると、彼らの幾人かは宙に浮いており、その腕が高く掲げられたり、振り翳されたりすると、その頭上もしくは目の前に炎や巨大な・・火の玉、得体の知れない空間の歪み、未知の―何らかのエネルギー体と思われるものが発生する。
どうやらあのモンスターを攻撃しているようだった。
・・・ベルティーニ博士は確信した、“彼ら”だと。
「・・Molecule Changerだわ。アシエルを攻撃してる・・・!」
彼女が振り向き視線を向けると、“彼”は落ち着いた表情で頷いてみせた。
そして床を指さし、小さくため息をついた。
「割と早く済んだな。それじゃ、この呑気におねんねしてる奴らを起こして、今の状況を教えてやれ」
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2■27 ■■/■■ 緊急報告・非常用記録データ
※警告 このデータはレベル5セキュリティロックがかかっています。いずれかのレベル5権利者の許可なくアクセスした場合・または持ち出した場合、理由に関わらず厳正に処分します。
機密指定データとして保護すべきか現在検討中につき、レベル5未満の職員のあらゆる理由での閲覧を固く禁止します。
特殊条件QSS:終焉シナリオにおける、予定調和と多元宇宙という概念についての記録
そして、終焉阻止プロジェクトにおける最大の謎についての概要
特殊条件QSSY:我々が認識することのできる全てにおける概要
ファイル1 2■27年12月 現時点でわかっている事柄について
我々が“彼”について解り得ている情報はあまりに少なく、またあまりに不正確であるため、いずれかのレベルのオブジェクトとして扱うことは適していないと思われる。
“彼”は壷型宇宙の存在であり、“ワン”の細胞の持ち主―つまり「Nail downer」の最初の原初体“アダム”であることがわかっている。
そして判明していない何らかの要因で我々の紐型宇宙へ意図的に干渉、移動を行ったものとされている。
当然ながら外見は“ワン”と同一と言ってもいいほど酷似しており、しかし頭髪が“ワン”よりも全体的に少し長く伸びている点のみ差異がある。
またクリアの使役レベルは計り知れず、存在するほとんど全ての物質を分解・再構築するだけでなく、原子を分子から引き剥がす、結合させる、変質させるなどといった操作により、物質やエネルギーを自在に発生させ構築することも可能。
“彼”自身、その身体は実際に存在する本体ではなく、その場で適当な分子を組み替えて即席に構築しているものだという。
それが真実であれば、“彼”は造作もなく自由に生命体を生み出すことが可能だということになる。
また“彼”はその自我と意識が生まれてから既に700年以上の時間が経過していると、またこの宇宙を救うため仲間を伴って、“神様に頼まれて派遣されてきた”と話す。
この発言の真意は定かではないが、彼らの宇宙におけるその独特の世界観による彼ら独自の解釈であると思われる。
またレベル4オブジェクト「Molecule changer」の報告にある通り、壷型宇宙で使用される言語は我々には解読不可能であり、逆も然りであると考えられてきたが、“彼”は我々の言語を流暢に話すことに何ら支障を感じていないようであった。ここから、クリアによる超速度演算能力も“ワン”を上回っているものと予測できる。
“彼”はほとんどの場合機械的な、張り付いたような微笑みを浮かべており、その表情から感情らしきものを読み取ることはできない。
声もまた“ワン”のものと違いがないように感じられるが、その口調はおよそストリートの少しばかり柄の良くない若者のそれとよく似ており、決して上品とは言い難い単語やスラングを多用する傾向が見られ、仕草や態度をとっても雰囲気だけは似ても似つかない。
また自身を「Mr.器用貧乏」「Mr.冗談じゃないぜ」「頭のイカれた英雄の成れの果ての姿」「幻覚じゃないなんて信じられない!」「万年躁うつ病の男」などと表現し、しばしば「俺より賢い馬鹿はいない」などとと言って職員を激励(または揶揄)する。
そして何故か理解力に乏しい人間を極端に面倒に感じるらしく、「最も賢い者は最も馬鹿な者には決して敵わない!」「お前よりカエルの方がいくらか賢い」「牛乳を飲め!」「いいから魚を食え!俺と話す前に魚を食え!」「馬鹿につける薬、それが俺だ!」などとよく詰る。
さらにしばしばノーメマイヤー端末の記録を改竄する、重要機密事項のデータチップをビスケットの箱に入れる、またそれを平然とした顔で食べる、存在しない事実をデータとして直接デジタル領域に書き込み暗号化する(一体何をどうしたらそうなるのか解明されていないがどうも“彼”には可能なようである)など、意図がまったく読めない意味不明な行動をとることもある。
その他、悪ふざけのようなジョークやブラックな冗談を好んでよく口にし、基本的な言動が上記の通り常人には理解し難い少しばかり個性的なので、かなり素っ頓狂な人物少しだけ変わった人物だと認識されることがほとんどである。
我々の世界の内部事情をおそらくは演算式で弾き出し、その情報の全てを事細かに知っており、さらには我々の知り得ない多元宇宙についての知識や法則を保持しているものと思われる。
しかしそれらについて質問しても、大抵ははぐらかされるか故意に出鱈目なジョークじみた偽情報を吹き込まれることになるだけで知識の取得は期待できない。
またそれ以外のあらゆる質問には、機械的に「今教えても意味はない」と同じフレーズを繰り返すばかりでそれ以上の問答が意味をなすことはなかった。
また我々が“ワン”を終焉阻止プロジェクトに利用することを良しとしていないようで、放っておけばじきに相応の報復を受けることになると我々に警告した。
そしてしばらく時間が経過した後、研究員が名前を尋ねると“彼”は渋々といった様子で「ソロ」と名乗った。
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「・・・・・・これで・・・よかったのかな?」
「ああ。倒せたみたいだ」
巨大な怪物が息絶えたのを見届け、戦士たちは魔力を収めた。
怪物の亡骸は周囲の建造物をいくつも破壊しながら倒れ、その残骸を下敷きにした。
・・見下ろせば逃げ惑う人々の悲鳴、サイレン音、何の音なのかわからない破裂音が飛び交っている。
「はあ、驚いた。・・・下の人たちは大丈夫かな・・・」
「なんかもう条件反射でやっちゃったよな。しっかし、この世界でも魔物が出るのかよ」
「ああ・・・でもなんか変だぜ。見るからに街の中だし、戦う人がいない。俺らだけだった」
「・・やっぱりあの化け物がいるのは、この世界にとって普通ではないということですね」
つまり、自分たちが解決すべき“危機”とはこのことで、何らかの理由でこの世界にやって来るモンスター達を倒し、人々や文明を守るのが目的だとわかる。