機動戦士Oガンダム
いかに自分の認識が甘かったか、やがてそこはジオンの戦艦の中ということがわかった。
「少佐、あいつらの処分はどういたしますか?」
「う〜んそうだなぁ・・・しばらくは人質として役立ってもらうよ」まだ遠くに感じつつも、とても歪な少年の声でタロは意識を完全に取り戻した。
「やめろぉっ!!!ここはどこだ!あんたら誰だ!!」
手術台を飛び起き、少佐と呼ばれる自分よりも明らかに年下の少年に掴みかかったその瞬間、見張りの男がタロに銃を突き付けた。<改ページ>
「やぁ、タロ・アサティ、だったっけ?まずここは交渉といこうじゃない。とりあえずこれ見て」
メインブリッジが暗転すると
≪タロ!?タロぉっ!!≫スクリーンからやっと聞き覚えのある声が飛んできた。
「なっ・・・・!?」
そこには、この2ヶ月あまりを共に過ごしたマイクロ・アーガマのクルーが両手首を後ろで縛られた状態で、銃を突きつけられている映像だった。
「これはリアルタイムだよ、わるいけど乗り込ませてもらったんだ」
≪まっ!待ってくれっ!私は彼らとは関係ないんだっ!≫
クビツェクがこの期に及んでまたしても気をおかしくしたような声をあげている。≪わわわたしはっ!ネオ・ジオンのニュータイプ研究所の者でこいつらとは何の関係も≫
喚く面の皮を銃弾がかすめ、彼は反射的に口を閉じた。
少佐がパンッと手を叩いて合図を送ると、スクリーンの映像が真っ暗な宇宙へと切り替わった。
画面両脇から二隻ずつの戦艦が前進していく。
≪高熱源体を確認!機体番号…MSN-0xと判明!≫
≪全艦モビルスーツ射出、身を捧げてでも任務を遂行しろ≫
絶対零度の少佐の声で数十機ものモビルスーツが艦から出撃すると
『オオオオオォォォ・・・』という大気の振動にも似た音が轟き、キラリと星が流れた瞬間、光が満ちた。
先陣を切った機体の爆光だった。
それを皮切りに、タロの駆るアウターが姿を現し
粒子の塊が、刃が、
鉄と共に肉まで貫き、切り裂き
白い悪魔の呼び名にふさわしく、次々と命を吸っていった
「なんだ・・・これ・・・・」
それが、映像に映る“自分”を視たタロの口から出た言葉だった。何故なら彼は、それを覚えていないのだから
覚えていないほどまでに彼は一心不乱だったのだから。
「ち…ちがう・・・おれはこんな・・・・おれが・・・・」<改ページ>
脳裏に忘れていた、思い出さないようにしていた記憶がフラッシュバックし、腸の底から来る吐き気がタロを満たしていった。「うっ…!!」
パイロットを焼いた死の感触がタロを襲い、胃液が勢いよくブリッジへと吐き出された。
「あーあしょうがないなぁ、ったく・・・・じゃあ24時間あげるよ。
ぼくたちはジオンと連邦の…というより
反ネオ・ジオン反地球連邦連合義勇軍エスタンジア
コロニーでは仲間が世話になった。さて」
再び映像がマイクロ・アーガマに切り替わり、映像の中の男たちは銃を突き付けていた。
「ぼくらにMSN-0x…アウター・ガンダムを渡してもらえば解放しよう
といいたいところだけど、僕らの存在を知ってしまったからには帰すわけにはいかない。
ここに残るか、身体だけここに置いて行くか・・・アウター・ガンダムを使うキミが決めろ」
決断の時はいつも突然訪れる。例え赤子だろうと老人だろうと、どんな時だろうと容赦なく。
『俺が決める・・・?なんで・・・・』
「エスタンジアの存在はまだ誰にも知られてはいけない。まだ正義じゃないんだ、ぼく達は・・・
もちろん君たちが記憶をきれいさっぱり消してくれるならなにも問題はないさ、けどそうもいかないだろ?
・・・・・僕はアドルフ・ドゥカヴニー、いい返事を期待しているよ」
≠
小惑星アリエス、それが彼らゼーレーヴェ隊が向かう拠点である。
ヴェスヴィオ火山を上下に合わせたような外観を一望すれば、その向こうに一つ、ぽっかりと赤い星が浮かんでいる。<改ページ>
そこの数あるベイの一つに、シャアとカーン・Jrらを乗せた補給艦が入港していた。
「クワトロ大尉、後続隊の到着は我々の24時間後になるようです」
「そうか、よく無事に送り届けてくれた。礼を言う」
「まだ任務は達成していませんがね」
「着艦だ」カーン・Jr.がジェノヴァを遮りシャアの前に躍り出た。「さぁ行こう・・・シャア」
補給艦のタラップを降りると、例によってあの醜悪な面構えと体型の男が出迎えた。
「遠路遥々お出頂きありがとうございます。シャア・アズナブル総帥、そしてカーン・ジュニア様、長旅お疲れ様です」
「はは、来て早々総帥は勘弁願いたいな」
「これはこれは失礼いたしました。それではシャア大佐、立ち話も何ですから早速ご案内したいと思います」
醜悪な顔から発せられる丁寧な言葉に違和感を覚えつつも、彼に誘導され第一ハッチをくぐると、通路の両脇に兵士たちが整列していた。
『おぉ・・・』『あれが・・・』『赤い彗星・・・!』
声こそ聞こえなかったが、そのような感嘆の息が伝わってくる。
『やはりここもか・・・』一年戦争で時が止まった亡霊たちがそこにいる光景はアクシズを思い出させた。
「どうされました?!」
カーン・Jr.の部下であるウィノナが珍しくも頓狂な声をあげた。
その方へ振り返ると、カーン・Jr.が顔を青ざめて全身をカタカタと震わせていた。
「・・・・私だけでも構わないか?」
「え、えぇ…カーン・ジュニア様にはお部屋でお休みになられて頂きましょう。では、案内には彼も同行させます」
少し戸惑いを見せながら、太くて短い指を似合わずもパチンと鳴らした。
ジオンの亡霊たちの中から場違いともいえるような、ヒトーリンとは真逆の、青い髪をした端正な顔立ちの長身の男がスウッとあらわれた。
「レヴァハン・M・ヴィルヘルムです。ここで彼の補佐、並び技術研究員をしています。」
「では参りましょう」
≠
カーンJr.と部下のウィノナは総統室と書かれたパネルのある両扉を開け、その中の左側にある戸の向こうへと案内されていた。
「それではごゆっくりお休みください」案内係が出ていくと、カーン・Jr.はベッドの上へ落ちるように腰を下ろした。<改ページ>
「ではカーン・Jr.様の代わりにアリエス内を見てまいります」
「まって・・・・・シャアに言わなくちゃ…あいつには気を付けろって」
傍を離れようとするウィノナを呼び止めると子犬の様に身を震わせ、両腕で自分を抱くようにうずくまった。「でもダメなんだ・・・体が言うことを聞いてくれない・・・」
「カーン・Jr.様・・・」
「頭の中を蛇がぁっ・・・!ああっ・・・ウィノナ…おねがい・・・ああぁぁぁっ!」
「んっ」ウィノナはカーン・Jr.の口を唇で塞ぎ「こんなに震えて・・・かわいそうに・・・」華奢な肢体を、ベッドの上に押し倒した。
≠
「こちらが居住施設です」
「アクシズとはだいぶ違うな」