機動戦士Oガンダム
「・・・君たちは、アドルフ・ヒットラーと言う人物を知っているかな?」カーン・ジュニアの代わりにシャアが口を開いた。
「確か中世期の独裁者でしたね」東條だ。
「そうだ。彼が率いたナチスは第二次世界大戦を起こし、ヒトラーの死をもって敗戦。
その後解体され、戦後しばらくはその残党が世界各地に逃げ延びていたそうだ」
「なんていうか・・・ジオンみたいだな」ギュンターがぽつりと言った。
「あぁ、歴史は繰り返すとはよく言ったものだ。そのナチス残党にはある一つの計画があった」
「・・・・・・・・」
「アドルフ・ヒトラー蘇生計画」シャアのあまりにも突拍子もない発言にキューベルはフッと力が抜けた。
「あの…今はそんな話をしているんじゃ・・・」こんな時に何を言っているのかと少し馬鹿にされたような気分でもあった。
「もちろんこれは冗談さ。しかし」シャアはカーン・ジュニアをほんのわずかに一瞥した。
「彼らの行った非人道的な人体実験が医学を飛躍的に発展させ、軍事技術がコンピューターや宇宙開発の元を築いた科学力を考えればあり得ない話ではない。それに、既にナチスの登場以前から遺体を冷凍保存する技術はあったそうだ」
キューベルが「えっ」と小さく息を吸った。「で、でもそれがどうメモリークローンに」
「わからないか?」
語り部は再びカーン・ジュニアへ移った。
「指導者を生き返らせれば軍隊を動かす脳として、群衆を扇動するプロパガンダとして利用できる」
徐々に混沌と怒りが露わになってゆく彼の姿にキューベルの胸はざわついた。
「強化人間とクローンの技術があれば人工授精も必要ない・・・・脳と身体をいじれば生きてようが死んでようが限りなく本人に近い複製人間を造ることだって出来てしまうんだ!!」
「・・・・ちょ、ちょっと待って、じゃあ…あなた、やっぱり・・・!」
「あぁ…そうだ」カーン・ジュニアはこくりと頷いた。「私はその実験体だ」
「そんな…そんなことって・・・・」
<改ページ>
「次のブロックを左」
タロはアドルフにされるがままにアウターを手足としていた。
「そしてまっすぐ、その先にあるはずだ」彼の言うとおりに進んでいると、目的地までのブロックのハッチが次々と閉まり始めていた。
「いそげ!」いちいち防壁を溶解する時間はもうなかった。
バーニアを限界までふかした。ブロックが次々と隔離されていく中、ついに最後のブロックに達した。しかし既に、奥から漏れる光はわずかになっていた。
「さすがにもう無理か・・・こうなったら!」アウターの左腕に取り付けられたシールドを外し右手に持ち替え、ぶん投げた。
シールドは矢のように飛んでいき防壁の隙間に突き刺さる。しかし、それでもアウターが通るには光が足りなかった。
「ここまで来て下がれるかよぉっ!」アウターが衝突する直前、どういうわけか隙間が開いた。
「よし!行ける!」
「いけない!罠だ!!」
アドルフの警告がタロに届いた時には、既にアウターは敵の術中にはまっていた。
奪取目標物であるサイコミュ搭載新型艦があるはずのドックにはドムの最終形態であるドライセンが3機、モビルスーツ用宇宙移動砲台スキウレとガトルが4台づつ、そして海ヘビとビーム・バズを装備した高出力のドラッツェ2機が待ち構えていた。
踵を返そうとすると、シールドの抵抗もむなしく、防壁は完全に閉まっていた。
「やられた・・・・」アドルフが茫然自失していると
グヴォォン
モノアイが一斉に点灯した。
≠
キューベルだけでなくギュンターも、迫水も、さらにはエヴァまでもが言葉を失っている中で
「一つよろしいですか?」一人冷静な東條が口を開いた。「まさかとは思いますがそちらにいらっしゃるミネバ様は・・・」
「ん?あぁ、この方は御本人だ。私がお呼びした」<改ページ>
「では、ネオ・ジオンの本拠地をこちらに移す、と言うことでしょうか?」
「彼女はもうジオンとは関係ないので気にしないでいただきたい。それに、ここはジオン再興のための一時的な施設にすぎない」
「・・・・では、いずれまた地球圏へ?」
「あぁ、今はハマーンがよくやってくれている」
シャアの青い瞳が深くなった。そして、それを視たのはザビ家の忘れ形見であるミネバのみであった。
総統執務室からゼーレーヴェ一行が去り、静かになった。
「シャア、いつまで奴を野放しにしておくんだ。彼らにあいつを殺させることだってできるだろう」
「人には適材適所というものがあるからな。それに、ヴィルヘルムが死んだところで何が変わるというわけでもあるまい」
「あなたは・・・いつになったら仮面を外すんだ・・・・」
シャアは少しの沈黙の後「タロ・アサティという少年を覚えているか?」と聞いた。
「・・・当たり前だ」
「彼のような若者が新しい時代をつくらなくてはな」
「木星圏の様子はどうなっている」
シャア・アズナブルがネオ・ジオン総統に就任し、アリエス拠点長であるヒトーリンは水面下で蠢いていた。
「えぇ、やはり例の“遺跡”と見て間違いありません。」
「そうかぁ」ぐひひと下卑笑い「これで我の神聖ジオン帝国が現実のものに・・・」
独り言をいう醜い後ろ姿をヴィルヘルムは冷めた目で、というより何も感情のない眼で眺めていた。
「ゼーレーヴェ隊の機体性能向上案が出ておりますがいかがいたしますか?」
「あぁ?やっておけ」
「わかりました。」
「おぉそうだ」ヒトーリンは何かを思い出し獣人のような図体の割には素早い動きでヴィルヘルムに振り向いた。「なぜミネバ様がこられたのだ?」
「総帥のご意思によるものなので私にはわかりかねます。」
「ふむぅ・・・・今はどちらにいる?」<改ページ>
「ミネバ様なら今は総統室にいらっしゃるかと。」
「そうかぁ・・・よし、木星へ立つ準備をしろ」
ヒトーリンの脳内でろくでもない歯車が回り始めているのをよそに、ヴィルヘルムの持つ端末には一通の知らせが届いていた。
≠
アウターは降りそそぐ鋼弾、光弾を躱し続けるも、開発用ドックという閉ざされた空間では限界があった。
コックピットに2人いるせいか、うまく動かせないことも原因の一つだった。ガトルの四方包囲射撃に翻弄されていると
「ぐぅあっ!」
背面からジャイアント・バズ改の弾が背面に直撃した。そこを見計らったようにスキウレの大型ビームがコックピットに迫るのを全天周モニターが映していた。
「くそぉっ!」
両脇にはドラッツェのビームサーベルが待ち構えていた。
「上だ!しまっ・・・」
高度少ない天井へ逃げると一機のドライセンがアウターへ鉄槌を振り下ろした。
アウターが真っ逆さまに堕ちていくその先に、別のドライセンがヒートサーベルを振りかざしていた。タロはビームサーベルを握った。
ピカッ
スキウレのザクから放たれた閃光弾がまばゆい光を放った。
「めくらましなんてぇっ!!」
スラスターをわずかに吹かして機体をずらし、アウターはそのままサーベルでドライセンを貫いた。