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なかのあずま
なかのあずま
novelistID. 54195
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機動戦士Oガンダム

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 ファナは音をたてないように玄関まで行き、扉の向こうの、喧嘩腰の声に聞き耳を立てた。
 ≪きみ、ここの?≫
≪そうだけどなんだよ?・・・・・何の用?≫
 タロの声が尖ってゆく。男たちは咳払いをしてそのまま話を続けた。
 ≪あー…申し訳ない。俺たちは連邦軍の者で…ここいらで不穏な動きがあるとの情報で今調査しているんだけど・・・何か知らない?≫
 連邦“軍”という言葉にファナは息を呑んだ。私たちの家族を、生活を奪っていった人たち・・・そんな思いも相まって漠然とした不安が胸の奥で膨らんでいった。
 ≪不穏?≫
 ≪例えばその・・・ジオン軍人を見たとか≫
 宇宙漂流者の流れ着くコロニーではその殆どが該当者になろう。
≪ここはそんな人ばっかだよ、元ジオン軍人とか元連邦とかさ・・・もういい?≫
 タロの呆れ声がすると鍵が開く音がした。扉が開き、タロと目が合った。
 その後ろで二人の男がこちらを見ていたが、ヘルメットのバイザーに遮られた顔は良く見えない。
「あ、ほら、やっぱりいた」
「中はそこまで汚くない・・・少し邪魔するぞ」
 宇宙服−ノーマルスーツ−を着た男の一人がテリトリー内に足を踏み入れようとして、タロの目つきが一層険しくなった。
 「まてよ・・・軍が今更何しに来たんだよ」
 ヘルメットのバイザーが開き、中から雄々しい顔が覗いた。「言ったろ?不穏な動きがあったからこうして」
 「戦争しに来たんだろ・・・」
 「あ?」
「ここに戦争しに来たんだろ!」
 「うるせぇな!耳元で叫ぶんじゃねぇや」男はチッと舌打ちし「そうなる前に処理しに来たんだよ!ったく」と言いながら再び足を踏み入れようとする男の胸ぐらをタロは掴んだ。<改ページ>
 「だったらあの港のはなんなんだよ!ジオンを見つけたらあれで攻撃するんだろ!?破壊するんだろ!街が焼かれるんだろ!もう嫌なんだよそういうのは!」
 掴んでいた胸ぐらを思い切り突き離し、勢いよく扉を閉めた。
 そして、ファナの目には彼の穏やかになった、いや、穏やかになろうとしている顔が映った。
 「なにがあったの?」
 内から鍵を閉め、リビングに向かうタロにとファナが聞いた。「何もないよ」
 「うそ」
ファナの声が強くなった。
 タロは人差し指を口に当て『意識が向いている』と目線を玄関へ向け、それから3分ほど経って気配が消えた。
 彼らが引き上げていったのだろう。タロは止めていた息をふうっと吐いて先の事を話そうとしたが
 「シャアって人に会って、モビルスーツに乗せられそうになって・・・いや、違うな」
うまく言葉に表すことができないのでファナに手を差し出した。
 生身のお肌の触れ合い回線とでも言おうか、タロの相手を感じる力は相手に伝える力もあった。
 それを受け取ったファナの顔が次第に青ざめていく。「・・・そんな顔するな、俺は戦争になんか絶――――」
 ≪すいませーん≫
 再び玄関からノック音と共に、先ほどの連邦軍人の声がした。
 ≪ちょっと落し物しちゃってね、開けてくれると助かるんだ。回収したらすぐ引き上げるから≫
 「あぁ、そうっすか」
 タロの油断が玄関の鍵を開け、その瞬間、ファナは敵意を感じた。
「開けちゃダメ!!」「ッ!?」
 遅かった。
蹴り開けられたドアの前で、タロは二人の軍人相手に適う筈もなく捕えられた。
「うぐっ・・・!!!」
 「ごめんごめん、忘れ物あったよ。これこれ」
 バイザーを開けずにメットを取ると、中から長い銀髪が靡き、先ほどとは違う若い男の顔が露わになった。彼が腰を下ろし手に取って見せたのは、いつの間にやら仕掛けられていた小さな盗聴器だった。
 「わるいねー、さっき開けた時にちょっとね」
「さて坊主・・・・・シャアのところへ案内してもらおうか」
 「ごめんねー、ちょっとお兄ちゃん借りるからねー」<改ページ>
 タロを捉えている雄々しい茶髪の軍人の声が研がれている横で、長銀髪がファナににこやかに言った。

 2人の兄妹はやがて濁流になってゆくこの流れに逆らう事が出来なかった。
                    ≠
 タロは二人の軍人、ニロン・アラダールとグラン・マックイーンに挟まれながら、砂塵の舞う中をシャアのもとへ向かっていた。
 「あれ・・・?」
「どうした」
 「いや・・・」
 導かれるままに来た廃墟、もとい格納庫の漂う空気が先ほどと違っていた。
 鈍痛のような重苦しい圧があった一時間前とは違い、まるで泥水が濾過されたように透明度が増していた。
 タロはしっくりと来ないまま二人の軍人と共にリフトで地下に降りてゆくが
 「逃げられたか」
人どころかモビルスーツまで消え、既にもぬけの殻であった。
 ただ一つの機体を除いて――――――――――
 「・・・この機体」
 「ガンダム・・・か・・・?」
 ニロンとグランが静かに佇むその姿に息を呑むと

   ズウウウウウゥゥゥゥゥンンン

地鳴りがした。
 「何だ!?」
二ロンは銀の長髪をたなびかせながらリフトへと走り、グランも後に続いた。
                    ≠
 地上では3機のG(グランド)・ザックがどこからか姿を現していた。
「こちらニロン、コロニー内部にて3機の所属不明機に遭遇しました。形体から見てジオンの物とみられます」
 港のジム・セークヴァに乗り込んで、マイクロ・アーガマに通信を入れるとニロン・アラダールは銀の長髪を束ねた。<改ページ>
 「3対2じゃちときついかもな!」
 グランも自機に搭乗すると、頭にバンダナを巻いて戦闘態勢に入り、ジム・スナイパー?を受け継いだかのような鋭角なバイザーの奥にあるモノアイが点灯した。
 「行くぞ」
 港からG・ザックの位置までには直線距離にして100メートル、しかし廃墟を避けて行けばその3倍はかかる。
 ジム・セークヴァ二機がスラスターを噴かして迎撃に向かうも、その足取りは酷くおぼつかない。
 「そうか、しまった・・・!」
 もちろんスラスターを噴かせて飛行すればその距離はあっという間に縮まる。しかし球体型のコロニー故に、通常のシリンダー型の疑似重力とはまたわけが違ってくるのだ。
 こればかりはいくら熟練のパイロットと言えども操縦の勝手が違ってくるので、慣性にうまく乗れなければ、その腕前はガクッと落ちてしまう。
 「仕方ない、正面から行こう!」
 ジム・セークヴァは脚を一歩一歩コロニーの内壁を踏みしめながら、G・ザックへと向かうことにした。
 ヴンッ
 三機のG・ザックのモノアイがジム・セークヴァを捉えると慣性に乗ってスラスターを噴かせ、一気に距離を縮めてきた。
 先頭のG・ザックが大型のビーム・ホークを振り上げながら飛びかかる。
 「!!!」
 「こいつら・・・・!」
 ニロン機は即座にビームサーベルを抜き、振り下ろされるヒート・ホークを受け止めた。
「このォッ!!!」
 何とか薙ぎ払って、G・ザックに構えたビームライフルの引き金にマニピュレーターをかける。
 「待て!ニロン!」
「え!?」
 「ビームライフルは使うな!」
グランがその引き金を引かせまいと止めに入った。