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No.017
No.017
novelistID. 5253
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六尾稲荷

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 タイキは喜んでそれを持ち帰り、それからの数日間、肌身離さず持ち歩いていた。ところが、ちょっとそのへんに置いて、少しばかり目を離した隙にどこかへいってしまって、そのまま出てこなかった。惜しいことをした、とタイキは思った。
 タイキは猿のようにするするっと木を降りると、稲荷神社へ走った。到着したとき、すでにノゾミの姿はなかったが、代わりにタイキはあの赤い獣を見つけたのだった。



 山里の朝。まだ空気が少しばかり冷える中、朝食をいつもより早めに終えたノゾミは家を飛び出し、稲荷神社へ急いだ。鳥居がある場所に向かって走る。それは、いつも登校するときの足取りとはあきらかに違っていた。
 ほどなくして、稲荷神社の鳥居が見えてきた。ノゾミはスピードを緩めるどころか、さらに加速させた。いったいノゾミのどこにそんな元気があったのか、いままでのノゾミを知る人ならば首を傾げたかもしれない。ノゾミはあの獣が無事に帰れたかと案ずるのと同時に、一方でまだあの神社に留まっていなものかと期待していた。
 ついに鳥居の前に到着した。ノゾミは手を膝に置いてしばらくぜえぜえ言っていたが、やがて呼吸が整ったらしく膝から手を離すと石段を見上げた。
そして、ノゾミは目を丸くした。期待した者と予期せぬ者が互いに存在していたからだ。
 赤い獣はまだそこにいた。そして、そこには一人の先客が、三軒先に住む又従兄弟のタイキの姿があった。こともあろうに、赤い獣と同じ段に腰掛けて腕組みをしている。タイキはノゾミが自分に気が付いたことを確認すると

「ようノゾミ、たぶん来るんじゃないかと思っとった」

 と、言った。ノゾミはなんだか不機嫌そうな顔になってタイキを睨みつける。

「そんな顔せんでもええだろ。俺もこいつに会いに来たんじゃ」

 タイキは赤い獣のほうに目をやる。

「大丈夫じゃ、近づいたって逃ぎゃあせん。もっとも、触らせてはくれんのじゃがな」

 獣はぺろぺろと身体をなめ、毛づくろいをはじめた。タイキは獣に触れようと手を伸ばす。すると、獣はひらりとタイキの手をかわし、石段のニ、三段上に退避した。だが、タイキを怖れてはいないようで逃げる様子もなかった。

「にしても変わった犬じゃのう。なぁ、おまん種類知らんか。こんな田舎じゃ、柴犬となんだかわからん雑種しかおらんのじゃ。おまんが住んでおった都会のほうならいろんな犬がおるんじゃろう?」

 ノゾミはあいかわらずタイキのほうを睨みつけ黙っていた。タイキはちょっと困ったような顔をして、頭をぼりぼりとかいた。そして、

「実はな……、夕べ図鑑でこいつのこと調べたんじゃ」

 と言った。すると、ノゾミの表情が変わった。

「でも、なーんも載っておらんかったのじゃ。こいつのことはなんも」
「…………」

 ノゾミは口を開かなかった。だが、さっきとは話を聞く態度が明らかに違っていた。

「図鑑にも載っていないほどめずらしい種類なんじゃろうかのう」

 タイキはあごに手を当てて、赤い獣じっと見つめる。

「……き、キツネ……じゃないかな」

 そこで初めてノゾミが口を開いた。タイキは少し驚いた様子だったが、すぐに、

「キツネか。なんでそう思う」

 と、聞き返した。

「その、顔が似ているし……その、稲荷神社にいるから」
「なるほど、そう言われて見れば、キツネっぽい顔をしておるかもしれんのう。なんや髪型がプードルみたいじゃけど、そういうキツネもおるのかもしれん」

 そして、しばらく腕組みして考えると、
「そうじゃ、こいつなんちゅうキツネかわからんけども、俺らで名前をつけるのはどうじゃ」

 と、言った。

「名前?」
「うむ、いつまでもこいつって呼ぶのもどうかと思うしのう」
「う、うん」

 二人は獣に目を向けて、一生懸命名前を考えはじめた。なんだか暑っ苦しい視線が自分に向けられているのに気が付いて獣は首を傾げる。二人の間にしばしの沈黙が訪れた。


「――ロコン」


 沈黙を破ったのはノゾミだった。

「ロコン?」
「ほら、あの尻尾、カールしてる部分が六あるじゃない。それにキツネのコンを足してロコン」
「なるほど、そりゃあいい。それで決まりじゃ! 今日からこいつの名前はロコンじゃあ!」

 タイキはその名前が気に入ったらしく、一際大きな声を張り上げた。



「この前、駄菓子屋のばっちゃんが漏らしておったんだがの、最近ちょっと目を離した隙に菓子をくすねていくやつがおるらしいんじゃ」

 学校帰り、駄菓子屋で仕入れたお気に入りのイカ串をかじりながらタイキが言った。
 あれから、ノゾミとタイキはみるみる仲良くなった。学校の登下校を共にするだけでなく、学校帰りの駄菓子屋で一緒に買い食いをしたりなど、一緒に遊ぶようになった。あいかわらず野山をかけるのは苦手だったけれど、前より少しマシになった気がする。そして、あの稲荷神社の鳥居の前に朝と夕にあのロコンに会いに行くのが彼らの日課となっていた。

「お菓子を?」
「そうじゃ。それでどこの悪ガキじゃとっちめてやる思って、駄菓子屋のばっちゃん物陰に隠れて様子を見とったそうなんじゃけども」
「それで、見つかったの」
「見つかったには見つかった。じゃけども、それはどこぞの悪ガキではなかったんじゃ」
「じゃあ、何だったの」
「鴉じゃ」
「鴉!」

 ノゾミは妙に感心した。自分が以前住んでいた街も鴉がゴミを漁ったりしていたが、駄菓子屋の菓子をくすねるとはあまり聞いたことがない。肝のすわった鴉もあったものだ。

「で、菓子は袋に入っているもんも多いじゃろ、さすがに開けるのが面倒なんじゃろうな、埃がつかんように上に紙かぶせて並べてあるだけの菓子が盗られやすいんだそうじゃ」
「鴉も考えているんだね」
「おかげでこいつは今のところ被害ゼロじゃけどな」

 タイキはかじっていたイカ串をかざして見せた。すでにイカはついていなかったが。

「これはプラスチックケースに蓋閉めて入ってるけえ、鴉も盗れないらしいんじゃ」

 そんな会話をしながら二人は、家への帰り道を進んでいく。もちろん、この後はロコンのところに寄るつもりだった。二人が歩く両サイドには水田が広がっていた。その水田は山里の四方を囲む青い山々を映している。やがて水田にポツ、ポツ、と音が響き始め、小さな波紋がいくつも連なった。雨である。

「! 雨じゃあ」

 タイキが言った。空を見上げる二人をよそに次第に雨脚が強まっていく。

「ノゾミ、行くぞ」

 タイキがノゾミの腕を引っ張った。

「行くってどこに行くの」
「雨宿りに決まっとる。この近くに雨しのげる場所があるでな」

 タイキはノゾミの手を引き、走り始めた。水田の水面を二人の影が横切って行った。



 雨が降り続いている。屋根に溜まった水が時折、糸が垂れ下がるようにその建物から滴り落ちていく。その様子を五体の地蔵がじっと見つめていた。かなり昔に作られたものらしく、その体のあちらこちらに苔が生えていた。

「ハックション!」
作品名:六尾稲荷 作家名:No.017