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No.017
No.017
novelistID. 5253
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六尾稲荷

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 カナエはノゾミを土間の台所へ入れると、タオルを放り投げ、拭いてやれと言った。タイキの持ってきた薪で火をガンガンと炊く。うちわで風が起こるたびにかまどがばぁっと燃え上がった。そして、たいしたことはできんけども、まずは暖めてやることじゃ、と説明した。農作業をサボっていたノゾミの父親が「何しておるんじゃあ」と言ってからんできたが、「おまんはすっこんどれェ!」とカナエが一喝したら、すごすごと引きさがっていった。
 ロコンのがすっかり乾いたころ、次は傷の消毒じゃなと、カナエが救急箱から消毒液を取り出し、蓋を開けた。消毒液のにおいが立ち込める。
 その時、ロコンがぱっちりと目を覚まし、起き上がった。

「ロコン! 起きて大丈夫なの? 傷の手当てがまだだよ」

 ノゾミが聞いたが、ロコンは差し伸べられた手をひらりとかわすと、タタッと駆け出した。

「待って!」

 ノゾミが追いかけようとしたその時、ロコンが驚くべき行動に出た。ロコンは突っ込んだ。こともあろうにかまどの中に。
 ノゾミ、タイキ、カナエ、その場にいた三人は一瞬何が起こったのか理解できなかった。かまどの中は炎がゴウゴウと勢いよく燃えたぎっている。普通の生物なら大火傷である。
 ところが、ほどなくして炎が消え、その中からロコンが何事もなかったかのように姿を現した。三人は呆気にとられる。驚いたことにロコンの身体には傷ひとつ付いていなかった。ことのほか毛艶がよくなった気さえする。まるで炎から力を貰ったかのようだった。

「……こ、こりゃあ、おったまげたァ」

 カナエは目を丸くして、けれども、とても感慨深そうに言った。そして、

「おまんら、このキツネっこさどこで拾っできたんじゃ」

 と聞いた。
「……近くの稲荷神社で」
「なに、近くというと六尾稲荷か。……ははぁん、なるほどのう。読めてきたぞい」

 カナエはニヤリと笑った。それは怪談話をするときのあのうれしそうな顔だった。
 ロコンが駆け出した。戸の前まで来るとノゾミとタイキをじっと見つめる。ついていってやれ、とカナエが言った。
 一匹と二人は戸の外へと飛び出した。稲荷神社の方向へロコンが走る。すでに日は沈み、空には青白い月が出ていた。



 稲荷神社の石段を登るのは三つの影。ロコン、そしてノゾミとタイキだった。つい最近まで、あんなに行くのが怖かったノゾミ。けれど今は、不思議と怖いとは思わなかった。

「なぁ、ロコンの傷、何にやられたんだと思う」

 石段を登る途中、タイキがノゾミに訊ねた。

「わからない。でも、ロコンはこの上に行きたがっていて、そこにいる何かに……」
「そうじゃな、もしかしたら、毎日上にいるやつに挑戦しておったのかもしれん」
「でも、勝てなかった。だからいつも鳥居の前に戻ってきていたってこと?」
「うむ、それに今日の雨じゃ」
「雨……」
「おまんもさっき見たじゃろ。ロコンが炎で傷治すところ。つまりあいつの力の源つうのは炎なんじゃ。つうことはだな、水に弱いっちゅうこっちゃ」
「雨でロコンの力が弱くなった……それでひどくやられちゃったんだね」
「うむ、そう考えると……イテッ」
「! どうしたの? イタッ」

 石段を進むノゾミとタイキに上から何かが落ちてきた。しかも、今の落下を合図にしてどんどん落ちてくる。落ちてきたものをノゾミが拾い上げ確認した。それはこの時期だとまだ青い木の実だった。

「……ドングリ?」
「風か?」

 そんなノゾミたちの会話をよそに落ちてくるドングリの量がどんどん増える。まるでバケツの水をひっくりかえしたみたいに降り注ぐドングリ。立ち去れ、近寄るな、と言うようにざわざわと木々が鳴った。二人は反射的に腕で顔を覆い守る。

「こりゃあ、落ちてくる量がおかしいぞ!」

 そのとき、二人の上空をゴウッと明るい炎が照らした。ドングリが灰になって飛散する。

「ロコン!」

 石段の上段でロコンが大丈夫かといった具合に二人を見据える。炎はロコンが放ったらしい。間を置かずに、口から炎の弾を二つ、三つ空中に向けて放つ。
 ジュワッ! 何かが焦げるような音がした。次の瞬間、二人の目の前にボトン、ボトンと何かが落ちる。それはメロン程の大きなドングリだった。そして、それがすっくと立ち上がったものだから二人はぎょっとしてしまった。背中や帽子を焦げつかせたドングリ達は一目散に逃げていく。一匹は石段の途中ですっ転ぶとそのまま転がり落ちて行った。

「……何あれ」
「種坊じゃな。木の枝にぶらさがっとる物の怪じゃよ。タマエ婆ぁに聞いたことがある」
「また来られたらめんどくさいね」
「他にもたくさんおるのかもしれんな。急いだほうがええ」

 一匹と二人は駆け出す。案の定、その予感は当たった。進む先々でドングリの飛礫が襲う。

「ロコン、左上!」「今度は真上じゃあ!」

 いつのまにか一匹と二人の連携ができはじめていた。襲い掛かる飛礫の位置から二人が場所を割り出す。ロコンが炎の弾を放つ。一同が走り去る先々で種坊が打ち落とされてゆく。
 石段が終わり山の中の林へ入った。二つ目の鳥居、それは林の入り口。走るロコンの背中を追いかけながらノゾミは、

「ロコンっておばあちゃんの話に出てくる物の怪の仲間だったんだね」

 と、言った。

「ああ、そうじゃな。どうりで図鑑に載っておらんわけじゃ」
「私、正直信じてなかった。おばあちゃんのせいで近所の人に笑われるんだと思ってた。私もみんなも全然信じていなくて。でも、違った。おばあちゃんが正しかったんだね」
「……そうじゃな」

 タイキはなんだか熱いものがこみあげてくるのを感じていた。
 林を進む二人と一匹。三つ目の鳥居が見えてきた。その両側に立派な狐の石像の台座が立ち、そのさらに奥に見えたものは――

「稲荷神社!」「本堂じゃ!」

 二人と一匹は鳥居をくぐる。
 が、その瞬間、
 突風が起こった。吹き付ける激しい風。巻き上げられた木の葉が視界を遮る。それどころか満足に進むことすらできない。次の瞬間、軽いロコンの身体が宙を舞った。

「ロコン!」

 ノゾミがロコンの身体を掴んだ。その瞬間、ノゾミもバランスを崩し風に流される。

「ノゾミ!」

 タイキがノゾミを掴んで地面にねじ伏せた。一同は身体を低くし、前進する。そして石像が立つ台座の影までくると体勢を整えた。しばらくして風が止んだ。二人はそこから突風の発生源を伺った。
 そして二人は、風を起こしたと思われる張本人をその目に捉え、全身から汗が吹き出るのを感じた。
 それは今まで見たことのない大きな物の怪だった。突き出た木の枝のような長い鼻。ツノのようににょきりと生えた耳。頭や顔は老人の髭のような白い毛に覆われていた。その中から覗くぎらぎらと光る金色の目。その両腕には楓のような形の大きな葉がつき、重そうな体を支える足には下駄の歯のようなものを備えている。

「……天狗じゃあ」

 と、タイキが呟いた。

「あれ、奥に何かいない?」
作品名:六尾稲荷 作家名:No.017