無題if 赤と青 Rot und blau
一度だけ、少年の頃に会ったことのある金髪に青い目が美しい青年。弟なんだと誇らしげに自分に紹介してくれたプロイセンの傍らで、彼ははにかむように笑った。そして、プロイセンを見つめる彼の目も誇らしげだった。…プロイセンと同じように青年も空を見上げた。
「…それでいいんだよ」
プロイセンは呟く。そして、俯いた。
「…静かだな」
耳を澄ましても、何の音も聴こえない。
「…静かですね。鳥の声も風の音すら聴こえない」
「…ああ。何でこんなに静かなんだろうな。人の声が小鳥のさえずりが、この街は煩かったって言うのによ。…ここで昔、俺の王が戴冠式を挙げて、そのときは本当に歓声が凄くて…、誇らしくて嬉しくて…仕方がなかったなぁ…」
赤が眩しげに細められ、落ちる。
「……疲れたぜ」
戦うことも、昔を懐かしむことも、弟を想うことも、何もかもに疲れた。少しだけでいい。眠らせて欲しい。今はもう、何も考えたくない。
「ここにソ連軍が達するまで、後少し時間があります。休んでください」
青年の穏やかな声は昔、父と慕った王の声に似て、プロイセンは薄く笑んだ。
「…そうか。…この戦争はもうじき終わる。これ以上、無駄な血は流したくない。…奴等が着たら、武器を捨て降伏する…」
「了解」
頭を凭れせてきたプロイセンの身体を青年は引き寄せ、羽織っていたコートを掛けてやり、瓦礫の隙間から空を見上げる。薄曇の空に赤が射す。その赤に青年は目を細めた。
作品名:無題if 赤と青 Rot und blau 作家名:冬故