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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録004

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そして、その様子を見て思わず声を張り上げたベルティーニ博士に視線を向け微笑みかけると、“それ”に向き直り――唇を開いた。



――――――――――――――  ruin  ―――――――――
name  ―――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――

―――――― inquiry ―――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――― touch


―――――――――――――――RUINEME INQUITACH



「・・・・・・・・歌・・・・・・・?」

手足が、全身が細かく振動しているのを感じた。痛みはない。だが、動かすことができない。
視界が少しずつ、うっすらと青白く澄み渡っていくのがわかった。

ソロは歌っていた。この上なく穏やかな表情で。
身体の中の臓器がふわりと浮かび上がり、上へ上へと引っ張られていくようなこそばゆく、脳が震える・・・落下時に似た感覚が3人を襲う。

何重にも重なり、波打つような。繊細だがそれでいて有無を言わせず、否応なく、問答無用で叩きのめされるような容赦のなさ、激しさ、そして冷たく澄んだ流水を彷彿とさせる重い旋律。

耳から聞こえるのではなく、かと言って頭に直接響いてくるわけでもなく。
全身の細胞という細胞に、その歌声と旋律が染み渡り何もかもを塗り替えていく。

――かのような、錯覚が引き起こされた。

「・・何なんだこれは・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ・・・・」

そのうち本当に部屋全体、そして建物全体が定期的に激しく振動し、その度に脳に細かな痺れが生じるようになった。

歌声が徐々に輪郭を纏い、現実味を増し、「聞こえる」という思い込みが現実になっていく。

そうなってから初めて、ソロはようやく即席の肉体の脳と筋肉を使い、声を出して歌った。

「―――!!」

瞬間、全身に衝撃が走る。
認識できないほど幾重にも重なった歌声と、寄せては返す空気の振動。甚だしい音量の上下が繰り返され、それに影響されて視界までもが同じように前後に波打ち始める。平衡感覚が狂う。

3人とも立っていられなくなり、よろめき、壁やデスクを頼りになんとか転ばずに済んでいる状態だった。

――歌声が空間を支配するにつれ、それまでずっと頭を抱え苦しんでいた“それ”が、徐々に落ち着きを取り戻し始める。
そして息を整えながら、極めて不安そうに顔を上げ視線を泳がせる。

・・・・・光が重なり、眼球の動きが止まる。

見えたのは同じ色、同じ形、同じ作りの瞳だった。

僅かに、“それ”が微笑んだ。
――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――



―同時刻 エリアN20 “アルカディア” レクリエーションフロアにて


「・・・・・・・・!」

「・・この揺れは・・・・・」

突然、部屋全体の床や壁が小刻みに振動を始めた。
大きな揺れではなく、じっとしていれば気が付く程度のものだったが、博士達は一瞬でこの振動の正体を悟った。

「・・・地震ですか・・・・?」

「ああその、ううん。まあ地震じゃないが・・・確かに災害だってことは一致してる・・・」

「そんなこと言って後でどつかれても知らねえぞ。ワンは今頃どうなってるか――」

クロウ博士が喋り始めたその時、大きな衝撃波のようなものが空間を通り過ぎた。
・・まるでこの建物全体が下から突き上げられたかのような衝撃だった。

「――・・・・・おいおい、何だ今のは。あいつが何かやらかしたんじゃねえだろうな・・・」

「いーや、何もやらかしてないなら今みたいにはならんだろ。・・軍部の方は・・・無事だといいんだが」

2人で目配せをしうんざりした顔で、ベクスター博士とクロウ博士は席を立ち、様子を見にバルコニーへ出た。
今いるこのフロアがあるのは40階で、それほど地上からの高度が高いわけではない―しかしそう言えるのはこの世界で170階建てを超える超高層建築物が珍しくないからである―が、ここアルカディア本部の周囲は半径数百キロ以内がほぼ全てバリケードで埋まっており、視界を遮る建造物がない。

常に氷点下であるこの世界の不自然に澄んだ空気のおかげもあり、高度がなくとも隣のエリアに大きな異常がないかを見極めることは容易だった。

「・・・何かあるか?」

「・・・・・・・いいや。特に異常はなさそうだ」

「おかしいな、俺にもそう見える。いつも通りだ。・・こいつは妙だぜ」

「かもな。でもパッと見異常なしならいいんじゃないか?あいつの言い分じゃ俺たちに危害を加えるようなことはしないってのが全ての大前提みたいだからな・・・つうか、正直面倒臭いし寒いし・・・ううっ。今日はまた一段と冷えるな」

全身を苛む冷たい空気に拒否反応が起き、ベクスター博士は肩をすくめて早々と暖房のきいた部屋の中へと引っ込もうとした。

「・・・んん。ま、ぶっちゃけアナログの問題沙汰は軍部の連中に任せた方が早いしな・・・」

もう一度エリアSの方向を見やり、軽く白い息を吐き出すと、クロウ博士も続いて部屋へ戻ろうと体の向きを変えた。

そして数十秒後、先に歩き出したベクスター博士の右手がドアの前に翳された・・・その時だった。

バルコニーの耐衝撃ワイヤメッシュでできた床が、またしても大きな衝撃と共に揺れたのだ。

だが、その揺れは先ほどの衝撃波のように床と平行に通り抜けるものではなく、どちらかというと何かそれなりに重いものが・・・上から落ちてきたかのような。

ほとんど同時に二人の博士が振り返る。そしてほとんど同時に目を見開き、絶句した。

落ちてきた―正しくは着地した―のは、人だった。が――明らかに異質。どこをどう見てもどう考えても。
学者である二人がその性質上真っ先に「おかしい」と感じたのは、その人物がこのバルコニーに着地したという事実そのものだった。

先に明かした通りここは40階目のフロアであり、まず周囲の建物もしくはこの建物の別の場所からこのバルコニーに飛び移るなど、断じて不可能。

なぜなら本部の両隣にある監視塔―高さは1000mを超えている―を除く周囲の建物はせいぜいが20階建ての防護壁。それも最も近くにあるものでもこことの距離はぴったり1kmだと聞かされている。

そしてこのアルカディア本部周囲40km以内の全領域では、本部での有事以外あらゆる航空機の侵入が禁じられている。

つまり、あり得ない。人間のみが外からこのバルコニーに辿り着くなど決して。
・・・800m下の目標物に生身で飛び降り無事でいられる人間がいるなら、話は別だが。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

言葉が出ず、放心状態のまま二人は動けずにいた。

片膝と片手をついた状態から、その人物が立ち上がる。
そして右手に持った何か―剣のように見えなくもない―を持ち上げ、上から背中に回す。