ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録004
その動きはやはり、剣を背中に背負った鞘にしまう動作と酷似していた。その時点で十分多大に現実離れしているのだが、その剣は持ち主が手を放してもその状態のまま、宙に浮かんでいる。
そしてその人物がこちらに向かって歩き出すと、ごく自然に浮かんだまま、まるで見えない鞘に収納されているかのようにその背中を追うのだ。
「―――・・・・・・・・・・・」
二人は呆然とその様子を眺めつつ、あることを思い出していた。先日突然エリアEに現れた、アシエルと呼ばれる超大型の化け物を処理してみせた――
「・・・Molecule Changer・・・・・」
独特の質感を持つ白い布と、おそらくはこの宇宙に存在しない金属で構成された戦闘着。
そしてやはりその予感を現実に変えたのは、透けるような異質な色感の肌、髪、瞳の色。
何よりこの訳のわからない異常な身体能力だ。
「・・・・だよな、そうだよな・・・。・・どうするべきだ・・・・?」
「・・わからねえ・・・・・」
微動だにしないまま二人が小さな声を交わすと、透明な強化ガラスの奥から一部始終を見ていたスワードソン博士とカズモト博士が多少慌てた様子で出てきた。
「・・・・・・一体・・・・・・」
そこでベクスター博士はふと、目の前の異様な人物と目が合ったことに気が付いた。
そして次に、もう一つあることに気が付いた。
・・・話しかけようとしている。
すると案の定ごく普通に、通行人に道を尋ねるかのような雰囲気で声をかけられた。
だが問題なのは・・・
「――っ。・・・えーと・・・・」
「・・・・・・・・・・?」
・・・何度聞いても混乱する。絶対に不可能な発音の羅列・・・。
絶望的なまでに意思の疎通が不可能だという現実。
通じないことは百も承知で、その事実を相手にも知らせるべく、博士は口を開いた。
「ああ、うん。その・・すまんが君の言葉がわからない。あー、言葉が通じないんだ、これでわかってくれたら嬉しいんだけど」
「・・・――。・・・・・・・?」
向こうからすればこちらの言語も、慣れない音の連続。眉をひそめて顔を顰めている様子から見るに、言葉のやり取りが不可能だということは伝わったらしい。
「・・・・・・・。・・・ソロを探しているのでは?」
スワードソン博士が呟く。すると、「ソロ」という名前に反応してか、彼は顔を上げてスワードソン博士の顔を見た。
「!・・・・今のはわかったのか。名前の発音・・・ん、ひょっとしたらあいつがこれを見越して通じるように調整したのかもな」
「ああ多分それだな。・・・ヘイ、・・ソロを、探してるのか?」
名前が聞き取りやすいようゆっくりと問いかけると、やはり「ソロ」という単語だけは理解できているようで、明らかに肯定的な反応を示した。
「やっぱりか。んー、奴に知らせた方がいいのかね・・・って、あいつにゃ全部筒抜けのはずだよな」
「ああ。あっちから戻って来ないってことは、ひとまず現状維持しろってえことだろ」
「・・・・・。彼にここにいてもらうということを意味するなら、何かしらの方法でせめてこちらの意思だけでも伝えられればいいのですがね・・・」
とその時、博士達の様子を見て何かを納得したらしい彼は、何も言わずくるりと博士達に背を向けるとバルコニーの外側へ向かって歩き出した。
「・・・!・・待ってくれ、・・・」
慌てて引き留めようと声を出したベクスター博士は、しかしすぐにまた新しいことに気付いた。
・・彼は上を見上げながら歩いている。その視線を追って空を見ると。
「・・!!」
驚愕のあまり息を呑んだ。真っ暗な空には白い光沢を持つ、人の形をした――
「・・・・・嘘だろ・・・・・・・・」
目線をそのままに、ゆっくりと後ずさる。・・数秒後、バルコニーに二度衝撃が走った。
新たに2人のMolecule Changerが、同じようにはるか上空から降り立ったのだ。
「・・・。・・・冗談きついぜ、ホントに何ともないのかよ」
「・・あいつが言ってたろ、細胞の作りからして違うんだって。笑えねえジョークだぜまったく」
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「・・何かわかったことはありますか?」
「ああ、それがな。どうやらこの世界の人達とは言葉が通じないみたいなんだ。会話ができない・・・でも、そこにいる人達はソロのことを知ってるようだった。俺達がソロの仲間だってことも。聞き間違いじゃなければ」
「マジかー。こりゃ厄介だなぁ。ああでも違う種類の宇宙なんだし当然っちゃ当然なのかも。
・・それじゃあどうする?オレらだけでここにいても仕方ないし、これからソロ探しに行くか?」
「そうですね・・・それがいいかも知れません。でも気になりますね。なんであの人達がソロさんのことを知ってるんでしょう」
「ああ、引っかかるな。・・ひょっとしたらソロが俺達より前にここに来て、彼らと接触したのかも知れない」
「んー、やっぱそう思うよな。つか、そうとしか思えない。あいつのことだし・・・言葉の壁くらいどうにでもできそうだもんな」
「・・とりあえずあいつに話を聞く必要がある。レック、悪いがみんなに伝えてきてくれ。ソロを探そう。いつまた化け物が現れるかわからないしな・・・」
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少しの間何やら言葉を交わし、それが一段落着くと、後から降りてきた2人のうち1人が歩いて他から離れた。そして一度身を低くして――消えた。
「・・!!?」
消えたように見えたが、実際は違った。跳躍したのだ。
そして隣の監視塔の中階辺り―つまり彼は今のジャンプで100m以上跳んだことになる―の縁に片手でぶら下がり、軽く勢いをつけて一回転しそこに着地すると、今度は後方に跳ぶ。
監視塔とアルカディア本部との間を、外壁を交互に蹴ることによってみるみるうちに上昇していき、あっという間に監視塔の屋上へと消えた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
開いた口が塞がらない、とはまさにこのこと。
4人の博士は監視塔の上部を凝視したまましばらく固まっていた。
「・・・これは・・・予想以上ですね」
「マジで笑えねえジョークだぜ。どういう構造してんだよあいつらの細胞は」
「それはそうと、なぜ彼らはここに来たのだろう。人間のいる場所ならエリアEからここに移動して来るまでに沢山あったはずだ、何か・・我々に特別な用事があるのかも知れないよ」
「だとしても言葉がなあ・・・せめてもうちょっとまともな音なら、ノーメマイヤーが何とかしてくれたかも知れないんだが」
「だな。ったくあのグリーンカラー、マジで必要最低限の手助けしかしない気かよ」
「こういう部分は自分達でどうにかしろという意味なのでしょうね。・・・・?」
「ん?・・ポップアップかい?」
突然カズモト博士の手首の端末が、俗にポップアップと呼ばれる少量のデータファイルを受信したことを知らせる短い音を発した。