のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版
第五話 友との死別(わかれ)
保健室で巨大ノミを倒して留守番チームの危機を救ったのび太は、職員室で手に入れたハンドガンと弾薬を彼らに渡した後、聖奈と咲夜とともに校内の探索に戻った。
「聖奈さん、会議室の鍵を下さい」
「わかりました。確か四次元カバンの中に……ありました。どうぞ」
「ありがとうございます」
のび太は聖奈から鍵を受け取り、扉を開錠して中に踏み込んだ。
室内には折り畳み式のテーブルやパイプイスが綺麗に並べられており、あまり荒らされた形跡は無かった。死体の類も見当たらなかったため、三人はこの中に敵はいないと判断し、室内の調査にとりかかった。
「これは拳銃の弾と……ショットガンの弾かな?」
のび太が出入口付近の棚を調べると、ハンドガンの弾が15発入ったマガジンと12ゲージショットシェル6発が見つかった。
「弾があるってことは、銃もどこかにあるはずだよね。一応取っておこう」
のび太はこれを発射するためのショットガンを持っていないが、とりあえずハンドガンのマガジンと一緒に回収はしておいた。
「ホワイトボードに何か書いてあるわね……」
教室の前(西側)の方に置いてあるホワイトボードの隅のほうに小さく書き込みがあることに気付いた咲夜が、ボードに近寄ってその内容を確認する。そこには、“暗証番号:198436”と走り書きされていた。何かの役に立つかもしれない。そう思った咲夜は、この数字を覚えておくことにした。
「職員会議資料……? 一応目を通しておきましょうか」
聖奈が教室の後ろの棚から、ホッチキスでとめられた冊子を発見し、読み始める。これを読めば、何故職員室にハンドガンがあったのか、何故校長室に隠し扉があるのかなど、この学校の不可解な点がわかるかも知れない。
しかし、書いてあることは、“夏休み期間中の生徒指導について”“校内の備品点検について”“給食費未払いの家庭への対応について”など、当たり障りの無いことだけであった。
「……ん? これは……」
「聖奈、何か見つけたの?」
「僕にも見せて下さい」
適当に流し読みしていた聖奈だったが、最後のほうに気になる項目を発見した。その様子を見た咲夜とのび太も、その内容を確認する。
“野比のび太について”
我が校の生徒の中で彼ほどの問題児はいないだろう。ペーパーテストの点数は二桁に達すれば良い方で、五回に一回は0点をとる。運動能力も低学年の生徒と比較しても見劣りするレベルだ。さらに遅刻や授業中の居眠り、宿題忘れの常習犯であり、毎日のように廊下に立たされている。同学年の生徒からは、“マスター・オブ・ゼロ”“廊下の支配者”“ライパチ王”などのあだ名(彼ら曰く“称号”)をつけられ、大いに皮肉られている。同じクラスに在籍する出木杉英才とは対極の存在である。少しは優等生である彼を見習ってほしいものだ……(以下のび太の悪口が数ページに渡って続く)。
「ウワァーッ!」
のび太はここまで読むと、悲痛な叫びを上げながら聖奈の手から冊子をひったくり、自分の四次元カバンの中に押し込んだ。
「「のび太君……」」
聖奈と咲夜が何かを察したかのような表情でのび太を見る。
「そうなんです……僕は普段は全然ダメダメで、みんなにバカにされて、ママや先生によく怒られて、ドラえもんにも迷惑ばかりかけて……」
恥ずかしさで顔を赤くし、俯きながら、冊子に書かれていたことを認めるのび太。彼の周りにズーン、と負のオーラが立ちこめる。
「そうだったのですか……少し安心しました。のび太君の人間味のある一面を知ることができて」
「拳銃を難なく使いこなす凄腕ガンマンも、フツーの男の子ってわけね」
だが、二人はこの程度のことで幻滅するような器量の小さい人間ではなく、むしろ好意的に受け止めていた。
「それに、のび太君はゾンビに食べられそうな私を助けてくれたではありませんか。他の人がどう言おうと、私はあなたのこと、素敵だと思いますよ」
「そうね。私も格好いいと思うわ」
そう言って、ニコリと微笑む聖奈と咲夜。
「……ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
二人の言葉でのび太も自分に自信を持てたようだ。
「さぁ、のび太君も立ち直ったことだし、探索を再開しましょ」
「「はい」」
そして三人は探索を再開すべく、持ち場に戻った。
ガシャーン! と窓ガラスを突き破り、三体のゾンビが現れたのは、そんな時であった。
「「「ッ!?」」」
ガラスが割れる音といきなり現れたゾンビに驚いたが、のび太はすぐさまハンドガンを構えて迎撃体勢を整えた。聖奈と咲夜も少し遅れてハンドガンを構えたが、のび太は二人が発砲する前にゾンビの眉間に的確に弾を当て、危なげなく倒した。
「ふぅ、危ない危ない」
一息ついて、銃を下ろすのび太。
しかし、その瞬間を待っていたかのように今度はゾンビ犬が室内に入り込み、のび太に飛びかかってきた。のび太は慌ててハンドガンを再び構えるが……。
「うわっ!」
「のび太君!」
それよりも速くゾンビ犬がのび太の体当たりを仕掛けてきた。のび太はゾンビ犬に押し倒され、その拍子にハンドガンも弾き飛ばされてしまった。それを見た聖奈がのび太を助けようとハンドガンをゾンビ犬に向ける。
「……くっ!」
だが発砲はできなかった。天賦の射撃の才能をもち、ドラえもんらとの数々の冒険で実戦経験もあるのび太と違い、聖奈は射撃に関してはズブの素人。のび太とゾンビ犬が密着している状態で下手に撃てば、のび太を誤射しかねない。
(まずい! やられる……!)
ゾンビ犬の首元を押さえて噛まれまいとするのび太だが、ゾンビ犬の力のほうが強く、どんどん押されていく。絶体絶命の状況下で、のび太は死を覚悟する。
ゾンビ犬が、のび太の喉元に食らいつかんと牙を剥く……。
作品名:のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版 作家名:カテゴリーF