のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版
『……こちら太刀川』
三十数回目のコールでようやく太刀川が応答した。
「よかった、やっとつながった!」
『出木杉か。すまん、少々手が離せなかったものでな。そっちで何かあったか?』
「はい、実は……」
そう言って、出木杉は太刀川に保健室に現れた巨大ノミのことについて話した。天井裏を移動すること、強力な溶解液を吐くこと、銃弾を何発も撃ち込んでようやく倒せたこと……とにかく手に入れた情報は全て伝えた。敵についての知識があれば、それが生存率の向上につながるからだ。
『……そうか、そっちにも出やがったか』
「そっちにも? ということは……」
『ああ、俺たちもそのノミの化け物と出くわした。というか、ついさっきまでそいつと戦ってた。手ごわい奴だったが何とか俺が殴り倒した』
殴り倒した、ということはあの化け物を木刀でやっつけたのだろう。太刀川さんも化け物じみているな、と、出木杉は心の中でつぶやいた。
「そうだったのですか。それで、怪我等はしていませんか?」
『俺たちは大丈夫だ。車も無事だから探索も続行できる』
「なら良かったです。では引き続き街の探索をお願いします」
最悪の事態を回避できたことに安堵しつつ、出木杉は太刀川らに街の調査の続行を頼んだ。
『了解だ。そっちも気をつけてな』
「はい」
短く答え、通信を切ろうとする出木杉。
『あっ、そうそう。俺からもお前たちに伝えておきたいことがあるんだった』
「? 何ですか?」
太刀川が思い出したように話を切り出した。出木杉は回線を切ろうとしていた手を止め、他の面々とともに再び話を聞く体勢に入る。
『俺たちの敵についてわかったことが二つある。一つ目……の前に確認だ。お前たちの中にゾンビや犬やノミの化け物に噛まれたり引っかかれたりした奴はいないか?』
「? いませんが、それがどうかしましたか?」
出木杉は太刀川の質問の意図がわからず、質問を返した。
「もしかして、噛まれたり引っかかれたらその人もゾンビになっちゃうとかじゃないですよね……?」
のび太が自分の予想を発表した。ゾンビ映画ではよくあるパターンだ。
『ご名答だ野比。ゾンビや犬やあの化け物から攻撃を受けるといずれ歩く死体どもの仲間入りをすることになるから気をつけろ。これが一つ目だ』
のび太はこの予想が外れてほしいと願っていたが、見事に的中してしまった。
敵の攻撃を一発でも食らえばアウト。即ちオワタ式というわけだ。探索はこれまで以上に慎重に行わなくてはならないだろう。
『二つ目。ゾンビは一度倒すと強くなって復活する』
「強くなる、というと?」
『普通のゾンビと比べてかなり凶暴になっている。捕まったらあっという間に喰い殺されるだろう』
「えぇぇぇぇぇぇ!」
スネ夫が思わず叫ぶ。ゾンビが強化されて蘇るなんて質が悪いにも程がある。
「その強いゾンビの特徴を教えてください」
『わかった』
その横で聖奈が太刀川に情報提供を求めた。厄介な相手でも、それに関する知識を事前に知っておけば相対したときの立ち回り方等を考えることができるだろう。太刀川もその意図を理解し、話す体勢に入った。
『まず見た目だが、手の爪が異常に伸びていて全身が赤く変色している』
長い爪と赤い身体という見た目はかなりわかりやすい。一目見ればすぐに判別できるだろう。
『動作は普通のゾンビよりずっと速い。しかもゾンビのくせに生意気にも走りやがる。さっき言ったことの繰り返しになるが、捕まればあっという間に食われるぞ』
走るゾンビ。質の悪さがさらに上がった。
『そしてこの赤ゾンビの発生を防ぐ方法だが……』
「発生を防ぐ方法!? そんなことまでわかったんですか!?」
防ぐ方法と聞いた咲夜が声を上げた。太刀川チームが探索に出かけてから、まだそんなに時間は経っていない。この短時間で遭遇した赤いゾンビの発生を阻止する術を突き止めたことに純粋に驚いたのだ。
「凄いですね太刀川さん!」
『いや、防ぐ方法を見つけたのは俺じゃなくて……』
『俺様だぜのび太!』
今まで沈黙を保っていたジャイアンが、ここで割り込んできた。
『たまたま拾ったメモ帳に書いてあったんだ。それと、俺様は既に赤ゾンビを二体倒した。どうだ、凄いだろ!』
「うん、さすがジャイアンだね!」
得意気に話すジャイアンを褒めるのび太。いつもは理不尽に暴力をふるってくる迷惑極まりない存在だが、こういう時にはその腕っぷしの強さは頼りになる。
「それで武さん、赤いゾンビの発生を防ぐ方法って?」
話が脱線しかけたところで、静香が口を開いて元に戻した。
『ゾンビの頭を潰して倒すか、倒した死体を燃やすんだ。そうすれば復活はしないぞ』
頭、即ち脳を破壊するか、死体自体を処分してしまえば復活を阻止することができる。この情報を得られたことはかなり大きいだろう。
「なら、のび太君が校内で倒したゾンビが復活することはありませんね」
聖奈がのび太の顔を見ながら言った。のび太は女子トイレにいた二体のゾンビも、職員室にいた五体のゾンビも、全て頭部をハンドガンで撃ち抜いて倒している。復活することはないだろう。
また、のび太は先ほど校長室でライターを入手している。あとは可燃性の液体等を入手すれば、赤ゾンビ対策は万全だろう。
『そうか。だったらそっちのゾンビ退治はのび太に任せた。しっかりやれよ』
「うん、任せてよ。そっちも頼んだよ」
『おう。じゃあ進展があったらこっちから連絡する。それまでみんな死ぬなよ! 絶対にな!』
皆に念を押してから、ジャイアンは通信を切った。
「剛田君たちも頑張ってるみたいだね。僕たちもベストを尽くして、必ずこの地獄から生き延びよう!」
「「うん!」」
「「「ええ!」」」
通信機をしまいながら、出木杉が皆を鼓舞する。皆も出木杉の言葉に同意し、力強く頷いた。
作品名:のび太のBIOHAZARD カテゴリーFの改造版 作家名:カテゴリーF