ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録008
「・・おいクレイジーグリーン、こっちは真面目な話をしてるんだ。そいつらが何なのかはもういい、我々は001を追っている。お前がいるのならこっちこそ都合がいい。奴の居場所を割り出してくれないか」
「まあ、聞けって。俺がどういう種類の生き物なのか一発で理解できない奴は馬鹿だと認定することにしてんだ。あんた馬鹿か?違うだろ?
何でもいいから今出動させてる部隊にバックステージへ引っ込むよう指令を出してほしい、できそうにないなら俺達が手伝う。そう言ってる。話はそれからだ」
「・・・・・・・・・・・」
これ以上どのように説得しても無駄だということを悟り、ギルテック元帥は諦めて口をつぐんだ。そして隣のグレー大尉にちらりと目配せをする。
グレー大尉はノーメマイヤーの小型端末を起動させ、何やら操作を始めた。
「・・・一応遠回しにもうじき総撤退することを匂わせておいた。だが俺から直接退けと指示をすることはできない。この出動命令は政府が出したものだ、軍部の勝手な判断で作戦を曲げるわけにはいかん」
「ああ、十分だ。それじゃ俺達が直接兵隊どもの所へ向かって撤退の指示をする。あんたはオフィスに戻ってミルでコーヒーでも挽いてな」
「それはやめておく、おミソぶちまけて死ぬにはまだ早いんでな。ところでお前ら、一体全体どうやって俺の軍に指示を出すってんだ?というかその恰好は?何かのコスプレか?」
見るからに尋常ではない出で立ちの人間達を見渡し、元帥は訝しげに眉をひそめる。
「んなこたどうでもいいんだよ。見てりゃわかるから」
「・・まさかとは思うが力ずくでってこたぁないよな?」
「それはない、約束する。ただちょっと脅しはする。それじゃあな、カタブツコーヒー豆が五体満足で自分の体液を飲めますように」
「ああそうかい。じゃ俺も祈ってやるよ、イカれたグリーンサラダ野郎が無事トマトの下敷きになりますように」
ソロが笑顔で頷きながら腕を上げ中指を突き立てると、ギルテック元帥も真似をした。
その横でグレー大尉が目を閉じて咳払いをする。
「・・ではサー、基地へ戻りますか?」
「ああ、そうする。今日は久しぶりに上等なやつを飲もう。インスタントじゃない方だ」
「わかりました・・・」
背を向け軽く挨拶をすると、軍部の2人は来た道を戻っていった。
「さて。それじゃ行こうか」
「行くってどこに?」
「彼らの捜しものを手伝うんだ。近づきさえすれば向こうから来るはずだ」
「・・・・それって、なんか正直穏やかじゃないものだよな」
「やっぱりそうだよね?・・見つけて・・・どうするの?何が起こるの?」
今までこの件に関する一切の情報を持たなかった彼らにも、当然ながらすでにただ事ならぬ危機感がひしひしと伝わっていた。
「・・・そうだな、もういい加減説明しないとな。・・この人達が所属してる施設で扱ってたある生物兵器が問題を起こして殺処分されることになってたんだが、途中で殺されることに気付いて逃げ出したんだ。そいつは施設の中の最も危険度の高いランクに属するもので、このまま区画の外や街に放たれると大惨事になりかねない。
・・要はまた人々を守るために危険物を排除しろってわけだ」
「そっか・・・それは大変だね。頑張らなくちゃ」
「ここんとこ戦いっぱなしだなあ。魔力もかなり使っちゃってるし・・・それが終わったらちょっと休んだりとかできないのか?」
「ことの片付き方次第だ。うまくいけばしばらく休息が取れる」
「急がなくていいのか?」
「できれば急いだほうがいいがそんなに切羽詰まってはいない」
そんな会話をしていると、ふいにあの白衣の人間達がソロに声をかけてきた。
「おい、軍を撤退させるってどういうことだ?どう責任取るんだよ。一体何をするつもりなんだ」
「責任?知らん。あのおちゃらけた兵隊どもを野放しにしておくと片っ端から死ぬか大ケガするかだから、その前に安全な場所に引っ込ませるだけだ。戦いの邪魔だしな。そんでもって、俺達で安全に速やかに奴を処分する。至極単純な話だぜ」
「処分?・・待って、説得すると言ったのは貴方でしょう?」
「ああ。だが高い確率で奴は説得に応じない。いや、応じられないと言った方が正しいな。まあどういう内容で説得するかにもよるが・・・どうしたい?」
「そんなの決まっているじゃない。あの子が生きて私達のもとに戻って来れるようにしたいのよ。そのためなら何でもするわ」
「何でもするから戻って来い・・か。それでいいんだな。あんまりうまくいくとは思えないけど」
「・・だったら、私達のために戻ってきてほしいと言って。あなたがいないと私やみんなが悲しむから、と」
「逆効果だな。今の奴の思考回路だと、君を悲しませアルカディアや軍部に多大な迷惑をかけた自分に存在する価値などない、優しさや情に付け込んでのうのうと生き延びるなど許されることではな――」
「じゃあどうしてあの子は逃げたのよ!生きたいって意思があったからでしょう?死にたくないと思ったからでしょう!?」
「今俺が言ったのは現在の奴の思考回路だ。奴の思い描く“生きる価値のない自分”の理由には、殺処分を逃げ大勢の人を傷付けたということも含まれている。
・・危機を感じた時本能的に生きようとするのはあらゆる生物に共通してるからな」
「・・・じゃあどうしろと言うの。何をしてもあの子を追いつめるだけだというなら、私はあの子のために一体何をしたらいいのよ!?
・・まさか・・・この世界のために死ぬべきだなんて言わないでしょうね・・・?」
「そうは言わないさ。ただ、俺に答えを求めてはいけない。俺自身、自分が持ってる正解を君に与えられないことがもどかしいんだ。だが答えは自分で出してこそ意味がある。そして君が君自身の力だけでそれに辿り着けることを知ってるからこそ、俺はこんな意地の悪いことを言うんだ」
「・・・・・・・・・・・」
「・・な・・・なんてマトモなことを。お前ホントにソロか?」
「こっちがホントの俺だよ、伊達に一回世界救ってねえからな。さて・・ヒントは出した。準備も整った。迎えに行くか」
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「・・軍部の連中が固まっているな・・・彼の遠回しな勧告はどうやら無駄だったようだよ」
「・・・ヴィンスおま・・・・よく普通にしゃべってられるよな・・・・」
「もう慣れたさ。横方向のバンジージャンプだと思えばいい」
「俺は苦手なんだよこういう感覚・・・!」
「・・・・・おい赤毛寝癖マン、アルスが心配してる。そんな大袈裟に騒ぐなガキじゃねえんだから」
「何だと!?」
数回目の重力飛行だが、早くもすっかり慣れたスワードソン博士とは対照的に、ベクスター博士は引き続き青ざめた顔を強張らせている。
彼らが移動している先の廃墟基地では総軍部の部隊が募り、攻撃準備を始めていた。
「・・・・あそこにワンがいるのね・・・」
「そうらしいね。まだ生きているといいのだが・・・」
夜空を駆け抜け、突き進んでゆく。そして基地の一角の屋上に着地する。