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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録009

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「・・・色は、いつも同じです。銀色の・・・ノルビオとアビントンズのポーラータイを交互に着用するはずです。月曜はノルビオの楕円型のものです」

「・・博士がループタイを着けてると言うの?そんなの見たことないわよ?」

「え・・・?」

「正解は最後にまとめて言うわね。次の問題よ。ベクスター博士はなぜ、18歳の時にインタプリタの推薦を蹴ったのかしら?」

「・・・・・・・・・・・」

“それ”は押し黙った。無理もない。ベクスター博士にインタプリタへの推薦が来たことなどないのだ。

「・・・・わかりません。そんな話は聞いたことがありません・・・」

「先月彼と話したとき、あなたもいたはずよ?仕方ないわね・・・それじゃあ、難易度を落としてあげましょう。カズモト博士のミドルネームは?」

「・・・・・。・・・・う、えっと・・・」

据わっていた目が徐々に動揺と混乱に揺れ動き、仮面のような微笑みが消え表情が戻っていく。

「・・・カズモト博士にミドルネームは、ありません・・・。そもそもつける理由がありません。どうしてこんなことを聞くのですか・・・?」

「・・難しいと言ったでしょう?まだ一度も正解していないわよ。それじゃあ、最後の質問。
・・・・・私は、誰?」

「・・・・・・・・・・・・・」

困惑以外の一切がうかがえないような顔で、“それ”は無言のまま硬直した。
そして苦しそうに恐る恐る、訊ねる。

「・・・・・わ・・・・わかりません。私の知っている方ではないのですね。しかし私は貴女のことを知っているように思われます。貴女は誰ですか・・・?」

ベルティーニ博士の表情が険しくなる。

「・・そう、わからないのね。悲しいわ。もう私のことが思い出せないのね・・・。
・・・・・ワン、思い出して。私が誰なのか。あなたは私が本当は誰なのか知っているはずなの。あなたは賢い子よ、ワン・・・」

「・・・・・・。・・・・・・・っ・・・」

数年間慕い続け、母親のように思っていた彼女の名前がわからないはずがない。だが“それ”はもうすっかり自分の記憶に自信がなくなっている。
自分の能力に疑いを持っている。自分の機能に欠陥があると思っている。

だから、口にできない。母である彼女の名前を・・・。

ベルティーニ博士は静かに深呼吸をすると、苦しそうに俯く“それ”に優しく語りかけた。

「あなたならわかるはずよ。私が誰か。私の名前。そして・・・あなたが誰で、なぜここにいて、ここはどこなのか。思い出すのよ。あなたは知っているの。ちゃんと知っているの」

「・・そんな・・・でも・・・。・・・もう、もうわからないんです・・・自分が信じられないんです。正しいことが何も思い出せない。何故ですか?私が・・私自身の記憶を間違えているのですか?」

「そう、自分を疑って。そして真実を手に入れるのよ。大丈夫。あなたなら・・・絶対に本当のことがわかるわ。そして受け入れられる。
・・・ワン、答えて。ここはどこ?なぜ、いつからあなたはここに?私以外に何が見えるの?」

「・・・・・・・・・・」

賢い“それ”は、その言葉で全てを悟った。だが到底信じられるものではなかった。今自分が置かれているはずの“現実”とはあまりにもかけ離れているのだ。なぜ自分で自分がこんなにも怖いのだろう?

・・・じわりと、“それ”の目に涙が浮かんだ。やがてすぐに溢れ、真っ白な頬を伝って地面に落ちていく。

「・・・・・ここは・・・アルカディアの40階にあるレクリエーションフロアです・・・。約7分前にデータファイルの整理をするためにこの部屋へ来て・・・・・・。
・・・あ・・貴女の他に、コーヒーを飲んでいるスワードソン博士と・・会話しているベクスター博士とクロウ博士、カズモト博士・・その他複数人の研究員の方々が見えます。
テーブルの上にvelvety達が16体いて・・・シャルルは今・・私の前の席に・・・」

涙は止まらず、堰を切ったようにぼろぼろと溢れ続ける。
・・言いながら“それ”は思い出していた。そして同時に気付いた。

velvetyが16体いるはずがない。なぜなら彼らのうち4体は、レベル4のフロアに忍び込んで事故に遭い、すでに死んでいるのだから・・・。

「そう・・・・そんな光景が今あなたには見えているのね・・・。ねえワン、もう一度教えて頂戴。
ここはどこなの?」

たまらず言葉を切り、震えながら涙を流し続ける“それ”は恐怖に怯え、絶望に押し潰されそうになりながら、縋るような思いで口を開く。

「・・・・・っ・・・わかり・・・ません・・・。
・・・・・ここは・・・・・・どこですか。・・・・私はなぜ・・・ここにいるのですか・・・・・。
どうして私は・・・・現実ではないものを現実だと・・思い込んでいるのですか・・・・?」

「ワン。・・・もう、わかるわね。私は、誰・・・・?」

「・・ベルティーニ博士・・・・・アレッサンドラ・ジョゼフィン・ベルティーニ博士・・・」

か細い声でそう答えると、“それ”はゆっくりと目を閉じた。
眼前に広がる景色を、偽りの現実を拒み、打ち消すように。ゆっくりと息を吸っては吐き、まだ止まらず流れ続ける涙に構わず頭をもたげ天を仰ぐ。

・・・ふと、肩にそっと手が添えられた。そして軽く下に力をかけられる。
それに従い膝を折って地面に座り込むと、ゆっくりと細い腕が背中に回り、そして抱き締められた。

「・・・・大丈夫。大丈夫よ。あなたは何も間違えてなどいないの。全部正解だったのよ。
・・あなたは少し疲れてしまって、そのせいで悪い夢を見てしまっただけなの。あなたは悪くないの・・・」

強く抱きしめると、柔らかな体温と震える息遣いが伝わってくる。涙の粒が博士の白衣に落ちる。

「・・・悪い夢・・・・・。夢・・・?・・・もう何もわからないんです。何も・・・何が夢で・・・どれが現実なのか。一体どこまでが、私の作り出した夢なんですか?私は何をしたんですか・・・!?」

「いいの、今は何も考えないで・・・。そしてゆっくり休むの。あなたは長い間苦しみすぎたの。だから休むのよ。安心できる場所で、苦しいことも辛いことも悲しいこともない場所で休むのよ・・・」

しばらくして、“それ”が瞼を上げる。博士はその頬に手を添え、綺麗な青紫色の瞳を見つめて微笑んだ。
――――――――――――――――――
――――――――――――


その様子を、しばらくしてから追いかけてきたスワードソン博士とベクスター博士は黙って見つめていた。
その後ろから、ソロと共にMolecule Changer達が歩み寄る。

「・・・・・彼女は彼女自身の力で正解を導き出し、大惨事を事前に食い止めひとつの魂を救ってみせた。誰にでもできることじゃない。彼女もまた立派な一人の勇者だと言えるだろう。
・・・スワードソン博士。テータジャイロを3機ほど呼び寄せてくれないか」

「・・ああ、わかった。・・・・これでやっと、本来のアルカディアに戻れる気がするよ」