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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録009

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ひょっとすると5年前の事件からの一連の問題は、彼を我々が本来の使命からあまりにも遠ざけすぎていたために神の怒りを買った・・・とかでなければいいんだけれどね」

その時、ほとんど同時に閉じていた“それ”の目がゆっくりと開いた。
うっすらとまだ焦点が合っていないが、ここがどこなのか理解できると安心したのか深く息を吐きだした。

「・・・ワン。目が覚めたのね」

「・・・・・・はい、博士。・・・・・・・・誰かに、呼ばれたような気がしたのです。また勘違いしたのでしょうか」

「いいえ。私があなたを確かに呼んだのよ。・・・おはよう、ワン」

「・・・。・・・おはようございます、ベルティーニ博士」

「ここは夢の中じゃないわ。あなたはちゃんと現実の光景を見てる。・・いいわよ寝たままで。今カズモト博士が薬を調合しに行っているわ。あまり辛いようだったら遠慮しないで言うのよ」

「・・はい。ありがとうございます・・・」

「・・・・ワン。君が何をして、どうしてあんな所にいたのか・・・思い出せたかい?」

「・・・・・・はい。映像だけなら思い出せました。でもまだ現実感がなくて・・・また私は・・・人を傷付けたのですね」

「ああ、だがそれだけではないよ。・・君がクリアで跳ねのけたうちの一人は死亡した。あえて酷な言い方をするが、・・・・・君はまた殺人を犯したのだよ」

ベルティーニ博士が無言で抗議の視線を向ける。だがスワードソン博士は、それ以上の厳しく静かな、有無を言わせぬ目でもって彼女を制圧した。

「・・・・・・・・」

“それ”は言葉を失い、横たわったまま息を詰まらせる。

「君はまた、人間の命を奪ったんだ。それは紛れもない事実だ。君はこの先、その罪を背負って生きていくしかない」

「・・・・・・・・・理解しています。もしもこの私にまだ、生きていていい資格があるというのなら――」

「ワン。僕は今こう言ったはずだよ。生きていく“しかない”、と」

“それ”が視線を上げる。スワードソン博士はひどく真面目な顔をしていた。

「君は心の奥底で、あることを理解するのを拒んでいるはずだ。それは君が罪を犯す結果になった大きな原因が、君以外にあることだ。
・・・・よく考えてみなさい。君はその罪の全てが君自身の責任であると思い込もうとしている。何もかもは自分のせいであり、自分は罪のない人間を殺す救いようのない化け物なのだと思い込んでいる。だがそれは間違いなんだよ、ワン」

「・・・・・・間違い・・・ですか・・・。では・・・一体何が正解なのですか?
私のせいでないというなら、一体誰のせいだというのですか?私の機能にはやはり欠陥があるのでしょうか・・・?」

「・・おいワン、お前それ本気で聞いてんのか?わかってるけど申し訳ないから言わないとか拗ねてるとかじゃなくて、本当にわかんねえってのか?
まさか、本気で全部自分のせいだと思ってたのか?」

「・・・残念だけれど、そうでなければこの子は幻を見るほど追いつめられはしなかったでしょうね。どれほど高い能力を持っていても、心そのものは生まれたその時から変わっていない。変わる余地を奪ったのもまた、私達なのよ」

クロウ博士に向けられたベルティーニ博士の言葉に心底驚愕した様子で、“それ”は頭を上げようとした。

「・・・・・・・・・私が人殺しになった理由が、あなた方だと・・そう仰っているのですか?」

「・・・信じたくないだろうが、実際にそうなんだよ。5年前の事件で君が過活動状態になったのは、ノーメマイヤーに入り込んだウイルスのせいで間違った薬物が投与されたためだ。そしてそのウイルスの正体、発信源、製作者とその目的、すべてが解明できていない。我々は無力で罪深いんだよ・・・」

「そんな・・・そんなはずは・・・。・・・どうしてそのようなことを・・・」

「ワン、あのな。・・お前は俺達を神聖視しすぎてる。俺達を万能の、完全無欠で慈しみ深い神様か何かだと思ってるだろ。でもそうじゃないんだ。俺達は人間で、言ってしまえば個々の能力なんかお前の足元にも及ばないんだよ。それに考えてもみろ、2ヵ月前俺達はお前に何をした?」

「・・そんな、違います・・・私は、・・・私が」

「頭を開いてチップを埋め込んで、何もかも言いなりになるロボットまがいの生物兵器に作り替えようとしたんだぞ。俺達自身の身を守るためにだ。自分達の安全のためにお前を利用して犠牲にしようとしたんだ」

「どうしてそんなことを言うんですか・・・!それは違います!私は本能的に生物を攻撃する生き物だと、事実として明らかになっているではありませんか。私がそれを抑えられなかった、それは私自身の責任で・・・」

弱々しい声で必死に訴えながらも、“それ”は瞳を揺るがしていた。
目は熱のせいか僅かに潤んでいる。

「・・・もともと私はあなた方の所有物ですから、私を使用して身を守ることには何の咎もないはずではないのですか?どうしてそれをさも悪いことであるかのように、私を傷付けているかのように脚色するのです?
・・・危険物である私を・・・あなた方は・・・まるでひとりの人間であるかのように扱ってくれた。
まるで対等であるかのように接してくれた。・・私には身に余る幸福だったのですよ。その上傷付けるしか能のない私を、人々を守る存在にしてくれた。それなのに・・・なぜ・・・?」

いつになく饒舌になり、これまでなかったほどの勢いでまくし立てるように訴える。
・・スワードソン博士は密かな驚きと共に、ソロの言葉を思い出していた。“勇者”と言う存在に選ばれるための条件。

「・・・生物兵器だろうと何だろうと構いません。こんな私を、人を守るために・・・人を救うために使ってくださるなら、それだけで私は十分すぎるほどに幸せで・・・自分の生きる意味を、必要性を、価値を、ようやく見出すことができていたのです。例えそれがどのような形であっても・・・私は幸せなのです・・・」

・・・・・・どうにもならない、苦しい違いだった。それは宇宙の種類というどうにもならない差のなせる業なのか、はたまた彼の短い人生が出した結論なのか。
・・しかし少なくとも、彼の言葉が彼の中でのみのか細い真実であることに変わりはなかった。

ベルティーニ博士は顔を伏せて押し黙り、他の博士達も言葉を失った。

「・・・ではワン、君は幸せだったのですね?ならどうして君はあんなにも激しく長い不安と恐怖の中に身を置くことになってしまったのかな?なぜ願望が現実を覆いつくし、出来上がった幻の世界に縋りつくことになってしまったのか、わかりますか?」

カズモト博士だった。出入り口のドアから歩み寄り、“それ”の目の前のテーブルにゆっくりと錠剤の入ったケースを置く。

そして向かいのソファに腰かけた。

「・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・願望が・・・・・・現実を・・・・・・・?」

途端に言葉に詰まり、彼は視線を落とした。忙しなく揺らいでいた瞳の動きが止まる。