二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
novelistID. 58424
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録009

INDEX|5ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

「・・・・・君は幸せではなかったんだよ、ワン。いくら自分で自分に言い聞かせても、意思だけで自分を完全に騙し切るなどということはおいそれとは出来ません。私でも無理です。
自らの置かれた状況を幸せだと思わなければならない。不満など断じて持ってはならない・・・私達への負い目から、君はそういう間違った義務感を持っていた。それが飛躍した形で、今のような考え方が生まれて身に付いてしまった」

「・・・・・・・・・そんな、私は・・・そもそもがあなた方とは違うのですよ・・・?人間ではないのです。人間と同等の権利など持っているはずが・・・」

「だから、それがいけないと言ってるんです。どうして君はそこまで自分を卑下するようになってしまったんですか?5年前に私の妻とベクスター博士の弟さんを含めた19人もの人間の命を奪ってしまったからですか?」

びくりと“それ”の身体が震え、目が見開かれる。

「・・それです、その恐怖ですよ。自分への激しい恐怖と嫌悪、そして地獄のような周囲への罪悪感。自分でもわかっているでしょう?
それらが君の精神と体を蝕んでいき、そして唯一の心の拠り所だったベルティーニ博士の存在を周囲から失ったことでもうどこにも救いがなくなってしまった。
結果、記憶と願望が入り混じった幻想の世界に逃避するほか、身を守る方法がなくなってしまったんです。そしてそうなった理由は私達の身勝手であるにも関わらず君が君自身に罪を押し付けようと必死なのも、同じく完全に私達への負い目によるものです。
・・本当は、わかっているはずですよ」

「ちが・・違います・・・私はそのようなことは・・・・・貴方達のせいだなんてそんな・・・」

さらに弱々しくか細くなった声で自分に言い聞かせるように呟く“それ”に微笑みかけ、カズモト博士は悲しげに俯いた。

「・・なんだか君を虐めているようになってしまったね。私が言いたいのは、君はあまりにも必要以上に自分を責めすぎているということです。
確かに合計20人の人の命を奪ってしまったのは君の身体ですから、君にまったく非がないと主張するのはさすがに変かも知れませんね。
しかしこれだけは理解して、納得してください。
君のせいでは、ありません。あなたは何も悪くはありません。非があるかどうかと、悪いかどうかは違います。同じように見えますが違うんです。
あえてここまで言い切りますが、その非があるのは君の身体であって、君という存在そのものではないんですよ」

優し気に言い聞かせ、カズモト博士はもう一度微笑んだ。

「・・・カズモトさん・・・あんた最高だよ。さすがだ。
ワン、お前はな・・・頭が良すぎる割に心が純粋で幼いんだ。心が思考に追い付いてないんだよ。
頼むからこれだけはわかってくれ、俺からも言う。お前は悪くない・・・・そりゃあの時すぐは俺も、その・・・ひどく驚いたもんだよ。たった一人の弟だった。少なくともあの瞬間はお前に対して怒りを覚えたし、憎みもした。だが理性が戻ってきて頭が冷えたらすぐにわかった。本当に憎むべきはお前じゃないって。ある出来事を複数人の人間が客観的に見て、同じ結論を出してるんだ。ただお前だけがお前自身をひどく憎んでいるんだ、わかってくれ」

「・・・・・・・・・。・・・なぜですか。なぜそんなに・・・家族を殺した私のことを簡単に赦せるのですか?私に同情しているからですか・・・?」

「違う。何のフィルターも通さず、ごく客観的にあの事件を外から眺めた場合の結論、事実だよ。もっと言いきってしまうのなら、君は悪質なテロリズムを行うために利用された被害者なんだ。君は君の意思で殺人を行っていないばかりか、さっきも言ったが薬物で昏睡状態にされ操られていたと言っても過言ではない。それなのに君だけをひどく責めるのはお門違いも甚だしい、それだけのことなんだよ」

「・・・そうよワン、私からも言うわ。例えば爆弾テロの時に、テロリストがスラム街の孤児を誘拐してきて身体に爆弾を巻き付け、町の中に置き去りにして爆発させ、その結果多くの人が死んだり傷付いたりしたとするわ。こんな場合で、あなたはその子供が全面的に悪いとそう主張しているのよ?いくらなんでもおかしいでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・では本当に、私を・・・人を殺した私を被害者だと、そう仰るのですか?そのテロリズムの例は本当に、私に適用してもいいものなのでしょうか・・・?」

「ええ。違いは利用されたあなた自身が命を失ったかどうか、それくらいのものよ。
・・・ねえ、私からのお願いよ。もう終わりにしてほしいの・・・自分自身を憎むことを。もうあなたは十分すぎるほど苦しんだわ。あれから5年間ずっと地獄の苦しみを味わい続けた。もういい加減、あなたはあなた自身を赦してあげるべきなのよ。だから・・・もう、やめにしましょう」

「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・っ・・・・・・・」

・・・・・・透明な滴が一粒、潤んでいた“それ”の目から零れ落ちた。
胸に刺さっていた大きな棘が抜け落ちたように思われた。身体が軽く熱くなり、熱の引き起こす寒気がいつの間にかなくなっている。

・・それは事実ではない、誤りだ、悪いのは全て自分なのだと反発する思いそのものはまだ強かった。しかし自分はどこか・・心のどこかで無意識のうちに赦されるのを確かに望んでいたのだ。
苦しみから解放されることを望んでいたのだ。

・・・胸を熱く埋め尽くすこの表現しがたい思いが、何よりもその事実を雄弁に語っていた。

「・・・・・・・・・・いいのですか・・・?私なんかが・・・人殺しの化け物が・・・赦されてもいいと・・・本当に・・・?」

「いいんですよ。なぜなら君は人殺しの化け物などではないのだから。あなたはあなたです。私は君を赦しますよ」

「ああ、俺も赦す。お前は化け物なんかじゃない。・・・俺達と同じ人間だ、ワン」

・・・人間。化け物ではない。
・・・・・・・また、涙が止まらなくなった。これほど大きく感情が揺れ動いたことなどなかった。
喜び、安堵、途方もない感謝。・・・涙が出る時にこれほど気持ちが楽だったことなど一度たりともなく、想像したことすらなかった。

「・・・・・・・・・・っ・・・く・・・・・・・・・・・」

流れ出続ける涙を仕方なく袖で拭い、暫く目を閉じて初めての感情を噛み締めた。

「・・・・・ふふっ。君は我慢強いはずなのに、今日は泣き虫だね」

微笑むカズモト博士の言葉に小さく頷き、深呼吸をする。

「・・はい。・・・・・不思議ですね。・・・・・・・・悲しくなくても・・・涙って、出るものなのですね・・・」

・・その言葉に、博士達は一人残らず和やかに微笑んだ。ベルティーニ博士が少し涙ぐみながら“それ”――ワンの髪を優しく撫でる。

他の何かには代え難い、尊い時間が流れた。
――――――――――――――――――
――――――――――――


薬で熱が一時的に下がり、自力で歩けるようになるまで回復したワンは、ひとまず格納庫まで戻って休息をとることになった。
ベルティーニ博士が隣につき、二人で静かな廊下を歩く。