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子はかすがい

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 時すでに遅し。二人とも頭に血が上って清霜の言葉など耳に入らなかった。
 もはや殴り合いが始まるのは時間の問題かと思われたその時。
「コラ、そこ! 食堂で暴れたらご飯抜きですよ!」
 厨房から間宮がストップをかけた。
「……チッ」
「……フン」
 霞と朝霜はそっぽを向きつつ、自分の席に着いた。
 艦娘たちの胃袋を握っている間宮に嫌われたらここでは生きていけない。だからこそ霞も朝霜もおとなしく引き下がった。しかし二人とも頭に血は上りっぱなしであった。
 それから二人はまったく目を合わせることなく無言で昼食を胃の中に流し込み、早々と食堂を後にした。
 二人にとっても、そして清霜にとっても、最悪の昼食となった。


「霞ってお母さんみたいね」
 事のいきさつを聞き終わった足柄が真っ先に言ったことがこれである。
「どこをどう聞いたらそういう感想になるのよ?」
「だって言ってることが子供に厳しい教育ママって感じなんだもん」
 霞は苦笑いせずにはいられなかった。
「じゃあ清霜が子供で、朝霜が旦那ってこと? 冗談じゃないわよ、あんな甘っちょろい考えの旦那なんて」
「確かにそうね。私も朝霜は甘いと思う。でも朝霜だって清霜のことを思って言ったのよ?」
 それくらいのことあなたにもわかっているでしょう? とまでは、足柄はあえて言わなかった。
「そりゃあ……まあ」
 霞も頭ではわかっていた。わかってはいたが、まだそれを素直に飲み込めないでいた。
 私だって清霜のことを思って心を鬼にしたんだし、先に悪口を言ってきたのは向こうだ。それに乗っかって私も朝霜に悪口を言ってしまったのは悪かったけど、でも――霞の脳内が無限ループに入りかけたそのとき。
「うりゃ」
「わぷ」
 足柄は何の前振りもなく霞を抱きしめた。
「ちょ、何すんのよ」
 戸惑う霞の背中を、足柄はポンポンと優しく叩いた。
「霞はどんなことにも一生懸命よね。でももっと肩の力を抜いてもいいのよ?」
 足柄は再び背中を優しく叩く。ポンポンと。
 霞はされるがまま、足柄の体温を感じていた。何故か抵抗する気にはなれなかった。ずっとこのままこうしていたとすら思った。
 足柄も飽きることなく霞の背中を優しく叩き続けた。
 ポンポン。
 ポンポン。
 ポンポン。
「……もういいわ」
 やがて霞は足柄の腕の中から離れた。
「朝霜と仲直り出来そう?」
「どうかしらね……アイツ次第じゃない?」
 憎まれ口を叩きながらも、その顔は先ほどまでとは違い、風の無い海のように穏やかだった。


「朝霜さんってお父さんみたいみたいですね」
 事のいきさつを聞き終わった大淀が真っ先に言ったことがこれである。
「どこをどう聞いたらそんな感想になるんですか?」
「だって言ってることが子供を甘やかすお父さんみたいだと思ったものですから」
 朝霜は苦笑いせずにはいられなかった。
「じゃあ清霜が子供で、霞が嫁ってことですか? 冗談じゃない、あんな口うるさい嫁なんて」
「確かにそうですね。霞さんは厳しすぎるかもしれません。でも霞さんだって清霜さんのことを思って言ったのではありませんか?」
 それくらいのことあなたにもわかってますよね? とまでは、大淀はあえて言わなかった。
「いーや、そんなことないね! あいつは清霜に自分の考えを押しつけてるだけさ!」
 口ではそう言いつつも、朝霜も頭ではわかっていた。わかってはいたが、意固地になってしまっていた。それだけ頭にまだ血が上っていた。
「では朝霜さんは自分こそが清霜さんを思っていると?」
「そうさ。清霜のことを本当に思ってるのはあたいさ」
「でも朝霜さんはさっさと昼食を食べ終えて食堂を出て行ってしまったんですよね?」
「……え? ああ、そう、ですけど」
「本当に清霜さんのことを思っているのなら、清霜さんが昼食を終えるまでしっかり面倒を見てあげなきゃいけないんじゃないですか?」
「うぐっ!?」
 大淀の言葉が弾丸となって朝霜の胸を貫いた。かなり痛いところを突かれた。
「霞さんとのケンカで熱くなって当の清霜さんをちゃんと見ていないなんて、それで本当に清霜さんのことを思っていると言えるのですか?」
 朝霜はぐうの音も出なかった。反論しようにも出来なかった。頭に上っていた血が急速に下がっていき、代わりに後悔の念が湧いてきた。
 清霜には悪いことをしちまった。霞にもちょっと言い過ぎた。あのときあたいがもっと冷静でいればこんなことにはならなかったのに――朝霜は後悔で頭が重くなり、がっくりとうつむいた。
「朝霜さん、反省したようですね」
「……はい。あたいが悪かったです」
「よしよし、ちゃんと反省できてえらいですね」
 大淀は朝霜の頭を優しく撫でた。
 何故か朝霜には大淀の手がとても暖かく思えた。出来ればこのままずっと撫でていてほしいと思えるくらいに。しかし。
「こ、子供あつかいはやめてくださいよ」
 朝霜は大淀の手から逃れるように一歩下がった。流石に少し気恥ずかしかった。
「そうでしたね。子供じゃなくてお父さんでしたね」
「そういう意味じゃねえんだけど……ま、いっか」
 朝霜は小さく溜め息を吐いた後、顔を上げた。
「お父さんらしいところ、見せてやらねえとな」


 霞も朝霜も、夕食のときに謝ろうとは思っていたのだ。
「「あっ」」
 しかし夕食の配膳待ちの列に並ぶタイミングが同時になるとは思っていなかった。まだ心の準備が完全に整っていないのに顔を合わせてしまった。
「よ、よう」
 それでもぎこちないながら朝霜から声をかけたが。
「う、うん」
 霞の返答もぎこちなかった。
 会話が続かない。続けられない。
 二人の間に気まずい空気が流れた。
 この場でじっとしていても他の艦娘の邪魔になるだけので二人ともとりあえず配膳待ちの列に並んだ。無言のままで。
 素直に謝ればいいだけだ。ごめんと言えばいいだけだ。しかしその一言が、たったそれだけのことが出来なかった。
 さっきまではちゃんと謝ろうと思っていたはずなのに、いざとなるとびびるなんて――二人とも自分を情けなく思った。
 二人の心境にはお構いなく配膳待ちの列は進み、夕食の配膳が淡々と進められていく。次々とトレイに載せられていく夕食はまたしてもピーマン尽くしだった。
 これじゃ清霜じゃなくてもピーマンが嫌いになると二人とも思いつつ、いつもの席へと向かった。
 いつもの席には清霜が先に座っているのが見えた。トレイに載ったピーマン入り中華スープをこぼさないようゆっくり歩いていた二人だったが、そこで信じがたいものを目にした。
「……行くぞっ!」
 清霜が自分に喝を入れた次の瞬間、大嫌いなはずのピーマンを口に放り込んだのだ。これには霞も朝霜も目を丸くした。
 清霜は眉根を寄せながらピーマンを二度三度と噛んだ後、たまらずコップに入った水でピーマンを流し込んだ。
「……ぷはっ、はあ、やっぱり苦いよお」
「お、おい、大丈夫か? 無理しなくていいんだぞ?」
 朝霜が慌てて駆け寄って声をかけた。霞も朝霜を追って清霜に駆け寄った。スープが少しだけこぼれた。
「あ、朝霜姉さん。霞ちゃんも来てくれたんだ」
作品名:子はかすがい 作家名:ヘコヘコ