ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録011
ソロ: まあそういうことだ。理解が早くて本当に助かるよ。一瞬一瞬、ものとしては別の人格のようなものが入れ代わり立ち代わり俺の肉体に憑依するんだ。実のところ、ひとつの人格がもつ時間は一秒とない。今この瞬間にも・・・そうだな、パラパラ漫画みたいなもんだ。
俺の本体にある核が方程式を与えて、かつて存在していた“ソロ”という人物を演じるように命令してる。残念ながら今はそいつにも自我はないがな
博士: ・・・・・・少し、整理させてください。まず、今私の目の前にいる貴方は本体ではないのですね?以前仰っていたのを思い出しましたよ・・・それで、本体はどちらに?
ソロ: どこにでもいる。そして膨張し続けてる。時間と同じくらいのペースで膨らんでるんだ、とうの昔にこの宇宙を飲み込んでしまっただろうよ。俺もあんたも何もかもが、俺の中にいるんだ
博士: ・・なるほど。それと次に、かつて存在していた“ソロ”というのはどなたのことです?
ソロ: 俺を作った奴だ。俺というシステムを作り上げて、自分のレプリカに適用させた俺のオリジナルのことさ。そいつは使い捨ての俺とは違って、人間としての意識と自我を確かに持った生物だった。奴は自分で自分を作り変えたんだ、こうなるように。そのほうが何かと都合がいいからだ。
・・無責任な男だ。だが自分ではどうしてもできないことを、自分を超越した存在を作り出すことによって成し遂げようとした根性は見上げたもんだぜ
博士: ・・・・確かに治療の余地はないようですね・・・・。貴方は私達や貴方のお仲間さん達とは根本的に違う種類の存在なのですね。
私は今自我を持たない存在と言葉を交わしているわけですか・・・・・なんとも・・・奇妙な感覚です。
このメモリチップに入っているのは、その・・貴方が今演じていらっしゃる“ソロ”の記憶なのですね?
ソロ: そうだ。人間として生を受け、無能な神のおかげで699年間生き地獄を味わい続けた哀れな男の一生だよ。そいつを見終わったとき、あんたの気が狂ってないことを祈るよ・・・
博士: ・・・・。・・・自信がなくなってきました。何かアドバイスを頂いても?
ソロ: うーん。まず基本として、決して感情移入しないこったな。あくまで情報として見る。絶対に理解しようとしないこと。“ソロ”の気持ちを考えないこと。・・実は仲間達の中にそれをやっちゃった奴がいてね。ここでこう言うのは可哀想なんだが、・・・そいつも病気になってしまったよ。普段の様子を見てるだけじゃわからないと思うけどな。あ、自分では気付いてないし認めようともしないだろうから、もし誰なのかわかっても触れないでやってくれよ
博士: ・・・わかりました。肝に銘じておきましょう。・・貴重なお話をありがとうございました
録音終了(※注釈2を参照)(※注釈3を参照)
※注釈1 Rqur et izech virtaor… 彼らの言語で“神は苦を与えるものなり”の意。
※注釈2 ここでソロが語る複数人の人物は全て同一人物であり、ソロが自己の異なる正確性とアイデンティティを別人格として認識していた可能性が高い。
ここでソロが語る複数人の人物は、ソロが“殺した”と述べる人物以外は全て同一人物である。
彼の彼自身を批判する声と姿は臨床的な大鬱病性障害による症状、その後に現れたまとまりのない会話をする複数人の存在は統合失調症の陽性症状であると考えられる。
また、“とある理由で鏡を見ることができなかった”のは一種の強迫性障害によるものであると考えられる。
(またこれらのことから、ソロの意識中には複数の精神疾患が併存しており、現実として実際に人間を殺害した過去を持つことがわかる。
※詳細はファイル05を参照)
※注釈3 ここでのソロとはこの宇宙に存在する彼のうち人間の形態をとっており、言葉でコミュニケーションをとることが可能な不完成個体(つまりカズモト博士が話している相手の男性)を指す。
“ソロ”とはソロを作り出した張本人で、かつて意識と自我を持ち活動していた人間の個体を指す(既に死亡していると思われる)。
またソロの本体が“宇宙のどこにでも存在しており膨張を続けている”とは概念としての性質を説明しているものと思われる(概念については別ファイルの“アレル”を参照)。
※注釈2で述べたすべての精神疾患はかつて“ソロ”が患っていたとされるものであり、
現時点ではソロがそれを模して演じているものと思われる。
彼の仮人格形成に関する詳細は現時点では解明不可能。しかしソロはその仮意識上に10120以上もの人格を所有しており、それらが常に高速でランダムに入れ代わり続けているためこれまでに現れた人格がもう一度現れることはほぼありえない。そのためひとつひとつの人格が使い捨てと称されていることがわかる。
「・・ワンをあいつらに会わせるってことか?まあ・・・大丈夫だとは思うが」
「率直に、何のためだい?・・いずれは彼らに知れることになると?」
「それもある。だがもっと単純な理由だ。戦力は少しでも多いほうがいいだろ?それだけの話さ」
ベルティーニ博士は密かに眉をひそめた。だが何も言わず話に耳を傾ける。
「戦力ねえ・・・なるかな。確かに彼はお前のコピーではあるが、何しろまだたったの6歳だ。実験と“処分作業”以外でクリアを使ったこともないし魔法も使えない。お前たちのように戦うのはいくらなんでも厳しいと思うけどな・・・」
煙草を銜えたまま訝しげに肩をすくめるクロウ博士。
「そうかな?実際のところ、700歳の俺と6歳のワンには別段大きな能力差はないんだぜ。俺はクリアの存在を知ってから数日足らずでここまで使えるようになったんだ、独学でな。俺が教えてやれば、戦いとしてサマになるまでには数時間とかからないはずだ」
「・・前から気になってたんだがその、お前はごく最近までクリアの力を知らなかったってのはマジな話なのか?」
得意げに話すソロに、ベクスター博士が疑問を投げかける。
「ああ。劣化した細胞が崩壊して液状化を起こしたんだ・・・つい数日前の話だ。それまで俺は自分が二本以上腕を持ってるとは夢にも思わなかった。それを抗体で止めて、一旦俺の身体は死んだ。それでまあ色々あって肉体は復元させた・・・いや、させてもらった、だな。液状化直前の記憶を頼りに、俺はクリアの使い方を身につけたってわけだ」
「じゃあ、お前も少なくとも一度以上、過活動状態を経験してるってことか・・・。自然にその状態に入りそれを生き延びた結果、今のこの膨大な力があるってことだな。グッドタイミングだぜまったく」
「そういうことだ。ワンはラッキーだぜ、自然発生の過活動状態はそりゃもう酷い有様になるからな・・・仲間達には多大な迷惑をかけてしまった。まあ、どっかの馬鹿がクソウイルスを送り込んだせいでその幸運も台無しになったわけだがな」
「・・・。・・ねえソロ。・・ひょっとして貴方、戦力を増やすという目的のためだけにワンを助けたの?・・・話を進めるのが早すぎるわ。あの子はまだ手術を終えたばかりだというのに」