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同調率99%の少女(6) - 鎮守府Aの物語

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「はい。」一切のふざけはなしにあっさりとした返事をする那美恵。

 那美恵がとなりに来たのを確認し、校長はその少女にある質問をした。
「率直な気持ちを聞かせてね。光主那美恵さん、戦いは怖くない? ……それから、戦いは楽しい?」
 那美恵は途中までの質問なら聞いた瞬間に答えようと口から返事を出しかけたが、一拍置いて校長の口から発せられたさらなる質問のために、それを飲み込まざるをえなかった。言葉を脳が解析し終わって単語の意味を理解した瞬間に冷や汗が出る。校長の真意がわからなくなり、那美恵は急いで考えを巡らせる。

 戦いは怖くはない。艤装の影響もあるため、深海凄艦という化け物と対峙してもそれなりにやれる。しかし、楽しいかと言われると、正直のところわからない。どう答えるのが校長にとって正解なのか?校長が経験していないと思われる戦いの思い出に沿えるような、否定的な回答をすればいいのか、それとも真逆のことで、楽しい・世界のために戦えるというポジティヴな意思表示をすればいいのか。
 そもそも、今まで自分は深海凄艦との戦いに何を思ってきたのか。那美恵はそこから思い直す必要と感じた。艦娘の目的は、世界中の海に蔓延った深海棲艦を撃退する、それが仕事である。鎮守府に協力するとか運用を手伝うなどそういったことは、深海凄艦との戦いという仕事のための単なるお膳立ての一要素でしかないのかもしれない。艦娘の仕事は1にも10にも化け物との戦いなのだ。それが自分達の覚悟を決めた唯一の仕事のはず。
 そう心の中を見つめなおすと、那美恵は途端に深海棲艦や戦いについて恐怖心が湧き上がってきたのに気づいた。そして那美恵の口からは、当初頭にあったこととは逆の言葉が出て、自分の正直な思いを明らかにしていた。

「……怖いです。よく考えたら深海凄艦との戦いは怖くて仕方ありません。心から戦いが好きな人なんて、あたし含めて今の日本にいるはずがありませんし。」


 出始めた那美恵の言葉をゆっくりと何度も頷いて噛みしめるように聞く校長。
「そう。でもあなたは艦娘になって、この2ヶ月近く戦ってこられたのよね?怖いはずが、なぜかしら?」

「それは……。」
 つまった言葉、それをどう言おうか那美恵は考えた。その時、ある存在が頭に浮かんだ。尊敬する祖母、そして提督の顔だった。決して向かい側に提督がいるからとかそうわけではない。

 那美恵の祖母は92歳の大往生であった。祖母の大活躍は70〜80年以上も前の出来事で、当時を詳しく知るものはもはやほとんどいない。それでも最近あったことのように熱く・目を輝かせて明るく語る祖母のことは、本人とその話両方ともに孫娘の那美恵は大好きで、それが自分自身のことであったかのように深く思い入れがあった。
 当時の大人たちが苦戦する中、子供であった那美恵の祖母たちは機転を効かせて大人を助け、戦いを勝利に導いた。問題児も多かった(彼女の祖母自身も勝ち気で目立ちたがり屋など問題も多かった)という当時のその小学生を、クラスメートたちを率先してひっぱって指揮していったのが彼女の祖母だった。
 那美恵の完璧を目指す信念、そして誰かを引っ張ったり、アイドルのように振る舞って世間を明るく賑やかにさせたいという思いの根源は、祖母にあった。

 そして提督。鎮守府を出れば普通の男性である。世が世なら那美恵は彼と絶対出会うことはなかったであろう。そんな人物西脇栄馬と触れ合った2ヶ月弱、基本的には頼れる大人だが、この人は自分がついていないとダメかもしれないと、思えるような面を那美恵は提督に少なからず見いだしていた。
 それなりに清潔感ある身なり・普通にアラサーのおじさん・やや挙動不審な点もあるがいいとこお兄ちゃんと言ってあげてもいい話しかけやすい雰囲気の男性である提督、西脇栄馬。IT業界に勤めてるそうだが、言葉の端々に文系の匂いがし、様相に似合わぬ熱い思いを語るときもある提督。自分と似たところがあるかも……と那美恵はなんとなく思っていた。フィーリングが合うなぁと感じるときもあった。自分に似てないけど似ている。
 そう思いを馳せられるゆえ、那美恵は提督自身にところどころ欠ける要素を、自分が補完してあげて彼の完璧を自分が演出したい・支えてあげたい・尽くてあげたい、引っ張っていってあげたいと思うようになっていた。
 その根底にあるのは理屈ではない、心の奥から沸き上がる感情。

 頭に浮かんだ二人に対する気持ちが那美恵が艦娘としてこれまでやってこられた原動力だったと、落ち着いて考えた彼女の頭で浮かんでまとまっていた。言葉に詰まって数分にも感じられた約1分弱の後、那美恵は校長に答えを告げた。