艦これ知らない人が大和を引けない友達を煽るとこうなる。
けれど結局夢は見なかったように思うし、誰かの気配に起こされることもなかった。
自然に気持ちよく目が覚めて、枕に乗せたままの頭を少し傾けると、深夜近い時刻を指す時計が見えた。
「変な時間に起きちゃったな……。」
満足するまで眠ってからこんな時間に気持ちよく起きては、もう今夜は眠れまい。明日の日中が辛そうだ。
それに、僕の悪い想像がほとんど現実になってしまった。目が覚めてしばらく彷徨いても誰にも出会わない……そんな深夜に目覚めることを予知したとでも言うのだろうか。
そういう事を考えて、思わず僕は先のような独り言を呟いたのだが。
「……んー……。」
その独り言に、自分の腕に顔を伏して眠る誰かが反応した。眠っている僕を見ていたら、そのまま眠ってしまった……そんな姿勢だ。
起きた様子はなく、ただ少し身じろぎして、彼女はまた寝息をたて始める。すっかり寝入っているようだ。起こさないように注意しながら、僕は布団を出た。
伸びをして、寝すぎたせいで固まった身体をほぐす。すると、ちょっと足がつりそうになったので、びっくりして慌てて伸びを止めた。
今すごく無様だったなと思い、自分の寝室なのに誰かに見られていないか心配するように部屋を見渡した。腕と頭だけをベッドに伏して眠っている人しかいなかった。
そんな眠りにくそうな体勢でいなくたって、自分の部屋で寝たらいいのに……そう思って苦笑しつつも、近付いて見るとあまりに気持ちよさそうに寝ていて、起こすのは躊躇われた。そんな体勢でも気持ちよく眠れるなら、それもいいだろう。
とりあえずそのままにしておいて、そっと毛布だけ掛けた。途中で眠ってしまったにしても、僕の様子を見に来てくれたことへの感謝の毛布としておこう。
ベッドに腰掛けて、彼女の顔を見つめてみる。
(こんな風に無防備な姿をまじまじと見つめられているとは思うまい。油断大敵だぞ。)
口には出さないでおいたので、彼女はまだ油断したまま。
(そんな風に深々と眠っていては、いざという時に対応できないぞ。僕がその気になったら、気付かない内に君の髪を撫でることだって出来てしまうんだからな。)
そう思って、そっと手を伸ばす。すっかり油断している彼女の髪を撫でてやろう。
……僕の手は、寸前で止まってしまった。何があったわけでもない。ただ、触れたら起こしてしまうかもしれないと思っただけ。僕に触れずに行ってしまった時雨もこんな気持ちだったのかな。
(ごめん、嘘だった。僕はその気になっても、君の髪には触れられない。)
伸ばしたまま何も触れずに引っ込めた手を軽く握りしめて、自分の膝に置いた。
さて、どうしようか。部屋を出て彷徨いても、こんな深夜では誰にも会えない。仮に夜更かししている誰かに遭遇したとしても、「しまった見つかった」という顔をした相手を「早く寝なさい」と叱ることしか出来まい。体裁上。
かと言って、朝まで仕事をしようにも、作戦終了翌日では大して仕事もない。あっても書類整理くらいで、そんなものは榛名が済ませたに決まっているのだ。
……まあ、いいさ。彼女が起きるまで、その寝顔をじっくり見ていてやろう。油断大敵だ。
作品名:艦これ知らない人が大和を引けない友達を煽るとこうなる。 作家名:エルオブノス