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瑕 6  昔語りをしようか

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「誰が来た?」
 頬に手を当て、無理やりこちらを向かせる。
「えーっと、山のおっちゃんとおばちゃんと……」
 つらつらと神の名、いや、士郎命名のあだ名が出てくる。
(さすが、神だ。待ってもいられないのだな、一日たりとも……)
 呆れながら思って、士郎に口づける。
「何も言わなかったぞ。ずーっと、下向いて」
「それでいい」
 ご褒美だ、と深く口づける。
「な、なんの、ごほ、うび?」
 少し息を弾ませて訊く士郎に、内緒だ、と答えて頭を撫でた。
「食べようか」
「うん。遅かったな、今日」
「ああ、明日の仕込みもしたからな」
「そうなのか? どうしたんだ? いつも仕込みなんて……」
「これも、一手だからな」
「一手?」
 首を傾ける士郎の腕を引き、食事をとるために縁側へ出た。


 何日か豪華食を続け、ようやく士郎の沙汰が下りる日が来た。
「俺はいつも通りでいいのか?」
「ああ。何か言われれば、言いたいことを言えばいい。まあ、その必要もないだろうがな」
 手を差し伸べると、少し迷う左手が指に触れた。
「何を怖がっている?」
 その手に口づけて引き寄せ、顎を取ってキスをする。
「バ、バカ、部屋の前じゃないんだから!」
 本殿へ向かう回廊の途中で、誰が見ているとも知れないと、耳まで赤くなった士郎が可笑しい。
「もー、お前、なんなんだよー。自由すぎだし、なんか浮かれてるだろー」
 浮かれもする。
 あの神使をやっと落とすことができるのだ。
 あれからオレを避けているのは知っている。
 後ろめたいからだろう。オレが何か言いやしないか戦々恐々としている。
 先日のオレの口上で、ややほっとしていたようだが、ナキの情報によれば、被害者ぶっているのも、このところ控えめだという。
(自分が犯した罪を贖えばいい)
 久しぶりに敵意を向けたい相手ができた。
 アマテラスも厄介だったが、あれはもっと直接的で真っ直ぐだった。今回のような狡いことをしなかった。
(さて、どう出るか、あの神使)
 楽しみで足取りが軽くなる。
「アーチャー、楽しそうだな……」
 オレを見上げる士郎は、少し不安げだ。
「そんな顔をするな。この手は離さん」
「だ、だから! そ、そゆこと、こんなとこで言うなよ!」
 照れるな、可愛いだけだ。
 オレは上機嫌で本殿に着いた。
「相変わらず、見せつけてくれるのう」
 スサノオが呆れたように言って笑う。
 イタケルとその神使とナキ以外の神々と神使たちは唖然としている。確かにオレたちのことを詳しく知るのは、前の四人と、コノハナサクヤくらいだろう。
 下座に並んで座ると、士郎が手を引く。
「離せよ」
 小声で士郎が言うが、さらに指を絡めて握り返した。
「ア、アーチャー?」
 にっこり笑って返す。
「お、おま……、はぁ……」
 呆気に取られる士郎がやがて額を押さえてため息をついた。諦め半分で納得したようだ。
「さて、揃ったことじゃ、衛宮士郎の沙汰であるが、いかがする?」
 スサノオが口火を切って、神々に問う。
「追放などせずとも、反省しておるようであるし、許してやろう」
 山の神が蓄えた髭を撫でながら言う。
「なぜ、反省しておると?」
 聞き捨てならない、と他の神々が腰を浮かせる。
「あ、う、いや……、その……」
 しどろもどろの山の神に、
「まさか、衛宮士郎に会いに行かれたのか?」
 と違う方向からつっこみが入る。
「塞いでおったのう。少しは元気になったか?」
 士郎に話しかける神も出てきた。
「ぬ、抜け駆けとは、みな、なんと……」
 出遅れた神は悔しげにしている。
(ああ、やはり、こういう感じになったな……)
 結局、神々は士郎に甘い。惚れた弱みとはよく言ったものだ。オレも例外ではないが。
 いっこうに沙汰の話にならず、士郎は、ぽかん、としている。
「なあ、なに? この、ちょっと、学園のアイドルに対する、不可侵協定みたいな感じ……」
 オレを見上げて、困惑した顔で訊いてくる。
「お前が、神々に愛されている、という証拠だ」
「よくわかんねーな、神様って」
 半眼で苦笑している。
 まったく、わかっていないのは士郎も同じなのだが。
「一つ、伺いたいことがあるのだが」
 オレが声を上げると、スサノオが、なんだ、と訊く。
「士郎は、いったい、どういったことで、蟄居しているのかが知りたい」
 神々も神使も唖然としている。すべてを聞いて、頭を下げたのだろう、と言いたげだ。
「私はただ、士郎が“やってしまった”と言ったので、何か食事に不手際があったのだと思い、前の食事の際に謝罪をしたまで。いったい何を神々に供しましたか?」
 大真面目にすっとぼけてやった。
 神使たちが、あの神使に目を向ける。周りから、言ってやれ、と囃し立てられている。
(言えんだろう、証人の前で堂々と嘘など)
 白い顔が真っ青だ。ああ、可笑しい。
「そ、その、ひ、人崩れ、が……」
「人崩れ? 士郎のことか?」
 わざとらしく訊いてやる。
「そ、そうです! 神使でもなく、人でもない、人崩れでしょう!」
「だが、スサノオがそれを認めている。神使ではなく、人としてこの磐座にいろと」
 神使がスサノオに目を向けると、スサノオは大きく頷いた。ますます青ざめる神使。
「それで、いったい、何を?」
 オレが先を促すと、
「そ、そやつが、私を、け、蹴りつけ、た、大刀で脅したのです! お、お前も、見たでしょう!」
 顔を紅潮させ神使は早口でまくしたてる。
(自分のことには触れないつもりか)
 思いながら、こく、と頷く。
 ほら見ろ、と言う顔で神使は少し安心したようだ。
「だがそれは、風邪で声が出ず、皆目、動くこともできない私を、そちらが襲ったからだろう?」
 ぴき、と張りつめる本殿の空気。神使の顔面が蒼白になった。
 声も出ず、動けない者を襲う、という言葉に、神使どもは何を想像しただろう?
 一気に神使は注目の的だ。
「私が部屋の前まで這って出て、息をついたところに士郎が戻って来た。あの時、私は体調が悪く、そちらの白粉の匂いで吐き気をもよおしていたのでね、士郎が戻ってきて、ようやく生きた心地がした、というものだ」
 淡々と説明し終わると、びたん、と何かをはっ倒す音が聞こえる。
「なんという真似をしてくれたのです!」
 コノハナサクヤが青筋を立てて、あの神使を床板に叩きつけた。まるで、外泊した娘を叩きのめす、おかんのようだ……。
「アーチャー、俺の目おかしいかなぁ……、外泊した娘を叱る、おかんに――」
 士郎の口を手で塞ぐ。
「気持ちはわかるが、口に出すな」
 オレも同じことを思った。
 士郎は悪くない。あの姿が、おかんを彷彿とさせるあの神が悪い。
 コノハナサクヤと神使のやり取りを皮切りに、本殿では神と神使の口喧嘩がはじまった。
 喧々囂々、主従関係なしで言い争っている。相変わらず、神も神使も自由らしい……。
「決まったようだのう」
 スサノオはあくび交じりに口を開く。
「衛宮士郎は無罪放免。その神使には、少々灸を据えねばならんな」
 言ってスサノオは立ち上がる。
「衛宮士郎の濡れ衣が晴れたのなら、こんな茶番はお開きじゃ」