ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録012
「・・・これが本来の俺達の在り方なのさ。神から戦う力を与えられなかった者たちの盾となり、正義の刃となって悪と戦う。それが宿命だ。クールだろ」
「自分で言うなよ。それにしても・・・効果抜群だなその変装セット。確かにそれなら辺外宇宙の生命体だなんてことはバレっこねえ」
アレルとアルス、加えて“イメチェン”したアレフとエイトとレックを見てベクスター博士が呟く。
「だろ?なんなら一緒に行ってきたらどうだ?」
「んー、興味はあるんだが時間がないんだよな。報告書が詰んでんだよ・・・」
「だろうな。まあそりゃお前が勝手にやり始めたことさな。・・・さぁーて」
「・・どうしたんだい?」
「ワンの戦闘訓練、最終ラウンドだ。この俺とタイマン勝負。みんなのことだからどっか無意識に手加減してるってことを踏まえて、その分俺は思いっきり完膚なきまでにブチのめしてやらなきゃあな!」
「・・・・大人げねぇぇ・・・・」
「あ?何か言ったか?」
「・・・うぐぁッ!!」
高速で地面に叩きつけられた次の瞬間、間髪入れずに身体の正面を蹴り砕かれ地面を削りながら吹き飛んでいく。咄嗟ながら防御の姿勢は取れていたはずだが、蹴られた場所と恐怖を覚えるまでの容赦のなさからかダメージは半端ではない。
金属の地面を削り切り、それでも止まらず身体がしばらく転がり続けた。
「・・・が・・・はっ・・・・・」
内臓がいくつか破裂したらしい。喉の奥からせり上がってきた血を吐き出し、ワンはよろけながらもなんとか立ち上がろうと体に力を入れる。
「・・11,12,13秒。駄目だな、もっと早く体勢を立て直すんだ。13秒も無防備でいたら一体何度殺されていたと思う?」
ゆったりと余裕の溢れる足取りでソロが歩み寄る。
「それとガードが甘すぎる。ただ急所を守りゃいいってわけじゃないんだぞ。俺が本当に本気で蹴ってたら4回は死んでた」
「・・げほっ・・・・ぅぐ」
「・・・や・・やりすぎじゃないかソロ?もうちょっとゆっくり・・・」
「大丈夫だ。こいつは自分の痛みを軽減することができるから。立てないのは率直に損傷のためだよ」
そう言うとべホマをかけ、重心を落として構える。
「よし、かかってこい。あと2回くらいぶっ飛ばされたらジャストガードからのカウンターも身につくだろう。もう一息だぞ」
「・・っ・・・・・はい・・・・」
・・それから数分後。ワンがソロの動きに遅れずついていけるようになった頃、博士達のもとに短めのメッセージが届いた。差出人はアルカディア本部にいるベルティーニ博士だった。
“スワードソン博士、カズモト博士、ベクスター博士、クロウ博士。お取込み中失礼します。5人だけでお話したいことがあります。重要な要件です”
「・・アリーからだ、珍しいな。一体なんだ?」
「再来月に渡すチョコレートの好みを聞きたいってわけじゃなさそうだな」
「・・・ひとまず本部に戻ろうか。とりあえずソロに知らせて・・・ん?」
続いて受信音が鳴る。データ発信源が不明のメッセージ、つまりソロだ。
“どうぞ、行ってきてくれ。俺達はこのまま少し街に出てくる。夕方には本部に戻る”
「・・大丈夫そうだな」
「ええ。・・・戦いながら端末にメッセージを送れるということは、彼の神経細胞はノーメマイヤーのデジタル領域と一体化しているということですね・・・」
「・・・・それで、話とは何だい?」
アルカディア本部に着き、指定された会議室に博士達が足を運ぶと、そこには酷く真面目な顔をしたベルティーニ博士が待っていた。その背後のモニターには、いくつかのデータ名が羅列した画面が映し出されている。
「・・これは・・・・・薬学部の投薬記録か?」
「ええ。5年前のものよ。あの事件でワンに投与された電子薬物の運搬記録。・・・なぜ今になって急にこの話を蒸し返したのか、それを今から説明しますわ」
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―エリアW10 “市街区域”にて
「へー!凄いね、街全体がおっきなドームに入ってるんだ!」
「はい。このドーム型シェルターは、クリーチャー達から住民を守るために最近建設されたものです。それから・・・たいへん勝手ではございますが、大声で発話するのはできる限り控えて頂いて・・・」
「あっ、そうだったごめん。お忍びで来てるんだったね」
その後、同じく“イメチェン”したワンに案内を頼み、彼らは武器と戦闘装具を手放して街にやってきていた。
エリアW10居住区域。先日重力操作の特訓をしたアルカディアの保護領域とは規模・雰囲気共に別物の大きな街だ。閑静ながらも人々が行き交い、様々な建造物や人工ではあるが樹木や湖なども見られる。
はるか頭上には明るく光を放つ巨大な天井のようなものがあり、遠くにそれを支える柱にも見える大きな塔がある。
「あの塔はアルカディアのエリアW支部です。その隣の大きな黒色の建物は軍部の支部で、あの二つがこのエリアの保護と統括をします。少し手前には学校もあるんですよ。とても有名な進学校で、クロウ博士や――ああえっと、棒付きキャンディーの人・・と、ガムを噛んでいるオラついた寝癖の人とジャンケンの人の母校です。現在はカズ・・じゃなくてジャンケンの人の娘さんも通っておられます」
「ふうん・・学校かあ。なんか俺達の世界だと、学校って一部のお金持ちの子供だけが行ってるイメージだよなあ」
「そうなの?ボクそもそも学校の存在すら知らなかったよ」
「ああ、確かにな。俺なんて16までほとんど町から出ずに過ごしてた気がする。勉強なんて別の次元の話だった。やらなきゃいけないことといえば家の手伝いと剣の練習しかなかったし・・・」
「そっか・・・オレの場合はなんか家庭教師とかわんさかつけられたけどなあ。文学の先生と歴史の先生と、算術の先生と政治学の先生と魔法の先生と・・・」
「ひえー、やっぱ王族は違うなあ。庶民に生まれてよかったー」
「王族?」
聞き慣れない単語にワンが首を傾げる。
「ああ、この宇宙じゃほぼファンタジーに近い言葉だな。実はもとの世界ではサマルとレックは王子様だし、アレフとアベルはなんと一国の主、つまり王様だ。そして庶民で良かったと言ってるがエックスお前は・・・やっぱ何でもない」
「え、何か言った?」
「・・それは素晴らしいですね。ところで貴方は今どこにいらっしゃるんです?」
ソロの声は聞こえるが、どういうわけか彼の姿はどこにも見えない。
「気にするな。消費エネルギーを抑えるためだ」
「ねえねえ、街と言えばやっぱりお店だよね。武器とか防具は・・・売ってなさそうかな」
「防具は・・・専門のところに行かないと手に入りませんが、武器なら。でもお金は?」
「俺がいること忘れたか?」
「いいえ覚えています」
「この世界の武器ってやっぱ銃なのか?つか、一般人も持ってんの?」
「ええ。この区域では銃の所持は一応認められておりますので。しかしそれは護身用の小さな種類限定で・・・あなた方の戦力にプラスとなるようなものとなると、特別な免許が必要になってきます」