ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録012
「俺がいること忘れてるだろ」
「いいえ覚えています」
「あはは、ソロがいりゃ問題はなさそうだな!」
「銃があれば戦い方のバリエーションが増えるしありがたい。案内してくれるか」
「理解しました」
外とは一転して明るい雰囲気の街の中を、ごく普通の出で立ちをした若者たちが歩いている。おそらくは誰の目にも、ハイスクールの生徒たちが放課後に街でうろついているようにでも映ることだろう。
「それとな、ちょっと寄ってほしいところがある。ル・コワン・ディスクレという名前の雑貨やらアクセサリーやらを扱ってる店があったろ?」
「ええ、はい。ご用事がおありで?」
「錬金素材の調達だ。てなわけで、二手に分かれないか?通訳も二人いることだしさ。みんなそれぞれ興味がある方に行けばいい」
「雑貨屋さんかあ、いいな。ボク行ってみたいかも・・・」
「俺も気になるな」
「僕はこの世界の武器に興味がありますね」
「では、何を購入すればよろしいのですか?」
「あー、お前とみんなに任せる。適当でいい」
街の東側にある銃器店。ちらほらと人が見えるが、やはり他の場所と比べるとその数は少ない。大きな力に守られているこの領域では、たまたま銃が故障したときくらいにしかこの店を利用する機会がないのだろう。それ以外の客は定期的に武器のメンテナンスと新調を頼みに来る軍部の人間だけだ。
商人と話をするため空中から這い出るように姿を現したのは、ワンと同じように“イメチェン”したソロだった。・・が、服装が大幅に違う。一般人の普段着には到底見えないものだ。
「さてと。別のエリアの闇市場に行けば上等なのが破格の値段で手に入るんだが、博士達に知れるとまた厄介なんだよな。あ、ちなみに俺も一応は常識人気取りだから、出す金は今までに倒してきた化け物どもの数に相当するようにしてるぜ」
「ああ、まあ・・・それがいいな。感覚的にモンスター倒したらお金になるって感じだし」
「つっても一度手に入ればいくつでも複製は作れるんだけどな」
「ところで、その格好は何です?なんだか見覚えがあるような気もしないでもないんですけど・・・」
「ん、これか。軍部の制服だよ。ただの一般人が強力な銃器を大量に買い占めたらさすがに怪しいだろ?」
「なるほど!」
「ああそれから、今から少しの間だけ“嘘つかない”っての解除する」
あまり大きくはない入口から建物の中に入ると、強化ガラスのショーケースや壁、天井に様々な種類の銃器やそれ関連の道具が並んでいた。以前の世界で使っていたため銃は見慣れているはずだが、それらとは色や形や材質が違う。それぞれの商品のすぐ近く、見たことのない不思議な文字が小さな電子パネルに表示されている。
「・・・すげえ・・・・なんか強そう」
ささやきに近い音量でレックが呟く。その横をソロがまっすぐ歩いていき、何食わぬ顔でカウンターの店主に端末を差し出した。
「このリストにあるものを現品転送で頼みます。先月予約しておいた分に上乗せで」
「・・いいだろう。・・・あんた見ない顔だが、新任かい?」
髭をたくわえた店主が端末を受け取り、コンピュータと接続しながら問う。
「ええ。以前の特務曹長がこの間の騒ぎで任を解かれましてね、なんでも脊髄が蝶結びになったとかで。緊急で僕が任命されたんです。・・正直生きた心地がしませんよ・・・こちとらまだ22だってのに」
「そりゃまた・・・その若さで前衛部隊のリーダーとは、ご愁傷様なこった。気の毒でならねえ。手足が二本ずつあるうちにせいぜい人生を楽しんでおけよ。・・・・んん?・・こいつぁ・・・軍の正式指定のものじゃあねえようだが?」
手を止め、目を細めて画面を睨みながら店主が眉をひそめる。
「ああ、フィーコス准将からの指示ですよ。あの白い・・なんて言ったかな・・・そうだ、ナピアスとかいうジョークみたいに速い化け物が頻繁に現れるようになってから追加されたんです」
言いながらソロ特務曹長は後ろを振り返り、何気なく仲間達の様子を確認する。
それにつられて店主も顔を上げて店内に目を向けた。
「・・・なんだ彼らは?まだ子供じゃないか」
「・・・そうみたいですね・・・ま、こういうものに興味が行く年頃ですよ。それにこの辺の学生ってことはたぶんリラフィールドの生徒でしょう。人間味があっていいじゃないですか」
「・・三度の飯より勉強が好きなインテリのボンボンでも、銃に興味を持つもんかね・・・」
ソロが冗談っぽく小声で言いながら肩をすくめ、欠伸をしてカウンターに肘をつく。店主は小さくため息をついて作業を再開した。
「・・ねえあれ、どうやって持つんだろうね・・・あそこを肩にかけるのかな」
「多分な。なんか弾もおかしな形してるよな・・・・」
不思議そうに武器を眺めながら、ソロに他人の振りをされているとは露知らず彼らは店内を見て回っていた。
「・・あんまり喋らない方がいいんじゃないですか。言葉を聞かれたら不思議に思われちゃいます」
うっかり普通の音量で会話していたエックスとアルスに、ひそひそ声でエイトが注意する。
二人はすぐに口を閉じて頷きと目配せで返事をした。
「・・・・よし、手配が済んだぜ。アルカディアに送るってことはまた違法改造するのかい」
「ダメですよ言っちゃあ、機密指定なんだから。・・その辺をおたくに頼めないのにも事情があるんですよ。それもなかなか面倒に込み入ったやつがね」
「そりゃ難儀だな。まあうちとしちゃ、あんたのとこからはいつもそう悪くない額を頂いてる。仕事は終わり、そっから先はあんたらの責任だ。・・ところで新任の兄ちゃんよ」
「?」
「あんた、随分キレイな顔してるな。一体全体何が悲しくて軍部なんかに入ったんだ?そんないつ死ぬかわからないような仕事に就かなくたって、あんたならもっと楽な生き方があったろうよ。それに22で軍隊をひとつ任されるだなんて前例のないスピード大出世だぜ、ん?」
どこか嫌味なニュアンスを含んだ物言いに、ソロは目を細めてうすら笑んだ。
「からかうのはよしてくださいよ。これでもちゃあんと実力で昇って来たんです。あと今のは天下のミスターガントリック・ジェラルド・フィーコス准将にゲイの疑いがかけられたと受け取っていいんですよね?」
「たまんねえぜ、パンチの効いたジョークだってことをわかれよ。もし俺がお前さんくらいのギフトを神さんから貰ってたなら間違いなく人生バラ色だったってだけの話だ。それとも何か?同じようなことをよく言われんのかい?」
「ご慧眼で」
「へっへへ、そりゃお気の毒に」
カードを翳して支払いを済ませると、携帯弄りを再開した店主の冷やかしの声に背を向け、ソロは一人でさっさと店を出た。
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一方南側の雑貨店付近では、案内係のワンを含めた全員が思わず立ち止まって目を丸くしていた。
なぜかというと、現在絶賛流行中の店の前は目を見張るほどの数の若者たちでごった返していたからである。
「・・すごい人の数だな・・・」