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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録013

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そうわかった瞬間、心臓がぎゅうっと締め付けられるような痛みが胸に生じた。

「・・・お前は俺にとって最後の希望で、そして断頭台でもあった。お前が俺に救いの手を差し伸べてくれることと、俺が絶対にその手を掴めないことの比喩だよ。
・・・わかってたんだ、実は。お前は俺とは違う。俺の背中を追って来たら、お前はきっと壊れてしまう。例え俺のところまで辿り着いたとしてももうお前は助からない。・・・それでも、いいのか」

・・レックは少しの間黙り込んだ。そして口を真一文字に結んだまま、音もなく涙を零した。

「・・・・お前はそんなのは嫌だって言うんだろ。仲間を犠牲にしてまで助かりたくなんかないって、そう言うんだろ。・・・けど、オレは諦めない。一人で逃げ出すなんて許さないからな。必ず捕まえてみせる。そしてお前を救ってみせる。それでオレ自身がどうなろうとも、絶対に」

ソロは少しだけうつむき、悲しそうに微笑んだ。

「・・そうか。わかった。なら、俺はお前を壊すよ。お前がそう望むなら、俺はお前を壊す。
・・・・・ごめんな、俺の我儘のせいでこんなことになってしまって。謝っても謝り切れない」

そしてゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、先に行ってる。・・ずっと待ってるよ。いつまでだって待ち続ける。深淵の底で」

次に彼の姿を見た時には、胸が締め付けられ苦しくなることもない無機質な雰囲気が、膝下まである黒いコートの外側に纏わり付いていた。
すっと気持ちが軽くなり、気を抜くと嗚咽を零してしまいそうなほどの息苦しさが消えていた。
・・今すぐにでも手を伸ばしてその感覚を取り戻したかったが、もうそれは叶わない。

「・・・・・ソロといると辛いだろ?あんまり長くやると助ける助けない以前にお前の精神がやられる。だがこれから俺がする提案もまた、お前の心を取り返しがつかないほど破綻させることになりかねない・・・」

言いながら、ソロはレックの隣にゆっくりと腰を下ろした。

「・・それでもやるんだな?」

レックはそっと息をつくと、手の甲で涙を拭った。

「・・・ああ。オレはあいつを助けたい。そのためなら何でもする。・・どうか力を貸してくれ」

「・・わかった。まず利用するのはお前の、夢に入る力だ。それを応用してこの宇宙の因果律に紛れ込んだ“ソロ”を探す。前の宇宙では“ソロ”はお前とサマルのおかげで消え去ったが、ここでは違う・・種類が違う宇宙だからな。“ソロ”は今この瞬間にも膨張と増殖を続けている」

「・・・つまりどういうことだ?」

「あいつの残した残留思念によって生み出された“負の感情”が、この宇宙では凍結せずに成長を続けてるってことだ。この宇宙にいる限り、俺達にも少なからず影響はある。わかりやすく例を挙げるなら、楽しさや嬉しさや安心といった感情よりも、恐怖や不安や憎しみなどの感情が沸きやすくなったり、気持ちの多くの部分を占領し始める。そしてその段階を過ぎると負の感情が進化を始める」

「・・進化?・・・負の感情が進化って言われても・・・・ピンと来ないな」

「しっくり来ないのは当たり前だ。俺達はまだ進化する前の感情しか知らず、それを想像する余地もないからな。ただ、狂気は・・・あるいは半分進化した状態と言えるかもだ」

「色んなのが混ざってるからか?」

「それもある。・・さて、それからソロを無事見つけ出してお前の力でどうにか具現化し、内部に忍び込むことができたら・・・問題はそこからだ。なにせお前が入るのは“負の感情”そのものだからな。諸悪の根源と言ってもいい。一体化したお前の精神が心象世界として反映されるだろうから、お前はおそらく・・自分の心とソロの心が合体して具現化した奇妙奇天烈な空間を一人で探索することになると思う」

それを聞き、レックの表情に緊張が走る。・・・前の世界でソロの感情の中に入った時を思い出したのだろう。

「・・その世界は、オレを拒んで追い出そうとするか?」

「それはお前次第だ。前のはお前とサマルが完全な部外者としてソロ個人の感情の中に侵入してたからあんな感じになった。今回はお前の心もある程度反映される。つまりお前の精神状態や気合次第で、見える風景や状況をコントロールすることも可能だ」

「・・・やり方としては明晰夢みたいな感じか?」

「そうだな。例えば極端なことを言えばその世界で凶器を持った何者かが襲ってきたとしても、お前の力で強く思い描いて念じることで、そいつを地面に咲いてる花に変えてしまうこともできるわけだ。
ただこのレベルのを度を越してやり過ぎるとその空間が何を軸にしたものだったかわからなくなっちまう恐れがある。悲しみが歓喜に、不安が幸福に変わったりするもんだから、お前の心は正常な働きを失う。例え無事に戻って来れたとしても、お前の精神は色んなものがごちゃごちゃに混ぜ込まれた支離滅裂な状態になってしまうだろう。そうなったら終わりだ」

「・・・・あくまでも切り札としての手段だと思っとくってことだな。ちなみに逆もあるんだよな?」

「ああ。地面に咲いてる花を見つけてそれを“怖い”と思えば、それはお前が怖いと感じる何かに変わるだろう。風景でも同じだ。ループする空間に入り込んでしまった時“どうしよう、きっともう出られないんだ”なんて考えちまうと本当にそうなる。つまり大事なのはさじ加減だ。適度に自分の身を守りつつ、その世界にある程度の秩序を残したまま探索をする。まあお前なら大丈夫だとは思うが――・・・」

「・・・?」

ふと言葉を詰まらせたソロ。レックは多少の不安を覚えつつ続きを待った。

「・・・・。・・そうか、ここじゃ時間の流れ方も違うのか。とするなら――レック、多大に注意するべきだ。わかりやすく言うとこの宇宙の“ソロ”は長い間放置され続けたせいで、腐敗している。お前には想像もつかないと思うが、ただの悲しみと腐敗した悲しみは全くの別物だ。やっぱお前の言った通り、全力でお前を追い出そうとするだろう。あるいはお前を傷付けようとするかも知れない。用心した方がいい」

「・・・もし、その世界の中で死んだらどうなるんだ?現実でも死ぬのか?」

「死ぬ。身体は生きているが自我が崩壊して生きた人形になる。それより腐敗した負の感情の怖いところは、他者を自分の中に取り込もうとする性質だ。お前の身体にではなく心に攻撃をしてくるだろう。おそらくは・・・お前の弱さや罪の意識に付け込んで、自分と同じ性質の感情でお前の心を埋め尽くそうとしてくるはずだ」

「・・・・・もしそれに屈服してしまったら?」

「・・お前はその世界に取り込まれて腐敗した感情の一部になってしまう。・・・そう言えばまだ優しかったが経験があるんじゃないのか?前の世界での時に。“悲しみ”の像はお前とサマルを自分の中に引きずり込もうとしただろう?あれのもっと強烈なのが来ると思えばいい。精神的にダメージがデカいやつがだ」

・・・真っ青な光でできた巨大なソロの像がレックの脳裏をよぎった。頭の中に響き渡る悲しみの歌と、下へ下へとどんどん引きずり込まれていくあの感覚。

「・・・マジか。あれでもかなり精一杯だったんだけどなぁ」