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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録014

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ソロはゆっくりと―ふらついているようにも見える足取りで―歩み寄ってくる。その顔はどこか怯えているようにも見えた。

(・・・・・・・?・・・怖がってる・・・?)

状況が理解できない。

「・・・・・・ぅ・・・ぁぐ・・・いいいいかない・・で・・・・・」

「!」

違う。怯えているわけではない。・・彼は・・・・・

「・・・か・・かな・・・・・――かなななしぃ・・・ぃいいいい」

・・・・・悲しんでいる。ただひたすらに、悲しんでいるのだ。レックは思わず身体の力を抜いた。

「・・たーーーーー助け・・・・たすたすけけけ・・・・・て・・・・・」

苦しそうにそう言うと重心を落とし、直後それまでのおぼつかない動きが嘘だったかのような速さで間合いを詰めると腕を振りかぶり――

「うああッ!!」

防ぎきれず、肩を大きく抉られた。・・・ぎりぎりのところで倒れず踏ん張ったが、すぐにじわりと大量の血が肩に滲む。
・・ただ抱えきれない悲しみに取り憑かれて苦しんでいるだけの彼を、操り動かして自分を攻撃しているのは何なのか。
彼はこんなこと望んでいないはずなのに。ただ悲しみから逃れたくて、助けを求めているだけなのに。

レックは剣を握る手に力を込めた。そして魔力を込め始める。・・倒れるわけにはいかない。まだたった一つ目なのだ。ソロが遺した全ての感情をあるべき姿に戻さなければならないのに・・・・こんなところで朽ち果てるわけにはいかない。

空中から振り下ろされた“鉤爪”を躱し溜めていた魔力を乗せて剣を振り払う。血飛沫が舞い、ソロは受け身を取りながらも力に押され、血が滴る腹を押さえながらうずくまった。

「ぐ・・・・いいいた・・い、・・いたいぃぃ・・・・ど・・・して・・・。やめーーーーて・・・・・」

レックはその苦しげな声を聞かないよう自分で叫び声を上げながら、床を蹴って追撃を加えた。数回にわたる斬撃でソロの身体は目も当てられないほどに傷付いたが、すぐに身を翻して反撃に移る。

防御できているはずだが衝撃が大きすぎる。あまりの強烈さにガードが崩れかけ、攻撃を食らわないよう床を蹴って後退した。

「・・・・・っく・・・・・・」

確実にダメージは与えているはずだが、その様子からはまったく窺うことができない。
自分の方は・・まだ魔法で回復しなくても大丈夫だ。動けなくなるほどじゃない。

早く決着をつけてしまおう。強く大きな魔力を身体の底から引き摺り出し、周囲に纏わせる。しばらくの間力を溜めるのに専念し、繰り出される攻撃をすんでのところで避けながら魔力を高め続けた。

・・そして・・・機を見計らい、全ての力を剣に込めて駆け出す。正面から。牽制攻撃をまともに食らったが、お構いなしに突き進み――相手の懐に飛び込むと、上半身を渾身の力で斬りつけた。

「うぁぐッ・・・!!・・・ぅぐううっ・・・・・・」

おそらく心臓までを深く切り裂かれただろう。大きな傷口と口から大量の血を流し、ふらふらと後ずさる。
・・・後ずさった先には、ソロの死体が倒れている。何も身に着けておらず胴を完全に引き裂かれた状態の。
彼はゆっくりと首を傾けそれを見据えると・・・・――四つん這いになり、口を大きく開けたかと思うと死体を貪り始めた。まるで飢えた狼が草食動物を食らうかのように。

「・・・・・・・・・ッ」

レックは言葉を失った。白い皮膚を引き裂き、肉を引きちぎっては口に押し込み、満足に咀嚼もせず飲み下す。
さらには滑らかな肌を鷲掴み腕を肩からもぎ取ると、骨ごと噛み砕いてあっという間に右腕をすべて食べてしまった。

「・・や・・・・・やめろ・・・・・やめ・・・・・・っ」

あまりにもショッキングな光景だった。足がすくみ、声が震える。だが、目が離せない。

腹の中から引き摺り出した内臓までもを貪り食い飲み込むと、ソロは立ち上がった。
その顔を見てレックは驚愕する。
血が染み出して赤黒く染まり、瞳孔が開いた瞳は、同じ場所で静止することなくでたらめに・・まるで痙攣しているかのように動き続けている。
両目の瞳が不規則に動き回り、眼球と皮膚の間からはどろどろに半固形化した血が流れ出てくる。
そして薄く微笑みを浮かべているのだ。

紛れもない恐怖が、レックの足元から頭までを包み込んだ。

「・・ふふ、うふふ。レック?レックぅぅう?あはははひひ、レックううううーーーーーっ」

ソロが右腕を大きく振り払うと、そこに光が集まり大型の爪武器が現れた。あれは・・・現実のソロがワンを訓練している時装備していたものだ。そしてけたたましい笑い声を上げながら一瞬で間合いを詰めてくる。

「!!」

振り下ろされたそれをなんとか剣で防いだが、その瀕死の身体からは想像もつかないような凄まじい力で押し切られ、壁に叩きつけられる。

「はっ・・・ははははははははははははっ。レックぅうう。レええええぇックうううう。ふふふふははは。助けろ、助けろよ。追いかけて来いよ!」

「・・・・・・・・・っ」

・・・・怖い。駄目だとわかっていても、恐れを抱いてはいけないとわかっていても・・・。
戦いたくない。こんなひどい姿のソロは見たくない。なぜ、どうしてこんな・・・。

「捕まえろって!逃げんじゃねえよ臆病者!!あっひっははははははは。冷たくて痛い・・・逃げるなよ逃げないで!!はははははーーっはっはっはっは・・・」

ソロは尋常ではない勢いの強攻撃を連続で繰り出しつつ、それまでの様子からは考えられないほど豹変してずっと大声で意味不明なことを喋り続けている。
倒れているソロの死体を食べてから一秒たりとも黙ることなく、絶叫に近い声で笑い続けている。

全身が震えているのがわかった。駄目だ・・・・怖がっちゃ駄目だ。助けるんだ。負けられない。負けられない。怖がるな!!

歯を食い縛って恐怖心を押し殺し、剣を構え直す。

足がすくんでしまい防御するしかなかった攻撃を飛び退いて避け、背後に回ってギガスラッシュを放った。

「うぐ・・・ふふ、うふははぁっ。痛い・・いたい・・やめて・・・いやだやめてぇぇ」

「っ!!」

それを聞いた瞬間、あの恐ろしい記憶がフラッシュバックした。自分は何もできず、痛めつけられ蹂躙されるソロの悲鳴を聞いていることしかできなかった――

全身が硬直してしまい、その瞬間を狙った回し蹴りをまともに食らってしまう。

「ぐあっ!・・・ぁ・・・・っく」

・・内臓がやられた。喉の奥から鉄の匂いのする生温かい液体が上がってくる。
すぐさまべホマを唱えて回復し、立ち上がって身構えた。・・・ソロが確実に強くなっている。おそらくレックが抱いた恐怖のイメージがそうさせているのだろう。

「・・苦しい・・・悲しい。・・・助けてくれよ、なあ・・・助けろよ!うふふ、ふふ」

大声で笑うのをやめ、ソロがふらふらと歩み寄ってくる。

「助けてくれ。ははっ・・・どうして助けてくれなかったんだ?」

「・・・・・・!」

助けてくれなかった。・・・言葉が胸に突き刺さる。

「ふふふふ、くふふっふひひはは。助けてくれなかった。お前は俺を見捨てた。ふっ、ふふふ。ひどいよレック・・・」