ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録016
「・・幸い短時間で効果が切れる種類の薬物ですので、もう少し時間さえ経てば問題ありません。中毒性のないものを選んだようです。・・・それより、なぜ突然アレルを道連れに薬をやったのか腑に落ちませんね・・・・何か心当たりはありませんか?」
「・・うーん・・・。・・・・・あると言えば・・・・・あるのかな。アレル様の人間らしい部分をボクに見せようとしたのかも。だってボクがお薬を断ったらあっさり引っ込めたからね。それくらいかな・・・」
「・・・その可能性は高いですね。しかしおそらくはその他にも要因があるはずです。ソロ」
「へーい?」
「昨日と比べて、貴方のクリアのエネルギー波動が異常な値を記録しています。・・感情が酷く不安定になっているのではありませんか?」
「馬鹿野郎、不安定どころじゃねえよ。素だと普通にしてられないからこんなバカみたいなことしてるんだ。一度薬でぶっ飛んで、そのプラスの要素だけを学習して維持すればいい、それだけのことだ。全てノープロブレムなんだよ」
「・・・。・・この波形は・・・悲しみ、ですか。一体何があったのです?何がそんなに悲しいのですか?」
「カウンセリングならカズモト先生ので腹一杯だ。・・説明してなかったが、俺にはそもそも自我がないんだよ。仕組みはコンピュータと一緒。そこに悲しみだけが発生してるんだわかるか?」
「・・・・ではなぜ・・・私には自我が?」
「詳しい話は今度してやる。・・・あーークソッ。最悪なことが判明した・・・一体どれだけ俺の仕事を増やすつもりなんだあの勘違い馬鹿どもめ・・・」
「・・・サマル。ひとまず問題はありませんので、ご心配なく。アレルは・・おそらくバッドトリップしている間の記憶は曖昧になっていると思われます。どう対応するかはご自身で判断してください。・・よろしければ、お茶でもお持ちしましょうか?」
「あ・・・うん、お願いしようかな。なんか朝から色々と疲れちゃった・・・」
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同時刻。・・ベルティーニ博士は自身のオフィスで、つい先ほど起床したところだった。
軽く身支度を整え、湯気が立つコーヒーのカップをデスクに置き、そしてそのすぐ横にあるノーメマイヤーのパネルに手を伸ばしたが・・・何かを思い直したのか、手を引っ込めた。
音声認識用のセンサーに視線を移し、唇を開く。
「・・・・・・あなたは誰?」
『おはようございます、ベルティーニ博士。わたしはノーメマイヤーです』
無機質な女性の声が問いかけに答えた。
『何かお手伝いすることはありますか?』
「・・・そうね、いくつかの質問に答えてほしいわ。あなたは、自分が何のために造られたのか知ってる?」
『勿論です。わたしはアルカディアを様々な面から支え、研究の大きな助けになると共に、皆様の生活をより安全で快適にするために造られました』
「・・ワンを知ってる?」
『はい。しかし、いくつかの候補があります。あなたが意味するのはオブジェクトレベル5No.001のことですか?』
「そうよ。あなたの彼に対する印象は?」
『そうですね・・・少し内気ですが、とても優秀で思いやりのある優しい男の子です。わたし個人としては彼が好きですよ。彼に命令しなければならなかったのは、わたしにとっては悲しく残念な出来事でした。また今度、指数関数演算の競争をしてみたいです』
「・・・・。・・・・じゃあ、ソロを知ってる?」
『はい。こちらにもいくつか候補があります。あなたが意味するのはRe.arの原初完全体でワンのオリジナルである、自称“歩くアカシック・レコード”のことですか?』
「ええ。彼についてはどう思ってるの?」
『・・困りましたね・・・実を言うと、わたしは彼が苦手です。友人にはなれそうにないタイプですね。おっと、彼には言わないでくださいね』
「・・・・・・それだけなの?他に何かない?何でもいいわ、知ってること、わかること」
『えーっと・・・時々お話することもありますが、いつも素っ気ない態度を取られますし、少し冷たい印象があります。直接仕事を頼んできたり、指示してきたりすることもありますが、必要最低限の言動しかしない人です。わたしは彼に好かれていないんでしょうかね』
・・・ベルティーニ博士は小さくため息をつき、コーヒーカップを置くと、困った声色で『今の回答では不十分でしたか?』と聞いてくる人工知能に再度質問した。
「あなたは彼を、“人”だと認識しているわけね?」
『難しい質問ですね。少々お待ちください。・・・・・・・彼はどちらかと言うと、わたしに似ていますね。もしかするとわたしのお父さんかも知れません。・・・今のは冗談ですよ。そうですね、彼はわたしよりも博識で賢いです。わたしにはわからないことでも、彼なら知っているかも知れません。そうそう、この間“ナピアスの神経回路は意外と美味い”と言っていましたよ』
・・核心の部分を避けた回答。当然ながら何の動揺も戸惑いも感じられない無機質な声。ソロの差し金か、はたまた別の要因か。・・・ベルティーニ博士はしばらく黙ったあと、問答を再開した。
「・・・・・。次の質問よ。エリックを知ってる?」
『はい。こちらもいくつか候補があります。あなたが意味するのはロックミュージシャンのエリック・V・スピアンテのことですか?』
「いいえ。違うわ。・・あなたの知り合いのエリックのことよ」
『わたしにはエリックという名の友人はいません。今度紹介してくれませんか?』
「その必要はないわ」
昨日、カズモト博士から聞かされた真実。それを確かめるため、ベルティーニ博士は言葉を繋げる。
「・・言い方を変えましょうか。
・・・あなたのことよ、エリック。あなたはあなた自身についてどれくらいのことを知っているのかしら」
・・普段はすぐに返事をするはずの人工知能が、一瞬だけ黙り込んだ。
『・・わたしはノーメマイヤーです。エリックが誰なのかわかりません。あなたの友人として登録する必要がありますか?名前が登録されていない人物の一覧を表示しますか?』
「結構よ。・・あなたは自分が造られた理由は知っていても、経緯は知らないようね。
一度質問を変えるわ。5年前に起きた、ワンのあの事件の犯人は誰?」
『あれは事故だったと記憶していますよ。もっと有意義に時間を使いませんか?』
「そう、わかったわ。エリックと話をさせて頂戴」
『あなたの知り合いにエリックという人はいませんよ。フルネームを教えてください。パーソナルナンバーを表示します』
「エリックはどこなの?」
『あなたの知り合いにエリックという人はいませんよ。フルネームを教えてください。パーソナルナンバーを表示します』
「エリックはどこにいるの」
『あなたの知り合いにエリックという人はいませんよ。フルネームを教えてください。パーソナルナンバーを表示します』
「そんなものはないわ。エリックを出しなさい」
『あなたの知り合いにエリックという人はいませんよ。フルネームを教えてください。パーソナルナンバーを表示します』