比翼の鳥は囀りて
それから数日、ルヴァはアンジェリークと会わずにいた────否、会えなかったのだ。
とにかく彼女にだけは嫌われたくなかった。
それに……向こうからやってきた形跡のない事実が、全ての答えなのではないか。
そんな重苦しい気持ちから、ルヴァは逃れる術を知らなかった。
鋼の守護聖がやってきたのはそれからすぐのことだった。
「よぉ、邪魔するぜ」
この守護聖ときたら、ノックと同時に扉を開けて入ってくる癖がある。
「ああ、ゼフェル。いらっしゃい」
お茶でも淹れようかと立ち上がったとき、目の前に見覚えのある紙袋が置かれた。
「これ、アンジェから預かってきた。ルヴァにって」
「そう……ですか。それはありがとうございます」
きりきりと胃が痛む。今は愛想笑いすらできそうもなかった。
「中見てみろ」
「今ちょっと忙しいんで、あとでゆっくりと見……」
言いかけた言葉を遮って、ゼフェルは強い調子で続けた。
「いいから見ろって。見たらイロイロわかるからよ!」
「……わかりました」
溜め息をついて恐る恐る紙袋を開けた。丁寧に梱包されリボンがかかっている。
包みを剥がし、紙の箱を開けてみる。
「……これ、は……!」
そこには見事な螺鈿細工の小箱と封筒が入っていた。
向かい合う二羽の鳥が木の枝で羽を休めている背景には、天の川のような煌めきが散りばめられていた。
「ちなみにそれ、俺が作ったやつな。デザインはアンジェが描いた。あの日、明け方にできたんで直接もってったんだよ」
指先が震えた。
もしかして。もしかして彼女は────
「なんか勘違いしてるみてーだから、あんたには言っておく。オレはあいつのこと好きだけど、あいつはオレのことなんとも思っちゃいねーよ」
「…………」
指先が震えたままもどかしい思いで封筒を開け、中を覗いた。
「…………!!」
そして、ルヴァの呼吸が一瞬、止まった。
「でも今、あいつ熱出してぶっ倒れてっからよ。元気付けにおっさん連れてってやろーかと……ってオイ!」
ゼフェルが言い終わらないうちに小箱と紙袋を掴み、女王候補の特別寮めがけて一気に駆け出していた。
「ったく……いつも人の話は最後まで聞けつってんの、あんただろーによ」
やれやれと床に落ちた封筒とカードを拾い上げた。
「なんだこりゃ。オレにはさっぱりわかんねーなー」
でもきっと、地の守護聖にはあっさり解ってしまったんだろう。
鋼の守護聖は口の端を上げて呟く。
「……お似合いだぜ、おめーら」
封筒の中にはまたカードが一枚と文香がひとつ。
────今日は暖かくて、夕日がきれいですね。 アンジェリーク