比翼の鳥は囀りて
比翼の鳥
女王試験もいよいよあと少しで終了の兆しが見えてきた。
この時点で、アンジェリークの建物数が僅かにロザリアを上回っていた。
────アンジェリークが女王になる。
自分の中に息づいていた想いに気づいてからというもの、この事実がどうしようもなく心に暗い陰を落とした。
崩壊の一途を辿る宇宙を守るためにはアンジェリークが必要なのだという気持ちと、全てを捨ててでも自分だけを選んで欲しいという浅ましい気持ちとのせめぎ合い。
内に潜むどろどろとした感情にすっかり振り回され、守護聖とはいえど自分も唯の男なのだと実感させられる。
眠れずに明け方を迎え、やがて鬱屈した気分に耐えかねて……ふらりと森の湖へと足を運んだ。
湖は神々しく静謐な空気で満ちていた。
そこには、滝の前で祈り続けるアンジェリークがいたからだ。
そのあまりにも厳かな雰囲気はルヴァの足を止め、心の内で燻り続けている迷いを緩やかに溶かしていく。
一瞬背中に白い翼が見えた、ような気がした。
(────だめだ。私には、あの翼を手折ることなどできない)
愛している。もはや彼女のいない日常には戻れないほど愛している。
だからこそ、自分一人の我侭で彼女と宇宙の行く道を閉ざすことなど、できない。
してはいけないと思えてならないのだ。
声をかけるのも少々憚られ、呆然と背を見つめているうちにあの日以来聴けていなかった歌が耳に届いた。
────金に螺鈿に 輝く星のまたたきを いまついばむ比翼の鳥となれり
天地分かつ さだめ繋ぎしこの腕 地に根ざして連理の枝となれり────
雲間から光が射し込み、天使の梯子は二人を温かく照らす。
透き通る歌声は高らかに、優しく、ルヴァの心へと染込んで……その頬をしとどに濡らした。
────鳥よ 我が魂の片割れよ きみ行く先に幸あれと思ひ染む
鳥よ 我が魂の片割れよ 曇りなき東の空囀りて────
ルヴァの心の中で二人の思い出が幾つも幾つも蘇った。
ちりちりと小さく痛む胸を押さえてそっと天を仰ぐ。確かな決意を秘めて。
(……あなたと共に歩いていけるなら、それだけで構いません。たとえあなたがどんな道を選ぼうと、それがどんなに茨の道であっても、耐えて支え抜いてみせます────)